働き方改革法の順次施行から3ヶ月。働く現場の実態や変化を考察


こんにちは、特定社会保険労務士の榊 裕葵です。

2019年4月1日より働き方改革法が順次施行となり、3ヶ月あまりが経過しました。

現在既に施行されている主な法改正項目は「時間外労働の罰則付き上限規制(大企業のみ)」、「有給休暇5日取得」、「客観的方法による労働時間把握」の3点です。

本稿ではこの3点について、社会保険労務士の目から見た、現場の実態や変化を解説したいと思います。

時間外労働の罰則付き上限規制

対応が進んでいると見られる大企業

こちらの法改正項目につきましては、まずは2019年度に関しては大企業のみの施行ですが、筆者が知る限り、大きな混乱や問題は今のところ発生していないという印象です。

数年前までは、名だたる大企業が過労死や長時間労働、サービス残業などで問題となり、メディアでも大きく報道がなされていました。しかし、筆者の肌感覚にはなりますが、従来叫ばれてきた社会問題のもと大企業は襟元を正し、時間外労働の罰則付き上限規制施行に備えてきたという様子が伺えます。

さらに、大企業の子会社の中には、中小企業として2020年4月からの適用であっても、親会社と足並みをそろえて、先んじて改正法に対応した36協定を締結し、労働基準監督署へ届け出た会社もありました

このように、大企業およびその子会社・グループ会社では、比較的対応が進んでいると言って良いのではないでしょうか。

一方で、注意点もあります。「下請け企業へのしわ寄せ」を問題視する声や、それを防止するべく動きもあるようです(※)。これでは大企業から中小企業に課題がなすりつけられただけに過ぎません。業務効率化など生産性向上への然るべき対策が求められるでしょう。

※ 働き方改革、下請け中小へのしわ寄せ防止 政府が対策 – 日本経済新聞

懸念の大きい中小企業

これに対し、筆者としては、2020年から時間外労働が適用開始となる中小企業を懸念しています。

人手や設備、手元資金の不足により、既存社員の長時間労働に頼らざるを得ない中小企業も珍しくありません。このような状態では、来年から時間外労働の上限を守り切るというのは、現実的に厳しいと考えられます。

魔法のような解決策は存在しません。現場に密着した地道な業務効率改善、無駄な会議の廃止、不採算事業からの撤退など、1社1社が状況に合わせて最大限の努力や工夫や意思決定をしていく必要があります。その上で、仮に2020年度からすぐに上限を守り切れなかったとしても、「守り切る」という目標に向かって、少しずつでも近づいていこうとする姿勢が大切ではないでしょうか

筆者の私見になりますが、労働基準監督署や裁判所も、そのような努力をしている企業に対してはある程度の猶予を与え、直ちに厳しい行政指導をしたり、刑事罰を課したりはしないと考えています。むしろ残業がステルス化するリスクがあり、本質的な解決が遠ざかるためです。国としても、残業が闇に埋もれぬよう、今のうちから先手を打っていただきたいと考えます。

有給休暇5日取得義務

有給休暇の5日取得は、企業規模に関わらず、2019年4月から施行されています。

大企業では大きな混乱はない

こちらも大企業に関しては、年間5日程度の有給休暇取得であれば、既に対応ができている企業が多く、大きな混乱はなかったという印象です。

筆者は会社員時代には自動車関係の上場企業に勤務をしていて、入社したのは今から13年前の2006年ですが、その当時で既に有給休暇を完全消化できる環境が整えられていました。企業内の労働組合が各部署の有給休暇の取得状況をモニタリングしていて、有給休暇の取得が進んでいない部門の部門長は労働組合から指摘を受けていたようです。

筆者の過去の勤務先に限らず、大企業に勤務する友人知人に話を聞いてみても、年間で5日くらいであれば、有給休暇はこれまでも取得できているので、法改正によって特別何かが変わるわけでもなさそう、というトーンの回答が大半でした。

ここ数年の定量的な推移でみても、平成28年に8.8日だった1人あたり平均取得日数は、平成29年には9.0日、平成30年には9.3日とゆるやかに増加。特に1,000人以上企業で見てみると、平成28年は10.4日、平成29年に10.6日、そして平成30年には11.2日とかなりの上昇となっています。

出典:厚生労働省「平成 30 年就労条件総合調査の概況」より抜粋

▶ 参考
平成 28 年就労条件総合調査の概況
平成 29 年就労条件総合調査の概況

3パターンに分かれた中小企業での有休取得義務化対応

これに対し、中小企業においては、時間外労働の罰則付き上限規制と同様、懸念がありそうです。

もちろん有給休暇の取得が進んでいる企業もあります。ここ数年の定量的な変化で見ても、30〜99人規模においては平成28年の7.4日から平成30年の7.7日と若干伸長しており、施行後の上昇にも多少期待できそうです。しかし一方で、有給休暇がほとんど取得できていな中小企業も決して珍しくありません。

その中で中小企業の有給休暇の5日取得義務への対応は、筆者の知る限り、傾向として3つのパターンに分類されました。

第1のパターンは、「努力型」です。
業務の効率化などを通じ、有給休暇の5日取得をしっかりと実現させようと努力を重ねている企業です。

第2のパターンは、「帳尻合わせ型」です。
従来、夏季休暇や年末年始休暇など、慣習で特別休暇にしていた日を、有給休暇の計画的取得日と再定義し、ここで有給休暇を形式的に取得させることで、一応は法改正への対応をクリアしたという形にしている企業です。

第3のパターンは、「開き直り型」です。
「弊社では有給休暇の取得なんて無理だし、社員も納得しているし……」と、法改正への対応を諦めてしまった企業です。

確かに、有給休暇を取得させなかったからといって、直ちに労基署が乗り込んできたり、刑事罰を受けるという可能性は低いと考えられます。しかし、現在はただでさえ人材不足の時代。働きにくい企業からは人材が流出し、優秀な人材ほど第1のパターンのような企業に集まるでしょう。最悪の場合「人材不足倒産」も招きかねません。

経営側にも様々な事情がありますが、開き直ったり軽視したりせず、社員が望む日に有給休暇をしっかり取得できる職場環境を構築するようにしていきたいものです。

客観的方法による労働時間把握

客観的方法による労働時間の把握は、業務効率改善の観点もあり、クラウド勤怠管理システムの導入など、企業規模を問わず対応が進んできている印象です。

ただし、企業間で「温度感」に差があると感じています。具体的には、客観的方法による労働時間の把握の本質が、「労働者の健康管理にあることを認識しているかどうか」です。

まず、認識している企業では、把握した労働時間をデータベースとして管理し、長時間労働が見られた社員には医師の面談を受けさせるなどの「ネクストアクション」につなげています。また、これまで管理監督者や裁量労働制の場合、労働時間管理が曖昧でした。しかしこれらの社員についても、時間外労働手当の発生の有無にかかわらず、健康管理の観点からしっかりと労働時間を把握しようとしている企業も見られます。

一方で、法改正を認識し、客観的な労働時間把握に努めていても、健康管理に本質があることを理解していない企業では、時間外労働の多い社員への声掛けや、医師面談などにつなげるようなネクストアクションには至っていないという印象です。

働き方改革法で労働時間の客観的把握が義務化されたのは、残業代の支払いのためだけでなく、その主目的は社員の健康管理であることを、行政や専門家が企業に対して、もっと啓蒙していかなければならないでしょう。

おわりに

働き方改革法への対応は、比較的対応が進んでいる大企業と比べ、これからは中小企業への定着にスポットライトを当てる必要がありそうです。

働き方改革法に対応できていない事情は様々だと思いますが、そもそも働き方改革法を知ろうとしていなかったり、意図的に無視をしていたりする企業には行政指導などが必要になりそうです。

一方で、働き方改革に真剣に向き合おうとしていても、始め方や効率的な対応法がわからずに困っている企業もあるでしょう。このような場合、社会保険労務士や中小企業診断士・業務改善コンサルタントなどの専門家や、HRテクノロジーベンダーなどが積極的に関与すべきではないでしょうか。

具体的には、労働環境改善や有給休暇取得状況・労働時間の集計分析など、ITを活用した管理体制構築を支援していく必要があると考えます。このような取り組みに対する助成金・補助金の充実にも期待したいところです。

特定社会保険労務士 榊 裕葵

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。「社員から信頼される会社作りをサポートする」を経営理念として、顧問先の支援に当たっている。執筆活動にも力を入れており、WEBメディアへの掲載多数。
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