こんにちは、社会保険労務士の佐佐木由美子です。
従業員が退職するとき、最後にまとめて年次有給休暇を請求するケースが時々見受けられます。
仕事が忙しく、休みが取りにくかったような職場では、有り余っている年次有給休暇を「そのまま消化せずに退職するのはもったいない……」という心理も働くのかもしれません。
勤続年数が長い場合(原則として6年半以上)は、20日(繰り越し分)+20日(当該年度分)で、最大40日付与されることもある年次有給休暇。
新しい職場に行く前に、年次有給休暇を活用して、少しリフレッシュしたいと思う方もいるかもしれません。この場合、事業主は年次有給休暇の一括請求に応じないといけないのでしょうか。
年次有給休暇を取得する際の「時季指定権」と「時季変更権」とは?
労働者が年次有給休暇をいつ取得するか、その時季を指定することができ、これを「時季指定権」といいます。事業主は、基本的に指定された時季に年次有給休暇を与えなければなりません。
ただし、事業の正常な運営を妨げる場合には、取得時季を変更することは認められています。これを「時季変更権」といいます。
会社側にとって懸念されることは、従業員が十分な引き継ぎをしないまま、年次有給休暇を使って退職されてしまうことではないでしょうか。
こうしたときに、会社としては「時季変更権」を行使したいと思うことでしょう。
しかし、仮に事業の正常な運営を妨げる場合であっても、退職日を超えて取得時季を変更することはできません。
そこで考えられる方法としては、必要となる業務の引き継ぎを終えるまでは勤務してもらい、消化しきれなかった年次有給休暇分については「買上げ」を行うというやり方です。
年次有給休暇の「買取」という手段
通達では、「年次有給休暇の買上げの予約をし、これに基づいて法第39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じ、ないし請求された日数を与えないことは、法第39条の違反である」としており、企業が一方的に買い上げることは認められていません。
ただし、退職時に未消化のまま残っている年次有給休暇や、時効によって消滅してしまう場合、また法定日数を超える年次有給休暇を付与されていた場合においては、買取が可能といえます。
買取によって従業員の在籍期間が短くなることで、社会保険料の負担が少なくなる可能性があり、この点は会社側にもメリットがあるといえましょう。
しかし、もともと慣習として退職時の買取を行っておらず、就業規則においてもそうした規定がなければ、従業員からの請求があったとしても年次有給休暇の買取に応じる義務はありません。
退職する従業員とのトラブルを避けるためにも、業務の引き継ぎに必要なマニュアル等の整備を行うなど、引き継ぎ義務に関しては就業規則に盛り込むことが望ましいです。
また、引き継ぎを怠った場合に、懲戒処分や退職金の減額等もあり得ることを規定するのも一つの方法といえるでしょう。
従業員の突然の退職は、会社にとって悩みの種といえます。あらかじめ職場や上司に退職日を相談するなど、円満に退職できるような仕組みを整えておきたいものです。