こんにちは、グレース・パートナーズの佐佐木由美子です。
春も近くなり、新生活のスタートの準備を始めるのは、労働者ばかりではありません。企業サイドとしては、新しい従業員を雇い入れるために、健康診断を実施されている頃でしょうか。
しかし、定期的なものでなく、入社時の健康診断となると、その扱い方をちゃんと把握できている方は、意外と少なかったりします。
今回は採用時の健康診断にて、労務担当者が気をつけるべきことを紹介いたします。
「雇入れ時健康診断」とは?
労働安全衛生規則第43条では、「事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、医師による健康診断を行わなければならない。」とし、雇入れ時健康診断を行うことが義務づけられています。
「雇入れ時健康診断」の法定検査項目
法定の健康診断項目としては、既往歴及び業務歴の調査やをはじめ11項目あり、雇い入れ時の健康診断においては、検査項目の省略は認められていません。
- 既往歴および業務歴の調査
- 自覚症状および他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、視力および聴力の検査、腹囲の測定
- 胸部エックス線検査
- 血圧の測定
- 尿検査
- 貧血検査
- 肝機能検査
- 血中脂質検査
- 血糖検査
- 心電図検査
「雇入れ時健康診断」の対象者
「常時使用する労働者」とは、正社員だけを指しているのではありません。
パートタイマーやアルバイトであっても、次のいずれかに該当し、かつ1週間の所定労働時間が同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上あるときは、パートやアルバイトであっても健康診断を実施する必要があります。
具体的な対象者としては下記のとおりです。
- 雇用期間の定めのない人
- 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上(※)使用される予定の人
- 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上(※)引き続き使用されている人
※特定業務従事者(深夜業、有機溶剤等有害業務従事者)にあっては6ヶ月以上
なお、通常の労働者の1週間の所定労働時間数の概ね2分の1以上である者に対しても一般健康診断を実施するのが望ましいとされています。
雇入れ時健康診断の「実施時期」はいつまで?
このように、対象となる人は雇入れ時の健康診断を実施する義務が事業主に課されています。
雇入れ時の健康診断を実施する時期については、どの程度までを目安とすればよいのでしょうか?
これについては、通達(昭和23年1.16基発第83号)では、「雇い入れの際とは、雇入の直前又は直後をいう」との解釈が示されていますが、おおむね入社前3ヶ月以内、または入社直後1ヶ月程度に実施するのが妥当といえるでしょう。
ただし、「医師による健康診断を受けた後、3ヶ月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の事項に相当する事項については、この限りではない。(労働安全衛生規則第43条但し書)」と記されているため、事業者は健康診断の実施義務を解除されることになっています。
この場合においても、先述した11の法定検査項目が満たされていることが必要です。
雇入れ時健康診断の注意点
雇入れ時の健康診断の趣旨は、常時使用する労働者を雇入れた際における適正配置、入社後の健康管理に役立てるために実施するものです。
つまり、採用選考時に実施することを義務付づけたものではなく、当然のことながら応募者の採否を決定するために実施するものでもありません。
採用の採否における判断材料として用いらないよう留意しましょう。
しかし、仮に、雇い入れ時の健康診断で、重篤な病気が見つかった場合、採用内定を取り消すことはでき得るものなのか、判断に迷うケースもあるでしょう。
この場合、勤務開始日の前日を基準として、勤務開始日から働くことができるかどうかを考えます。
労務提供が不可能であると判断される場合には、採用内定を取りけることも可能であると考えられます。
ただし、医師の診断等に基づき、慎重かつ十分な検討をした上で判断する必要があるといえるでしょう。
従業員が入社したら、定期的な健康診断を行いましょう
なお、入社後は、原則として1年以内ごとに1回、定期に健康診断を行うことが事業者に義務付けられています。これを「定期健康診断」といいます。
会社は、従業員が受けた健康診断の結果に基づいて、「健康診断個人票」を作成し、5年間保存する義務があります。
この健康診断個人票の様式については、「労働安全衛生法規則様式第5号」がありますが、必要な事項の最小限度を記載すれば、任意の様式で差支えありません。
こうした健康診断を実施することは、コンプライアンス上において、また何より従業員の健康に配慮するうえで大切なものです。
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