こんにちは、アクシス社会保険労務士事務所の大山敏和です。
現在参議院で議論されている年金改正法案(公的年金制度の持続可能性を図るための国民年金法の一部を改正する法律案)をご存知でしょうか。
今回は法案内容を「年金額の改定ルールの見直し」の観点から解説いたします。
物価変動率と賃金変動率の関係性
現行ルールでは、物価の変動率と現役世代が受け取る賃金(名目手取り賃金)の変動率を比較して、ケースごとにどちらかの変動率を採用して、新しい年の年金額を決めています。
今回の改正案でもこの考え方は変わらないのですが、どちらの変動率を採用するかの部分で、野党の言う「年金カット」になるケースがあるのです。具体的に見てみると、物価変動率が賃金変動率を上回った場合に起こります。
①物価が上昇(変動率がプラス)し、賃金が下がった(変動率がマイナス)場合
現行法では、間をとって年金額を前年度の額に据え置いていたのに改正案では、賃金のマイナスの変動率を採用します(すなわち、年金額が減ります)。
②物価が下降(変動率がマイナス)し、賃金も下がった(変動率がマイナス)場合
現行法では、マイナスの変動率が小さい物価変動率を採用していますが、これが、マイナスの変動率が大きい賃金の変動率を採用します(すなわち、年金額がもっと減額されます)。
現役世代には過酷な制度
上に述べた改正案は、何を意味しているのでしょうか。単なる年金世代いじめでしょうか。今回の改正案は、①、②をよく見れば、現役世代の賃金を基準に年金額を決めようとするものです。
逆に言えば、現行法は現役世代の賃金が物価上昇ほど上がっていないのに(あるいは物価の下落以上に下がってるのに)物価の変動に合わせて年金額を改訂しています。これは、年金世代には優しくても、年金世代を年金保険料で支える現役世代に過酷な制度ではないでしょうか。
納付率を上げるだけでは厳しくなってきた
そこで政府は公的年金制度を持続させ、将来の年金額があまりに少なくならないように調整してきました。現役世代の年金保険料の納付率を上げる方策を打ってきましたが(インプット側の対策)、それだけではなく年金額の改定(アウトプットの対策)に打って出たわけです。
年金に係る財政(将来見通し)について、政府は「有限均衡方式」といって、100年程度の長期の均衡を考え積立金水準を抑制する考え方に立って方策を打ち立てます。
そのために定期的(今年が当該年)に「財政検証」を行い、給付と負担の均衡を保つ策として今回の案が提案されたのです。