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非義務の雇用契約書を発行すべき理由。トラブル回避と作成時の注意点も解説

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目次

企業は、労働者に対し雇用契約書を発行せずとも法律違反にはなりません。しかし、雇用後のトラブル発生を回避するため、雇用時に発行するのが賢明です。この記事では、雇用契約書の書き方や注意点について、社会保険労務士 吉田 崇氏監修のもと詳しく解説します。

また、「雇用契約書の発行は必須なのかどうか」、「労働条件通知書との違いは何か」、「記載すべき項目は何か」などもまとめました。便利なテンプレートから、作成時の重要なポイント、文書管理の業務効率化を目指すために、電子化の事例も紹介します。

なお、雇用契約書を労働契約書と呼んだり、労働条件通知書を雇用条件通知書と呼んだりする場合もありますが、本稿では前者を雇用契約書、後者を労働条件通知書と呼称します。

雇用契約書作成、義務ではないが発行すべき理由

雇用者側に雇用契約書を作成する義務はなく、作成しなくても法律違反ではありません。一方、「労働条件通知書」を作成するのは義務です。まずはこの2つを混同しないよう注意してください。

ただ、雇用契約書の発行も推奨されます。未発行の場合には、さまざまなトラブルにつながると想定されるからです。

たとえば労使紛争が起きた場合、雇用者・労働者間での合意内容を客観的に示せる書類が不足することで、雇用者側の主張を通しづらくなるケースも発生しえます。

また「雇用時に雇用契約書を作成しない企業はブラックではないか」と、労働者やその周囲の人たちから疑念を抱かれるリスクもあります。そうした疑念をもたれないためにも、雇用前に合意をしっかりと取り交わし、その証として雇用契約書を発行しておきましょう。

雇用契約書と労働条件通知書の違い

 


雇用契約書労働条件通知書
法律上の作成義務なしあり
罰則規定なし30万円以下の罰金
記載すべき事項定められていない定められている
労働者の署名押印必要不要
法的効力あり

適用される法律

・民法

あり

適用される法律

・労働基準法

・パートタイム労働法

・労働者派遣法

電子化(FAX、メール、SNSメッセージ等での交付)自由にできる。ただし、労働条件通知書を兼ねる場合は労働者からの承諾が必須書面での交付が原則。労働者から承諾を得れば、電子化が可能
労働者に渡すタイミング労働開始日(試用期間含む)までに締結されているべき。労働者から質問がある可能性などを踏まえ、労働開始の数日前までに渡すことが望ましい法律上は雇入日(入社日) 一般的には内定時など、入社日より前に渡すことが多い

 

雇用契約書と労働条件通知書には、さまざまな違いがあります。雇用契約書には法律上の作成義務や罰則規定がない一方で、労働条件通知書の作成を怠ると30万円以下の罰則を科せられます。労働条件通知書は、記載すべき事項も法的に定められているのが特徴です。なお、雇用契約書を発行する際は、労働者に署名・押印が求められますが、労働条件通知書では不要です。

雇用契約書の交付方法は自由で、FAXやメール、さらにSNSでも可能です。一方、労働条件通知書は原則、書面での交付が求められています。電子書類で交付したい場合は、事前に労働者側から承諾を得なくてはなりません。

また、雇用契約書と労働条件通知書を1つの書類として作成でき、労働者の承諾を得たうえでなら、電子化しての交付も可能です。

そして、労働者側に渡すタイミングにも違いがあります。雇用契約書は、労働開始日の数日前までに渡すのが望ましいとされます。一方で労働条件通知書は、法律上は入社日(雇入日)に渡すと定められていますが、一般的には内定日など入社前に渡しておきます。

なお、これらの書類は正社員のみではなく、パートやアルバイトなど非正規社員に対しても同様に作成・発行します。

雇用契約書のつくり方

雇用契約書は、以下のようなサンプルを参考に作成するとよいでしょう。

雇用契約書のサンプル

(SmartHRの文書配付機能でご利用いただけるテンプレートサンプル。各項目に記入された{ }部分には、あらかじめSmartHRの従業員データベースに登録されている各従業員の仕事内容や雇用期間が自動で反映されます。表示企業・雇用形態ごとに変更可能です)

SmartHRの文書配付機能についての詳細は、以下の資料をご覧ください。

3分でわかる!オンライン雇用契約・文書配付

雇用契約書には被雇用者(労働者)の押印、署名が必要です。しかしその他の項目内容は定められていないため、企業や雇用形態によって変化します。たとえば在宅勤務制度を採用している企業なら、就業場所に労働者の自宅が含まれるように記載しなければなりません。作成した雇用契約書は、社労士など専門家に確認してもらいましょう。

雇用契約書のひな形を使う前に気をつけたいこと

雇用契約書に一律の形態はないため、テンプレートを使う場合も各企業・労働者の都合にフィットするようカスタマイズして利用します。カスタマイズの際は、以下の点に注意してください。

(1)複数の労働時間制度を導入している場合

フレックスタイム制や固定残業制など、複数の労働時間制度を導入している企業であれば、その旨を記載します。またパート・アルバイト・契約社員を雇用する場合は、契約期間や契約更新に関する事項は記載が不可欠な要素となるため注意が必要です。

(2)在宅勤務制度を導入している場合

在宅勤務を導入していれば、就業場所に労働者の自宅を含めたり、在宅勤務時の通信費・光熱費・備品代の扱いなども取り決めたりしたうえで、雇用契約書を作成しなければなりません。出社を命じる場合の交通費の扱いについても忘れずに記載しましょう。

※「詳細は就業規則に則る」などの書き方でも問題ありません。

(3)管理監督者を採用する場合

管理監督者として雇用する場合は、「労働基準法第41条に則り、労働基準法で定められた労働時間・休憩および休日に関する規定が適用されないこと」を特記事項などとして記載します。

なお一般に、管理監督者の早退・遅刻に関しては罰則を科せません。また実情として「自由裁量がない」と判断されれば、管理監督者とはみなされなくなります。

作成した雇用契約書・労働条件通知書に万一不備があった場合、労使間で大きなトラブルとなったり、雇用者側に罰則が適用されるケースもあります。作成の前後で、社労士などの専門家にチェックを依頼してください。

雇用契約書に含めるべき項目

雇用契約書には、労働条件通知書と重複する項目や、状況に沿ってカスタマイズすべき項目も多く存在します。ただ、労働者側と労働条件について認識を統一するためには、以下の項目をすべてそろえておくのが望ましいとされています。

また、雇用契約書と労働条件通知書を兼ねる場合は、後述する絶対的明示事項の記載が必要です。

  • 従業員、雇用者の押印や署名欄(必須)
  • 契約締結日
  • 雇用期間
  • 試用期間(定めがある場合のみ)
  • 試用期間中の賃金、試用期間後に不採用となる可能性の有無など
  • 就業場所
    • 転勤の可能性の有無や「自宅」を含めるかどうか
  • 業務内容
    • 異動、職種変更などの可能性の有無
  • 就業時間
  • 休憩時間
  • 所定時間外労働
  • 休日、休暇制度
  • 賃金
    • 基本給、交通費、諸手当、賞与の有無など
  • 昇給の有無、ルール
  • 退職についての事項
    • 定年制の有無、自己都合の場合いつまでに届け出が必要か、退職金の有無など
  • 就業規則で定めた罰則(定めがある場合のみ)

労働条件通知書はどうつくる?

ここからは、労働条件通知書をどのように作成すればよいのかについて解説します。労働条件通知書の作成は雇用者に義務づけられているため、必ず作成・発行してください。

労働条件通知書のテンプレートを利用する

厚生労働省のWebページより、労働条件通知書のテンプレートをダウンロードできます。テンプレートは、雇用形態・業務形態別にさまざまなパターンが用意されているので、自社と労働者の状況に沿ったものを選択して利用してください。

(2022.12.21 現在):

  • 【一般労働者】常用、有期雇用型 Word ∕ PDF
  • 【一般労働者】日雇型 Word ∕ PDF
  • 【短時間労働者】常用、有期雇用型 Word ∕ PDF
  • 【派遣労働者】常用、有期雇用型 Word ∕ PDF
  • 【派遣労働者】日雇型 Word ∕ PDF
  • 【建設労働者】常用、有期雇用型 Word ∕ PDF
  • 【建設労働者】日雇型 Word ∕ PDF
  • 【林業労働者】常用、有期雇用型 Word ∕ PDF
  • 【林業労働者】日雇型 Word ∕ PDF

絶対的明示事項と、相対的明示事項

労働基準法では、労働者が不利な条件で雇用されることのないよう、雇用者側に労働条件の明示を義務づけています。雇用者はこの明示事項を労働条件通知書に記載して、労働者側に書面で交付します。

明示事項には、どんな場合でも記載必須の「絶対的明示事項」以外に、該当するものがあれば記載すべき「相対的明示事項」があります。自社の状況に鑑みつつ、記載漏れがないよう注意して記述しましょう。

厚生労働省が提示している明示事項は以下のとおりです。

絶対的明示事項

  • 労働契約の期間に関する事項
    • 労働契約の期間に定めがある場合は、その期間、更新の有無、更新の判断基準を明記します。定めがなければ「期間の定めがない」で構いません。
  • 就業の場所および従業すべき業務に関する事項
    • 当該従業員が入社直後に配置される場所や、携わる業務を記載します。場所は、社名や住所を具体的に記載します。異動の可能性があれば、異動候補先も明記してください。
  • 始業および終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日・休暇ならびに労働者を2組以上にわけて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
    • 当該従業員の始業・終業時刻や、休憩・休暇などの取り決めといった労働条件を記載します。フレックスタイム制やシフト勤務など、どんな業務形態で働いてもらうかも明記してください。複数名での交替制勤務で雇用するなら、交替日・交替順序などを記載します。
  • 賃金(退職手当および臨時に支払われる賃金など以外)の決定、計算および支払い方法、賃金の締切りおよび支払の時期ならびに昇給に関する事項
    • 賃金について、締め日や支払い日の扱い(月給制や日給制など)や、支払い方法(銀行振込や手渡し)などを明記する項目です。なお、昇給に関する事項は相対的明示事項になります。
  • 退職に関する事項(解雇事由を含む)
    • 退職や解雇についても、トラブルになりやすい要素です。退職時の申出時期を明記したり、解雇事由にあたる事柄を詳細に明記したりしておくことで、トラブル発生の防止につながります。

定めがある場合に明示すべき事項(相対的明示事項)

  • 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算および支払いの方法ならびに退職手当の支払いの時期に関する事項
    • 退職手当制度を設けている際に、関連する内容を記載します。
  • 臨時に支払われる賃金(退職手当以外)、賞与およびこれらに準ずる賃金ならびに最低賃金額に関する事項
    • 通常時の賃金については絶対的明示事項ですが、賞与などについては必要に応じて記載します。
  • 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
  • 安全および衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰および制裁に関する事項
  • 休職に関する事項

(参考)採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。 – 厚生労働省

パート・アルバイトの場合

パートやアルバイトといった非正規労働者について、書面交付が義務づけられている事項は、以下の4点です。

  • 昇給の有無
  • 退職手当の有無
  • 賞与の有無
  • 相談窓口

交付しなかった場合は、パートタイム労働者1人につき10万円以下の過料が徴収されるなど、罰則が科されます。また、本人が希望する場合はメールやFAXでの明示も可能です。

(出典)Ⅲ.パートタイム・有期雇用労働法の概要  – 厚生労働省

契約社員の場合

契約社員に対しては、特に労働期間について注意深く明示しなくてはなりません。「満期になれば契約終了となるのか・自動更新となるのか」、「更新手続きはいつ、どのような条件で実施するのか」など、詳しく記載します。

なお、有期労働契約が通算5年を超えた契約社員は、雇用者に対して無期転換権を行使可能です。これを受けた雇用者は以後、当該社員を無期契約社員として雇用することになります。

また注意すべきは、労働条件通知書において労働期間を「自動更新」と記載している場合は、事実上「期間に定めのない契約」を結んでいるとみなされる可能性があることです。つまり、契約期間が5年を超えていなくても、当該社員を無期契約社員として扱っているとみなされる可能性があります。

さらに雇用者は、「3回以上有期契約を更新している契約社員」、あるいは「1年を超えて継続雇用している契約社員」に対して次回契約を更新しない場合、契約期間満了日の30日前までに当人への予告が法的に義務づけられています。

加えて、契約満了時や更新時には、あらためて労働条件通知書を作成・発行しなければなりません。

雇用契約書・労働条件通知書関連の業務をどう改善するか

雇用契約書の内容は労働者ごとにカスタマイズするケースも少なくありません。そのため契約書作成は煩雑な業務になりがちです。さらに社労士などのチェックや、雇用者・労働者双方の押印などに時間がかかることもあり、締結まで数週間を要することもあります。

少子高齢化が進む今日、企業には、限られた人員での効率的な業務運営が求められています。その有効策の1つが、書類の電子化による各人員の業務負担削減です。2019年4月からは、「労働者の合意があった場合」に限り、FAX・メール・SNSなどで雇用契約書や労働条件通知書を交付可能になりました。このルールに則った契約書・通知書の電子化は、業務効率化に寄与します。

ただし、明示項目の不足や、労働者が希望していないのに電子化して送付した場合は、労働基準関連法令違反で最高30万円の罰金が科せられます。したがって電子化に際しては、社内でマニュアル化を進めるほか、労働者への意思確認方法をルール化するなど、社内の体制づくりが不可欠です。

以下のようなチェックリストを作成するのもひとつの方法です。

  • 労働者が本当に電子メールなどによる明示を希望したか、個別かつ明示的に確認
  • 本当に到達したか、労働者に確認
  • なるべく出力して保存するように、労働者に伝える
  • PDFのような印刷・保存がしやすい形式で送付する

なおSNSで送付する場合も、PDFで添付して送りましょう。SNS上のメッセージとして、契約書・通知書の内容を直書きすることは避けてください。

雇用契約書SNSでの明示例。SNS上のメッセージとして内容を直書きするのではなく、PDFで添付して送るのが望ましい。また、明示した日付、送信した担当者の氏名、事業場や法人名、使用者の氏名などを記入するとトラブルを防止することができる

(出典)「労働基準法施⾏規則」 改正のお知らせ- 厚生労働省 

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FAQ

  1. Q1.  雇用契約書の作成は義務ですか?

    A.労働条件通知書とは異なり、法的な作成義務はありません。ただ、作成しなければ客観的な根拠に欠け、労使間で後々トラブルになる可能性があるため、作成をおすすめします。

  2. Q2. 雇用契約書と、労働条件通知書の違いは何ですか?

    A.労働者の署名・押印が必要かどうか、記載すべき事項が定められているかなどの違いがあります。一般的に、記載する事項は両者で重複する部分も多いため、1つにまとめて作成する方法もおすすめです。なお労働条件通知書の作成は雇用者の義務であり、怠れば罰則が科されます。

  3. Q3. 雇用契約書には、統一されたひな形がありますか?

    A.統一的なひな形はありませんが、SmartHRをはじめ多くの書類作成ツール・サイトがテンプレートを用意しています。ただし各企業や労働形態などで記載すべきことは変わるため、カスタマイズは必須です。作成したら、社労士など専門家にチェックしてもらいましょう。

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