「安全配慮のつもりでも…。」コロナワクチン未接種の従業員の配置転換について


こんにちは、社会保険労務士の山口です。

日本でもワクチン接種が進み、2回目のワクチン接種が完了した割合は12月7日時点で72.5%と、約3人に2人となっています。(※ 情報通信技術(IT)総合戦略室 政府CIOポータルより)一方で、さまざまな事情でワクチンを接種しない、あるいはできない方々もいらっしゃいます。

安全配慮義務の観点から、顧客との接触などの有無に応じて、コロナ感染対策の一環で配置転換や業務割り振りを再検討するケースも考えられるかもしれません。一方、不利益な変更として捉えられるケースも想定され、頭を悩まされる担当者さんもいらっしゃるのではないでしょうか。

実務上、どのように対応すべきなのか、厚労省の見解をもとに解説していきます。

厚生労働省の見解について

厚生労働省は、11月22日に更新した「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」で、「新型コロナウイルスワクチンを接種していない労働者を、人と接することのない業務に配置転換することはできますか」との問いに対して、「その目的、業務上の必要性、労働者への不利益の程度に加え、配置転換以外の感染防止対策で代替可能か否かについて慎重に検討するとともに、配置転換について労働者の理解を深めることに努めてください」と回答しています。

一般に、個別契約や就業規則などにおいて、業務上の都合により転勤や配置転換を命ずることのできる旨の定めがある場合、企業は、労働者の同意なく配置転換を命ずることが可能です。

その場合でも、配置転換は無制限に認められるわけではありません。不当な動機・目的がある場合や、配置転換の業務上の必要性とその命令がもたらす労働者の不利益について、どちらがより重いかを比べた結果として、配置転換命令が権利濫用に当たると判断される可能性があります。

厚生労働省は、人事権の1つとしての配置転換命令が一定程度有効であることを認めつつ、企業がこの権利を濫用することのないよう、「釘を刺した」といえます。

(参考) 「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」 – 厚生労働省

実務上注意すべきポイント

配置転換以前に考慮すべきポイント

厚生労働省は上記Q&Aで「配置転換以外の感染防止対策で代替可能か否かをまず検討すべき」と提言していますが、代替案としてどのような対策が考えられるでしょうか。

まず考えられるのは、リモートワークやオンライン会議・オンライン商談などの活用です。ワクチン接種者については直接参加、ワクチン非接種者についてはオンラインでの参加というように分ければ、物理的に接触機会を減らすことが可能です。

リモートワークについては、コロナ収束後においても従業員からのニーズは高いと考えられますので、どのような従業員を対象とするか、どのような働き方を求めるかなど、この機会に一度規程の内容を見直し、整備することをオススメします。

また、ワクチン接種の代替手段として、民間のPCR検査を受けてもらい、陰性証明を定期的に更新することでリスク軽減を図ることも考えられます。PCR検査は、労働安全衛生法に定めのない、いわゆる「法定外健診」ですが、法定外健診であるPCR検査の義務付けは、「業務上の必要性がある」「企業が検査費用を負担する」など、一定の合理性を備える場合は可能であると解釈されます。とくに、従業員の負担(精神的・金銭的)を減らすためにも、費用は企業側がもつべきでしょう。

もちろん、マスク着用や手洗い、こまめな換気といった、従前から実施されている基本的な感染予防対策を引き続き徹底することも必要です。

安全配慮義務の観点から、適切な業務を検討することもある

企業は労働者に対し、その安全と健康を保持するために配慮する義務を負います(労働契約法5条)。これが安全配慮義務です。非接種者に対し、対面での顧客対応業務や出張業務にあたらせないことは、非接種者を感染リスクにさらさない、という配慮によるものですから、安全配慮の観点から許容されると考えられるでしょう。

考慮の結果、配置転換が必要とされる場合

ワクチン接種は本人の自由な意思に基づくものであり、これを強制することはできません。ワクチン接種に応じないことを理由として、配置転換や解雇、異動、シフト配置、業務の制限など不利益な取扱いをするのは許されません。

しかし上述のように、企業には安全配慮義務があります。非接種者を感染リスクから守るために、特定の業務につかせないということは、その目的・理由が正当なものであり、かつ代替手段がないなどの場合には、安全配慮義務の一環として認められうるものと考えられます。

ワクチンハラスメント・パワーハラスメントにも注意しましょう

また厚生労働省は「労働者の勤務地や職種を限定する合意がある場合に、その限定の範囲を超えて配置転換にあたっては、労働者の自由な意思に基づく同意が必要であることにも留意してください」としています。

このように、個別の雇用契約において勤務地や職種を限定する特約がある場合、これをこえた配置転換・異動については合意が前提となることを理解しておきましょう。

優越的な関係を背景として配置転換の同意を強要した場合、職場におけるパワーハラスメントに該当する可能性があります。これに限らず、ワクチンの非接種者が接種を強制されたり、職場で不当な扱いを受けることを一般的に「ワクチン・ハラスメント」と呼びます。

大企業で先行適用されている「改正労働施策総合推進法(別名パワハラ防止法)」では、事業主にパワハラ防止のための雇用管理上の措置が義務付けられていることを踏まえ、こういったハラスメント事案が生じないよう、留意していく必要があります。

おわりに

ワクチン接種はコロナ対策として非常に有効ですが、万能策ではありません。2回ワクチンを接種した人でも感染する、いわゆる「ブレークスルー感染」も発生しています。接種・非接種にかかわらず、マスクや手洗いなど基本の対策を続けていくことが重要です。

また、アナフィラキシー経験者など、ワクチン接種が体質的に適していない方もいますし、ワクチンに対する考え方はさまざまです。企業には、各従業員の意思や事情を尊重しつつ、安全配慮義務に則った措置を取ることが求められます。非接種者に対する安易な配置転換や異動は、不利益取り扱いとなる可能性もあることに十分留意し、慎重に対応していきましょう。

2009年、SATOグループ 「日本社会保険労務士法人」設立とともに入所。2010年社員に就任。労務相談部門責任者として中小企業、大企業に対する労務コンサルティングを担当。就業規則諸規程のコンサルティング、判例に基づいた実務的なアドバイスなど経験多数。
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