弁護士目線で見た、テレワーク時代に進めるべき「労働条件通知書」と「労働契約書」の電子化について

2020.09.03 ライター: SmartHR Mag. 編集部

昨今の新型コロナウイルス感染症の影響により、契約書の電子化を検討する企業が増加しています。一方で、「電子化って大丈夫なの?」といった不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。

本稿では、法律事務所オーセンス 大阪オフィス支店長であり、弁護士の三津谷 周平さんによる解説をお届けします。労働契約法・労働基準法の解説から、契約書等を電子化するメリット・デメリットなどを弁護士目線で語ります。

もともと、2020年7月28日に開催された法律事務所オーセンス×クラウドサイン×SmartHR主催のオンラインセミナーの内容をもとに、記事として公開いたします。

【1】労働契約法と労働基準法についておさらい

まずは、「労働契約法」と「労働基準法」がどのような法律なのかを簡単に紹介します。

労働契約法は、労働者と使用者との間のトラブルを防止するための民事上のルールとしての法律で、労使間で合意で契約を締結することができると定められています。

一方で、「労使間で対等な契約を!」ということはなかなか難しく、実際には労働者が弱い立場に置かれることがほとんどです。そこで、労働者を保護するために存在しているのが「労働基準法」です。労働基準法は、労働条件の最低基準を定めています。

労働契約法の条文には、次のような項目があります。労働契約の内容について、使用者は労働者の理解を深めるため、書面で確認しようというものです。

また、労働者の立場を保護する労働基準法においても、「労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」とされています。

このように、法律で、契約内容や労働条件を書面により確認したり、明示したりすることが求められています。

【2】労使間での契約の実情

しかし、従業員と「労働契約書」を交わしている企業は多くないのが実情です。特に、「労働契約書」を交わすことなく、「労働条件通知書」を交付するだけというパターンがよく見られます。

なぜ、従業員と契約書を交わさない企業が少なくないのでしょうか?

以下のように、いくつか理由が考えられます。

  • 「労働契約書」の作成は義務ではない(労働契約法4条2項参照)
  • 就業規則が作成されている場合に、就業規則と重複する労働契約書を逐一交わす必要性(労働契約法7条)を感じられない
  • たくさんの労働者を雇い入れるにあたって、就業規則に書いてあることを、わざわざ書面にして、使用者から署名押印をもらうのが面倒
  • 労働条件通知書+口頭できちんと伝えているのだから大丈夫だろうと判断してしまう

しかし、これからの社会において「労働契約書」を作らなくても、本当に大丈夫と言い切れるのでしょうか?

【3】「きちんとした」契約書を交わす重要性とは

昨今は、「自分はどのような契約を締結していて、どんな権利を持っているのかを知っておきたい。」といった、権利意識の高い労働者の方が増えています。企業としても、労働契約の内容を労働者に把握、納得してもらうことで、リスクヘッジ(紛争の抑止)にもつながることから、契約書は作成すべきと考えます。

一つ事例を紹介します。とある企業が、従業員から残業代の請求を受けました。企業が契約を確認したところ、契約時に残業に関する労働条件を口頭で簡単に説明するだけで済ませていたことが判明しました。企業も従業員も、どのような契約を結んでいるのかがよくわからない状態となっていたため、最終的に労働基準法に基づいて判断するしかなかったといったケースがありました。

労働契約書をきちんと作成しておけば、余計な紛争を避けられたかもしれません。また、こういった労使間のトラブルは、従業員からの信頼低下にもつながりかねません。労働人口が減少する中で、従業員に会社に対する帰属意識を持ってもらい、人材流出を防ぐためにも、書面で契約締結を行うことは非常に重要と言えるでしょう。

【4】労働条件通知書と労働契約書も電子化の流れ

これまでは「紙」で労働条件通知書や労働契約書を作成するのが当たり前でした。

しかし、時代の変化に伴って「電子化」が進んでいます。

労働条件通知書について

「労働条件通知書」に関しては、罰則規定が設けられています。

なお、労働条件の通知に関しては、平成31年4月1日から、労働者から希望があった場合に、書面だけでなく電子メール等でも通知することが可能になりました。ただし、労働者が、受領した電子メール等を印刷できる必要でがありますので、メール+書類の添付ファイルで送るのが現実的な運用方法となっています。

労働契約書について

労働契約書については、2020年7月時点では、「紙」と「電子」のどちらで作成するかは法律上は、定められていません。

しかし、最近では、新型コロナウイルス感染症の影響を受けてテレワークが普及したことや、政府としてのハンコ不要の意見があるなど、電子化推進の大きな流れがあります。

【5】労働条件通知書・労働契約書を電子化するメリット

労働条件通知書や労働契約書を電子化するメリットを解説します。

会社側のメリット

  • 管理がしやすい
  • コストダウン
  • 業務効率化
  • 時流に沿っている(政府意見からうかがえるように、電子化の流れ。また、スマホ世代である若者から受け入れられやすい)
  • 裁判になった際、きちんとした証拠が残っている

書類を作成、印刷して、配布して、ファイルに保管して……といった面倒な作業工数が削減できるのがメリットとして大きいでしょう。また前述したように、労使間トラブルが発生した際の証拠にもなります。

労働者側のメリット

  • 管理がしやすい(紙と比較して書類紛失の恐れが低い)
  • 労働者が労働条件(労働契約)の確認が容易(紛争防止)

労働者としては、「書類をなくしちゃった。」という紙ならではの書類紛失リスクをなくすことができます。また、労働者が、労働条件を確認したいときに、いちいち紙の書類を保管場所から探す必要がありません。

一方で、電子化については、これといった大きなデメリットはありません。強いて言うなら、紙で運用してきた会社の電子化移行時の手間や、「紙の方がなんとなく安心できる」といった人が一定数いるといった点が挙げられます。

おわりに

政府意見にもあるように、今後も電子化が進むことが考えられます。そのため、各企業においても、適宜対応を進めていく必要があると考えられます。「紙」から「電子」に移行する際は一時的に負荷がかかりますが、中長期的なスパンで見れば、メリットが多くあるので、まだ「紙」で契約書を作成している企業は、是非「電子化」を検討してみてはいかがでしょうか。

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