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2026年に2.7%へ段階的引き上げへ!「障害者雇用」の今までとこれからを社労士が解説

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こんにちは。 社会保険労務士法人名南経営の大津です。

現代の人事・労務管理において障害者雇用は重要なテーマとなっています。近年はその認識も高まっているのか、毎年、障害者雇用数が増加しており、令和4年には61万3,958人となり、19年連続で過去最高を記録しました。しかし、法定雇用率達成企業の割合は48.3%といまだ半分に届かない状態が続いており、国としては、さらなる対策の強化を進めています。

そんななか、2023年度は5年に1度実施される障害者法定雇用率見直しの年に当たっており、厚生労働省では現状2.3%の雇用率を段階的に引き上げ、2026年度には2.7%とする方針を決めました。

そこで今回は、法定雇用率引き上げで注目を浴びる障害者雇用のポイントについて解説します。

障害者法定雇用率制度とは?

障害者雇用の状況 - 厚生労働省

(出典)令和5年度からの障害者雇用率の設定等について(参考資料) – 厚生労働省(p.1)

日本での障害者雇用政策は戦後まもない頃から進められてきましたが、そもそもは戦闘や疾病のために障がいのある復員兵などが少なくなく、その支援が求められました。法律としては1949年12月に「身体障害者福祉法」が制定されましたが、当時は職業訓練と職業斡旋が中心であり、十分な対策が取られているとはいえない状態にありました。

現在の障害者法定雇用率制度に相当する制度は、1952年6月の官公庁各省次官会議申し合わせにおいて、各省が身体障害者の採用を進めるという方針を立て、実施機関である公共職業安定所において職員定員の3.0%を目標に身障者採用を決めたのが最初とされています。

その後、「身体障害者雇用促進法」が1960年7月15日に可決成立し、雇用率制度が導入されることになりました。当時は努力義務規定であり、未達成の場合は「公共職業安定所長が雇用に関する計画書の作成を指示できる」程度のものとされていました。

そして、1976年10月に「身体障害雇用促進法」が改正され、身体障害者の雇用が義務化となりました。また、1998年には知的障害者、2018年には精神障害者が法定雇用率の算定基礎の対象に加えられ、現在の制度に至っています。

(参考)戦後我が国における障害者雇用対策の変遷と特徴 – 佛教大学社会福祉学部

施行時期
国及び地方公共団体
民間企業
特殊法人
昭和35年7月
現業的機関:1.4%

非現業的機関:1.5%

現業的機関:1.1%

非現業的機関:1.3%

現業的機関:1.3%

非現業的機関:1.5%

昭和43年10月
現業的機関:1.6%

非現業的機関:1.7%

1.3%
1.6%
昭和51年10月
現業的機関:1.8%

非現業的機関:1.9%

1.5%
1.8%
昭和63年4月
現業的機関:1.9%

非現業的機関:2.0%

1.6%
1.9%
平成10年7月
国及び地方公共団体:2.1%

教育委員会:2.0%

1.8%
2.1%
平成25年4月
国及び地方公共団体:2.3%

教育委員会:2.2%

2.0%
2.3%
平成30年4月
国及び地方公共団体:2.5%

教育委員会:2.4%

2.2%
2.5%
令和3年3月
国及び地方公共団体:2.6%

教育委員会:2.5%

2.3%
2.6%

(法定雇用率の変遷)

(出典)令和5年度からの障害者雇用率の設定等について(参考資料) – 厚生労働省(p.6)

現在の民間企業における法定雇用率は2.3%とされていますが、これは5年に1度見直すとされており、2023年度がその見直しの年となっています。法定雇用率は、身体・知的・精神というそれぞれの障害者の常用雇用者数と失業者数にもとづいて算定され、精神障害者の増加などの要因により、今後、以下のように見直される予定が示されています。

  • 2023年度(令和5年度):2.3%(引き上げなし)
  • 2024年度(令和6年度):2.5%
  • 2026年度(令和8年度):2.7%

2023年春の引き上げはありませんが、今後、大幅な引き上げが予定されていますので、いまのうちからその対策を進めておくことが重要です。

令和5年度からの障害者雇用率の設定について - 厚生労働省

(出典)令和5年度からの障害者雇用率の設定等について – 厚生労働省(p.1)

対象企業の基準となる「常用労働者」とは?

この障害者法定雇用率は、各企業の常用労働者数に乗じることで、法定雇用人数を計算することになります。

ここでいう常用労働者は、次のように、1年以上継続して雇用される者(見込みを含む)とされており、そのうち1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満である短時間労働者については、1人をもって0.5人の労働者とみなされます。

1.雇用期間の定めのない労働者

2.1年を超える雇用期間を定めて雇用されている者

3.一定期間(1ヶ月、6ヶ月等)を定めて雇用される者であり、かつ、過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者、又は雇入れのときから1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者(1年以下の期間を定めて雇用される場合であっても、更新の可能性がある限り、該当する。)

4.日々雇用される者であって、雇用契約が日々更新されている者であり、かつ、過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者又は雇入れの時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者(上記「2.」同様)

よって、法定雇用率が2.3%の現在においては、常用労働者数43.5人以上の企業で1人の障害者の雇用が求められますが、これが2.7%に引き上げられると、37.5人以上の企業で雇用の義務が発生します。

障害者雇用の課題と、代行ビジネスのジレンマ

現実に多くの企業で障害者雇用が進まない理由としては、以下のようなことが挙げられます。

  • 障害者に担当してもらう業務の切り出しが難しい
  • 自社の業務に対応できる障害者の雇用が難しい
  • 障害者を受け入れる設備の整備ができていない
  • 雇用した障害者の業務管理・フォローの負担が大きい

ほとんどの企業では障害者雇用の取り組みを進めていますが、上記のような課題から法定雇用率を達成できなかった際には、ハローワークの指導を受け、場合によっては社名公表をされることもあります。そのため、近年登場しているのが「障害者の雇用代行ビジネス」です。これにはさまざまなものがありますが、もっとも有名なのは農園を利用する形のサービスであり、ジレンマを抱えています。

これはサービス提供会社が、障害者雇用を進めたい企業に農園を貸し出すとともに、そこで働く障害者と指導員を職業紹介するというサービスです。その農園は指導員の管理のもとで運営され、育てられた農作物は地域で販売されたり、福利厚生として社員に配布されたりすることになります。企業としては、自社の既存業務を切り出すことなく、また障害者の業務などの管理をアウトソースすることにより、障害者雇用を進めることができるのです。

こうした代行ビジネスに対しては近年、「障害者雇用の理念に反する」「障害者雇用を金で買っている」というような批判がなされています。しかし、現実的には「企業のなかで障害者を雇用する負担が非常に大きなものになっていること」や、「結果として障害者雇用が進んでいること」を考えれば、このようなサービスの活用については、意見がわかれるところではないでしょうか。

コンプライアンスの観点から、こうしたサービスを活用してまでも雇用率を満たそうとする企業の増加を見るにつけ、現在の障害者雇用政策自体に転機が訪れているのではないかと感じます。

障害者雇用の理念

現実的に障害者を雇用することが難しい業種・職種などが存在するなか、一律に障害者の雇用を求めることは不合理ではないかという意見がよく聞かれます。この点については、障害者雇用促進法37条で下記のとおりの規定が置かれています。

全て事業主は、対象障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、適当な雇用の場を与える共同の責務を有するものであつて、進んで対象障害者の雇入れに努めなければならない。

さらには、1973年12月の「心身障害者の雇用の促進のために構ずべき今後の対策について(身体障害者雇用審議会)」という答申のなかでは「各種のハンディキャップを持つ心身障害者の職場を確保し、その福祉の向上を図ることは、すべての国民に健康で文化的な最低限度の生活を営む権利や、勤労の権利を保障した憲法の規定に照らしても、国の責務であると同時に、社会全体で解決しなければならない緊急かつ重要な国民的課題である」と述べられています。

(参考)戦後我が国における障害者雇用対策の変遷と特徴その1 – 佛教大学(p.102)

このように障害者雇用は、日本国憲法における国民の権利を背景にその理念が定められています。

適切な採用計画立案がカギ

今後、法定雇用率の引き上げが見込まれるなか、多くの企業では障害者の追加雇用の検討が求められます。現状でもなかなか自社の業務にフィットする障害者を雇用することが難しい状況にありますが、求人ニーズの増加により、さらに厳しい状況になると予想されます。

厚生労働省のサイトでは障害者雇用の好事例集が公開されており、またハローワークでも支援しています。とくに法定雇用人数に達していない企業では、早めに採用計画を立案し、着実にその雇用を進めることが求められます。

お役立ち資料

【2023年版】人事・労務向け 法改正&政策&ガイドラインまるごと解説

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