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連鎖退職対策は「採用数でのリカバリー」ではなく「内部改善」で根治を図ろう

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こんにちは、特定社会保険労務士の榊 裕葵です。

厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」という調査によると、大卒者で入社後3年以内に約3分の1が退職するという調査結果が出ています。近年の動向として、新卒1-2年目の離職状況としては、比較的落ちついているものの、一方の新卒3年目の離職状況は、平成17年3月卒以降、ジワジワと増加しています(平成17年3月卒7.7% → 平成26年3月卒 9.4%)。

新規学卒就職者の学歴別就職後3年以内離職率の推移

出典:厚生労働省「新規学卒就職者の学歴別就職後3年以内離職率の推移

また、新卒者に限らず、労働市場の流動性により、中途退職者も増える傾向にあります。

全体感としては上記のようなイメージですが、個別の企業に着目すると、ほとんど離職者が発生しない企業もあれば、連鎖的に退職が相次いでしまう企業もあります。

本稿では、後者の連鎖退職が発生してしまっている企業が取るべき対策について、筆者なりの考察も踏まえながら解説していきたいと思います。

連鎖退職に対する「採用数でのリカバリー」は逆効果

対策の1つの方向性として考えられるのは採用数でのリカバリーです。退職者が出たら、代替要員の採用で穴埋めをするという考え方です。

しかし、結論から申し上げることになりますが、筆者はこの「採用数でのリカバリー」という考え方には否定的な立場です。

その理由は、大きく3つあります。

(1)コスト面の懸念

第1は、コスト面の懸念です。

採用を行うにあたっては求人媒体に広告を出すことが多いですが、求人媒体の広告費は1回あたり数十万円になることも珍しくなく、決して安価なものではありません。また、求職者の書類審査や面接の実施などにも多くの時間や人手を要します。

さらには、入社・退職に関する社会保険や雇用保険の手続きなども頻繁に発生することとなり、人事部門の負荷を圧迫することになります。

退職者が出るたびに引き継ぎも行わなければなりませんが、引継ぎを行う時間は売上にも利益にも結び付きませんので、これも退職者の多い会社の見えざるコストの1つということができるでしょう。

(2)企業ブランドの懸念

第2は、対外的な印象面、すなわち企業ブランドの懸念です。

どのような業種であれ、お客様やお取引先様から見て、次から次にコロコロと担当者が変わる会社に良い印象はありません。「この会社と取引をして大丈夫かな?」と感じさせてしまうでしょう。

また、成長著しい新進気鋭の企業であるならまだしも、そうでない企業が年がら年中求人をかけていると「あの会社はいつも求人を出しているから、よっぽど人が定着しないのだろう」と求職者からも敬遠されてしまうことも考えられます。

特に最近は、「退職者が相次いでいる」などの情報は、インターネットや口コミによってまたたく間に広まる時代です。焼畑農業的な採用では、持続可能な人事戦略は打ち立てられないでしょう。

(3)従業員満足度の懸念

第3は、モチベーションや従業員満足度の面の懸念です。

今回の「連鎖退職」というテーマにもつながっていきますが、退職者が増えると人手不足や煩雑な引継ぎで社内環境は悪化してしまいます。

「後任者が見つかるまではこの仕事を兼務してほしい」と言われ過重労働に陥ったり、慣れない業務に突然配置転換されることで嫌気がさして、後任も辞めてしまったりという悪循環が始まります。

さらに昨今は、戦術のように悪評が広まりやすいのと同様に好評も広まりやすい時代、社員紹介で採用を行う「リファラル採用」も盛んになっています。現に、働き方改革やコーポレートブランディングに成功している企業では、「リファラル採用」での入社割合が50%を超えるケースもあります。

そんな中、転職した元同僚から「転職先がすごく良い会社だから、君もおいでよ。」と声をかけられたら、現在の職場環境に満足していない社員は早々に転職を決めることでしょう。リファラル採用の場合は、多くの場合、優秀な人材から順に声をかけられます。退職者が相次ぐ中、いくら採用を強化したとしても、元いた人材以上に優秀な人材を後任として確保するのは中々難しいと考えられます。

このように、業界特性や業界の平均を超えて、人の入れ替わりが激しい職場が採用数でリカバリーしようとするのは、穴のあいたバケツに水を注ぎ続けるようなものでしょう。

連鎖退職への対策は「内部改善」で課題の根治を

筆者は、やはり採用数でリカバリーする以前に、社内に目を向け、内部改善を図って退職者を減らすことが重要であると考えます。

その課題を把握するにあたっては、退職者に対するヒアリングできれば、もっとも早いのですが、多くの場合、本音を引き出すことができず、建前で終わってしまうかもしれません。

そこで、退職理由のヒアリングだけでなく、次のような客観的方法も加えることで、立体的に課題を捉えるのも良いでしょう。

「従業員満足度」と「従業員エンゲージメント」による分析

例えば、従業員を対象にした「従業員満足度」「従業員エンゲージメント」に関わるアンケートです(「従業員満足度」は働きやすさ、「従業員エンゲージメント」は働きがいと言い換えても良いでしょう)。

とはいえ社内でアンケート項目を考えたり集計したりするのは大変ですし、何といっても社員が構えてしまって正確な回答が得られない可能性もありますから、社外の調査サービスなどを活用するのも一手です。

最近では、「wevox」や「モチベーションクラウド」などの組織改善プラットフォームも登場しています。第三者機関が匿名性を守って集計してくれるということであれば、社員も本音ベースで回答がしやすく、会社としてもより実態に近い現状把握ができることでしょう。

得られたアンケート結果を集計し、自社の「従業員満足度」「従業員エンゲージメント」を下図のようにクロスさせたとします。

「従業員満足度」と「従業員エンゲージメント」による分析

①「従業員満足度」も「従業員エンゲージメント」も高い場合
既に内部に問題が少なく、むしろ良い状況である場合、外部との採用競争力で負けている可能性があります。
人材市場で勝ち抜くべく、採用強化が求められるでしょう。

②「従業員満足度」は高いが「従業員エンゲージメント」が低い場合
従業員満足度は高いものの、仕事のやりがいの面で課題を感じている可能性が高いです。
会社やチームのビジョンが人事評価制度と紐付き、従業員個人の活躍が自社や社会の発展に結びついているのかを可視化するなどが求められるかもしれません。

③「従業員満足度」は低いが「従業員エンゲージメント」が高い場合
働きがいは感じているものの、待遇面で満足していない可能性が高いです。
長時間労働や衛生環境など、劣悪な労働環境になっていないか見直しましょう。

④「従業員満足度」も「従業員エンゲージメント」も低い場合
労働環境などの働き方改革はもちろん、ビジネスモデルの再構築など、根本的な経営改革が求められるでしょう。

各考察はあくまで一例ですが、これら客観的な把握とともに、退職面談で得られる定性的な理由をあわせて分析することで、より立体的に課題を把握することができるでしょう。

このように社員の不満の原因は仕事内容なのか、人間関係なのか、賃金なのか、残業の長さなのか……といった仮説と検証、そして対策を打ち立て、PDCAサイクルを回していくことが重要だと考えられます。

内部強化へのコストを惜しまぬほうが良い理由

先述の通り、これらの社内調査は費用がかかるものですが、このコストは惜しまないようにしたほうが良いでしょう。退職者が出続ければ、いずれにしても求人や採用、教育などにコストが発生し続けるわけですから、それらを延々と垂れ流し続けることを考えると、どちらがより経済合理性があるのかは明白でしょう。もちろん今現在、退職者が相次いでおらずとも、その予防策になりますので、検討しない手はないでしょう。

退職者が減少し、求人や採用にかかるコストが低減されれば、その分を昇給や賞与といったポジティブな施策に生かせるようになります。

そうすると、従業員満足度の向上やリファラル採用の促進など、好循環につながることも期待できます。

まとめ

退職が連鎖的に発生するということは、多くの場合、社員の多数がその会社に何らかの強い不満を持っているからに他なりません。その「不満」の根本から目を背け、目先の採用で乗り切ろうとしても、上手くはいかないでしょう。

退職と採用のイタチごっこではなく、社員の声に耳を傾け、退職を予防し、従業員満足度も従業員エンゲージメントも高い会社づくりに励みたいものです。

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