こんにちは。浅野総合法律事務所 代表弁護士の浅野英之です。
労働法分野で注目される「パワハラ防止法(※)」の施行日が近づいています(大企業では2020年6月、中小企業では2022年4月施行)。
現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)予防のため「テレワーク」を導入する企業が増えていますが、テレワーク中でもパワハラが発生する可能性もあり、対策が欠かせません。
そこで本稿では、テレワーク環境におけるパワハラを防止のポイントを解説します。
※パワハラ防止法:改正版の「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(改正労働施策総合推進法)」の通称名。
テレワーク環境下で想定されるパワハラとは?
パワハラ防止法上、パワハラは、「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為」と定義されています。
パワハラの行為類型は、以下の6つです。
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し
- 過大な要求
- 過小な要求
- 個の侵害
続いて、テレワーク中に想定される具体的なパワハラ行為を解説します。
(1)メール・チャットでのやり取り
テレワークでは、上司が部下の業務を把握したり、指示したりするとき、メールやチャットでのコミュニケーションが主となります。
その際、過度な監視や配慮を欠いた指示は、「精神的な攻撃」あるいは「過大な要求」といったパワハラにあたることがあります。
対面よりも相手の意図や気持ちが伝わりにくいテキストコミュニケーションだからこそ、オフィス勤務時以上に注意が必要と言えるでしょう。
(2)電話でのやり取り
テレワーク環境下においては、電話によって従業員間で連絡を取ることもあるでしょう。
電話連絡は、必然的に一対一の関係となり、オフィス勤務では他者の目を気にして抑制されていた業務上の指示が、度を越えた「精神的な攻撃」につながる危険があります。
また、メールやチャットのようにテキストのログが残らないため、パワハラを特定するのも難しいです。
(3)Web会議でのやり取り
テレワークにおける会議は、ビデオカメラやマイクを用いてWeb上でおこなわれることが多いです。
その際、部屋を見せるように要求するなど、プライベートへの過度の干渉を生み「個の侵害」につながる発言がなされるなどのパワハラのきっかけとなるおそれがあります。
テレワーク環境下での従業員の相談方法について
まずは社内に、パワハラの相談窓口を設置し、これをメールやチャットなどで従業員全員に周知するようにします。
特にテレワークでは、一緒に働く上司や同僚に気軽に相談するのが難しいため、会社として相談窓口の整備が重要です。
テレワーク環境下でのパワハラを未然に防止するためのポイント
テレワーク環境下で想定されるパワハラの特徴は、他者から見えにくく、発見しづらい点にあります。
そのため、上司と部下とのやり取りが一対一とならないよう、複数人が情報共有できるルールを定め、可視化するような仕組みを会社が整えなくてはなりません。
例えば、以下のようなやり方が考えられます。
- メールではCCに他の従業員も入ったメーリングリストを追加する
- チャットツールでは、一対一のダイレクトメッセージなどでのやり取りはできるだけ控え、原則オープンチャットでやり取りする(パワハラ相談窓口は別途設ける)
- 電話連絡は可視化・記録化が難しいため、緊急性の低い電話を極力ひかえる
上記のルールは一例ですので、自社にフィットするやり方を探してみてください。
おわりに
テレワーク環境下では、オフィス勤務とは異なり就労状況が見えづらいです。そのため、パワハラがより秘密裡におこなわれ、その発覚が遅れる可能性があります。
テレワーク中のパワハラを未然に防ぐためにも、相談窓口の整備、メールや電話でのやり取りのルールをあらかじめ定めておくことが大切です。
実際にパワハラが発生した際の対応フローについては以下の記事をあわせてチェックしてください。
▶パワハラ防止法が2020年6月施行。 ハラスメント発生時の対応フローを弁護士が解説
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