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自動車通勤におけるマイカー利用の労務管理【社労士が解説】

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こんにちは。社会保険労務士の山口です。

コロナ禍の通勤において、満員電車の密を避ける手段としてマイカー通勤が注目されています。

都市圏では駐車場の確保が難点ではありますが、近年、オフィスビルの空き駐車場を貸し出すサービスや大型タクシーの相乗りサービスなど、マイカー通勤の需要を踏まえたソリューションが生まれてきています。

このように、従業員からの要望も多いマイカー通勤ですが、一番の懸念点は事故・トラブルです。マイカー利用規程を策定し、任意保険加入の義務や飲酒運転などの禁止事項を定めたうえで、周知徹底しましょう。下記にポイントをまとめました。

自動車通勤における、雇用主のリスク

自動車通勤においてマイカー通勤を許可している場合の雇用主のリスクについて解説します。

まず、企業が社用車を従業員に支給し、通勤などに利用するなかで事故が起きた場合、企業が責任を負うことになります。一方で、マイカー通勤の場合、通勤のみに使用され、業務には一切使われていない場合、マイカー通勤で事故が起きたとしても原則として企業側が責任を負うことはないと考えられます。

ただし、マイカー通勤を会社として推奨するなど、通勤規程や管理方法に不備がある場合、企業側は社用車を利用するのと同様に責任を問われるリスクがあります。

企業側に問われる責任は、民法に定める「使用者責任」と自賠責法に定める「運行供用者責任」の2種類です。

「使用者責任」とは「企業の被用者である従業員が業務の執行にあたって他人に損害を与えた場合、使用者である企業もその損害を賠償しなくてはならない」というものです。

「運行供用者責任」は、「自動車による人身事故が起きた場合に、 その自動車の運用を支配して利益を得ている立場である運行供用者(=会社)に対して 、事故の損害について賠償責任を課す」ことです。

人身事故の場合、民法より責任を負うべき者の範囲が広い自賠責法が適用され、会社が運行供用者責任を問われる可能性があります。

マイカー通勤で通勤災害が発生した場合の労災保険の適用について

まず労災保険法上、通勤とは「就業に関し、住居と就業の場所とを合理的な経路及び方法により往復すること」を指します。合理的な経路を逸れるなど、通勤と関係の無い行為によって通勤を中断するなどの場合、例外はありますが原則として通勤災害には該当しません。

マイカー通勤時に事故が発生した場合は、経路等を含めてその通勤が「合理的なものである」と労働基準監督署が認めれば、通勤災害となります。一方で、特に理由もないのに遠回りをしたというような場合は、通勤災害にはあたりません。

自動車通勤の許可基準、必要な対策について

まずはマイカー通勤規程を策定し、事前申請を要する旨や運転の際の心得、任意保険への加入義務などをしっかり定めておく必要があります。ポイントとしては以下のとおりです。

  1. マイカー通勤の対象者、許可基準(取り消し基準)
  2. 道交法の遵守、安全マナー
  3. 車両保険の加入義務と保険内容(補償額)
  4. 事故発生時の連絡手段
  5. ガソリン代、高速代などの費用負担
  6. 駐車場利用
  7. 事故やトラブルが発生した場合の免責事項

従業員の自動車通勤のために労務担当者が管理すべき情報

会社側がきちんと情報を把握し、管理するためにも以下のことを実施するとよいでしょう。

(1)マイカー利用の自動車通勤の許可更新制

許可更新制とし、従業員から申請できる制度を整備するのがよいでしょう。具体的には毎年「申請書」や「免許証」を提出させるようにします。従業員から申請が上がった際は、「車検証」なども確認する必要があります。

(2)交通安全教育を定期的に実施する

「交通安全教育」を推進することも重要なポイントです。交通ルールを遵守しているか、きちんと車両整備がなされているかなど、定期的に注意喚起を行い、事故を未然に防ぐ仕組みを作りましょう。

マイカーでの通勤事故が発生すれば、企業に責任が問われるだけではありません。従業員が長期欠勤や入院をすれば、労働力を喪失し、業務に支障をきたすことになります。また、風評リスクが発生する可能性も考えられるでしょう。自社のマイカー通勤規程に則り、しっかり管理しましょう。

適切な管理工数を確保するためにも、このタイミングで人事・労務領域で効率化するべき業務を整理してみてはいかがでしょうか。

効率するべき業務の洗い出しのヒントは、以下の資料を参考にしてください。

人事・労務領域 効率化すべき業務チェックリスト

自動車通勤者の通勤手当について

通勤手当は法律上、支給が義務付けられている手当ではありません。どのように支給するかは、会社が自由にルールを定められます。マイカー通勤時の通勤手当の支給方法として一般的なのは、km数に応じてガソリン代を支払う方法でしょう。下記の式が標準的です。

1kmあたりのガソリン単価 × 片道km数 × 2(往復)

ガソリン単価を算出するには、1Lあたり何km走るのかという「燃費」と「ガソリン代」を設定する必要があります。燃費は車種により異なりますが、1Lあたり10km前後としている会社が多いようです。

ガソリン代については、経済産業省・資源エネルギー庁で定期的に小売価格を発表しているので参考にしてみましょう。注意したいのは公共交通機関利用時と「非課税限度額」に違いがあることです。企業によっては、非課税限度額を支給の上限とするところもあります。

おわりに

コロナ禍で注目されるマイカー通勤ですが、事故やトラブルのリスクは高く、会社はしっかり備える必要があります。マイカー通勤規程を整備し、申請書を取り付ける形で運用しましょう。

お役立ち資料

【2023年版】人事・労務向け 法改正&政策&ガイドラインまるごと解説

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