社労士が解説! 東京五輪期間における労務管理の懸念点と対策


こんにちは。社会保険労務士事務所しのはら労働コンサルタントの篠原宏治です。

1964年(昭和39年)以来、56年振りに開催される東京オリンピック・パラリンピックが近づいてきました。

開催日程は、オリンピックが7月24日から8月9日までの17日間、パラリンピックが8月25日から9月6日までの13日間となっています。開催期間中とその前後の時期は海外旅行者の来日によって首都圏を中心に大きな混雑が予測されます。

しかし、通常を大幅に超えるであろう繁忙に備えて、何か対策しなければ……と考えてはいるものの、何をすればよいのかわからない人事労務担当の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、東京オリンピック・パラリンピック開催にあたって発生するであろう人事労務の課題と対策について解説します。

これを執筆している2020年3月18日時点では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、東京オリンピック・パラリンピックの開催が延期、中止される可能性もありますが、できる対策は早め早めに進めておきましょう。

時間外労働の上限規制への対応

2019年4月の労働基準法改正で「時間外労働の罰則付き上限規制」が定められました。

これによって、特別な事情がある場合でも、月100時間以上又は2~6ヶ月の平均で80時間を超える時間外労働が禁止されました。

東京オリンピック・パラリンピック開催時期には、中小企業に設けられている1年間の適用猶予期間も終了しているため、建設業や自動車運転者などの一部の業種・職種をのぞいて原則としてすべての会社に「月100時間未満」「月平均80時間以内」の上限規制が適用されます。
(有効期間の起算日が2020年3月31日までで定められた36協定は、有効期間が満了するまでの間、改正法の適用が猶予されます。)

上限時間を超える時間外労働をさせた事業主は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。

東京オリンピック・パラリンピック期間中、通常よりも大幅な労働時間の増加が予想される企業は、あらかじめ対策を講じておきましょう。

1年単位の変形労働時間制について

まず対策として考えられるのが、「臨時従業員を採用して従業員1人あたりの労働時間削減を図る」ことですが、採用募集をかけても思うように人が集まらない、業務内容によっては臨時従業員では対応が難しいといったケースもあるでしょう。

そのような場合には「1年単位の変形労働時間制」の利用が考えられます。

1年単位の変形労働時間制は、1年以内の期間を変形期間として当該期間中における1週間あたりの平均労働時間が40時間以内となるように各労働日および各週の所定労働時間をあらかじめ勤務カレンダーで定めた場合に、あらかじめ定めた時間まで時間外労働として取り扱われなくなる制度です。

【参考】
厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「1年単位の変形労働時間制」

1年単位の変形労働時間制の例

変形期間は1ヶ月を超え1年以内の任意の期間を設定できます。

例えば、7月から9月までの3ヶ月間を変形期間とし、東京オリンピック・パラリンピック期間の所定労働時間を通常よりも長く(所定労働時間を1日9時間にする、週6日勤務とする)し、開催期間終了後の9月の所定労働時間を通常よりも短く(所定労働時間を1日7時間にする、休日を増やす)するなどです。

これによって、東京オリンピック・パラリンピック開催期間中に法律の範囲内で労働時間を長くできます。

1年単位の変形労働時間制を適用するためには、あらかじめ労使協定の締結や就業規則の設定が必要です。現在の就業規則において労働時間に関する規定がどのようになっているかを確認しておきましょう。

なお、1年単位の変形労働時間制の適用によって、会社は特定の時期に通常よりも長い時間労働させても法違反(刑事的責任)に問われなくなりますが、長時間労働による健康障害を防止すべき安全配慮義務(民事的責任)は免れません。

長時間労働による健康障害防止(に伴う企業リスクの回避)の観点からは、従業員の増員やシステム改善による業務効率化などによって、1人あたりの労働時間削減する必要があると留意しておきましょう。

年次有給休暇の5日取得義務への対応

同じく2019年4月の労働基準法改正で施行された「年次有給休暇の年5日取得義務」についても対応に留意が必要です。

事業主は、10日以上の年次有給休暇が付与された従業員に対して、付与日から1年以内に5日の年次有給休暇を取得させるのが義務づけられ、違反した場合には1人につき30万円以下の罰金に処せられます。

特に留意しなければならないのが、東京オリンピック・パラリンピック期間中の繁忙が予想される企業において、2019年の8月から9月にかけて10日以上の年次有給休暇を付与している社員がいる場合です。

この場合には、東京オリンピック・パラリンピック開催に伴う繁忙期間が始まる前までに5日の取得義務を満たしておかなければ、法違反を回避することが難しくなると考えられます。

東京オリンピック・パラリンピック開催までまだ期間の余裕があるうちに、社員への取得勧奨や時季指定などによって計画的に5日の取得義務を果たしてもらうのが望ましいでしょう。

時差通勤制度を定める場合の留意点

混雑回避のために時差通勤制度の導入を予定している会社も多いのではないでしょうか。

時差通勤制度は、通勤時の混雑回避による負担軽減だけでなくワークライフバランスの向上などのメリットが期待でき、うまく活用できれば長時間労働の是正にもつながりますが、反対に長時間労働の原因となる場合があるので、留意しておく必要があります。

特に気を付けなければならないのが、いわゆる「付き合い残業」が生じている場合です。

時差通勤制度を導入すると終業時刻も社員ごとにばらばらになり、早く出勤した社員はその分終業時刻も早くなりますが、「周りはまだ働いているのに自分だけ帰りづらい」「忙しいのにあいつはもう帰るのか」という雰囲気だと、終業時刻が来ても退社できず、結果的に通常よりも早く出勤している分だけ労働時間が長くなってしまう恐れがあります。

また、上司や労務管理担当者が各社員の労働時間の把握が難しくなる、社員によっては労働時間管理がルーズになるなど、長時間労働防止のために留意すべき点も発生します。

すでに新型コロナウイルス感染症の影響で時差通勤制度を取り入れている企業もいらっしゃるかと思いますが、制度を導入する際は、長時間労働の是正とあわせて取り組むとよいでしょう。

まとめ

今回は、働き方改革による改正労働基準法への対応を中心に東京オリンピック・パラリンピックに向けて人事労務担当者が気を付けたいポイントを挙げてみました。

他に類を見ない大規模イベントであり、ほかにも様々な人事労務の問題が出てくることが想定されます。

就業規則の改正や社員への周知徹底による対応が必要となるものもあるため、早め早めに計画的に対策を進めてください。

【編集部より】働き方改革関連法 必見コラム特集

働き方改革関連法 必見コラム特集
働き方改革関連法
【こんなことがわかります】ついに施行された「働き方改革関連法」。“70年ぶりの大改革”とも言われるこの改正法について、人事労務担当者が知るべき、必見コラム集をお届けします。

  • 働き方改革関連法の優先対応事項
  • 「時間外労働の罰則付き上限規制」の注意事項
  • 36協定や特別条項は見直すべきか
  • 「年次有給休暇管理簿」の作成・保存義務とは?
特定社会保険労務士 篠原 宏治

社会保険労務士事務所しのはら労働コンサルタント代表。元労働基準監督官。特定社会保険労務士。労働基準監督官として残業代不払いや長時間労働などの労働問題に関する数多くの相談対応、監督指導(臨検)、強制捜査などを行ってきた経験を活かし、「労働問題に強い社会保険労務士」として、労使双方からのご相談に対して実務的な助言やコンサルティングを行っています。社会保険労務士事務所しのはら労働コンサルタント
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