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社労士が解説! 今月のHRニュース 2020年3月編(コロナウイルス関連/電子申請義務化/時間外労働の上限規制など)

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目次

こんにちは。特定社会保険労務士の榊です。

今月より、人事のみなさんが人事関連の話題をスピーディに把握できるように「今月のHRニュース」を執筆することとなりました。

毎年4月は年度替わりの月であり、改正法の施行や、助成金の年次見直しがあるなど、労務管理においても節目の月となります。

今年度の4月も、重要な法改正等が少なからず発生していますので、本稿で情報をご確認いただけましたら幸いです。

2020年3月のトピックの振り返り

新型コロナウイルス感染症の影響と助成金

3月に入って、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が一段と大きくなりました。在宅勤務、事業規模の縮小や休業、小中学校の臨時休校に伴うパパママの出勤困難など、企業には様々な影響が出ています。

厚生労働省からは、企業を支援するための助成金が次々に発表され、具体的な支給要件や申請方法なども見えてきました。

具体的には、新型コロナウイルス感染症の影響により臨時休業を行った企業に対する「雇用調整助成金」、コロナ対策でテレワークを導入した企業等に対する「時間外労働等改善助成金」、小中学校の臨時休業等に伴い出勤困難となったパパママ従業員に特別有給休暇を付与した企業に対する「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」などです。

また、東京都が独自の制度として、テレワークを実施する企業に最大250万円の助成金を出す制度を発表したことも注目すべきでしょう。

感染拡大やロックダウンなど懸念される点はたくさんありますが、国や地方公共団体の助成金も活用しながら、この難局を乗り越えていきたいものです。

チェックしておきたい主なHRトピック

(1)罰則付き時間外労働の上限規制が中小企業にも適用開始

この4月1日より、いよいよ中小企業にも、「罰則付き時間外労働の上限規制」が適用開始となります。

特別条項を利用したとしても、1ヶ月100時間未満(休日労働含む)、2~6ヶ月平均80時間以下(休日労働含む)、1年720時間以下の、時間外労働の上限枠を守り切らなければなりません。

この時間を超える36協定を締結することはできず、万が一、36協定を上回る時間外労働を行わせてしまった場合は、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」の罰則が適用される可能性もあります。

労働生産性の向上がこれまで以上に各企業に問われていくいくことでしょう。

(2)資本金1億円超の大企業の電子申請義務化

4月1日(以降に開始される各企業の新事業年度の初日)から、資本金1億円超の大企業が、社会保険や労働保険の一部の手続きについて電子申請義務化の対象となります。

義務化に違反した場合の罰則は定められていませんが、紙で申請した手続きが電子申請義務違反として受理されなかった場合、人事労務担当者には電子申請で再申請する二度手間が発生しますし、手続き完了が遅れることで従業員には不便や不利益が発生することも予想されます。従業員が安心して働ける会社であるためにも、電子申請義務化にはしっかりと対応していきましょう。

なお、電子申請義務化と同じタイミングの4月1日より、GビズIDを用いた新方式の電子申請もスタートします。GビズIDの取得は無料で行うことができますので、GビズIDを用いた電子申請を検討してみるのも良いかもしれません。

(3)健康保険料・雇用保険料に関する給与計算時の注意点

健康保険料の注意点

健康保険料の保険料率は、各都道府県によって異なりますが、3月分の保険料から全国的に改定されました。据え置きの都道府県もありますが、多くの都道府県で料率が改定されています。

3月分の健康保険料は4月支払分の給与からの控除となりますので、4月支払分の給与計算を行う際には、給与計算ソフトで健康保険料率の設定変更を忘れないように気を付けてください。なお、クラウド型の給与計算ソフトを利用している場合には、基本的にはソフト側で料率を自動変更してくれます。

また、健康保険組合に加入している会社の場合は、健康保険料率は各組合が独自に決めますので、今回のタイミングで保険料率の改訂があるかどうかが不明な場合は、加入先の健康保険組合に確認してください。

雇用保険料の注意点

雇用保険料の計算についても、注意事項があります。2017年1月1日から、雇用保険法の改正により、雇用保険に加入できる上限年齢が撤廃されました(従来は65歳未満)。そのため、現在は、年齢に関係なく週20時間以上の勤務者は雇用保険に加入しています。

また、恩恵的な措置により、2020年3月31日までは、64歳以上の雇用保険の加入者からは、雇用保険料が徴収されていませんでしたが、この措置が2020年4月1日から撤廃となり、年齢に関係なく雇用保険料が徴収されることとなりました

当月分の給与を当月に支払う会社は4月支払分給与から、当月分の給与を翌月に支払う会社は5月支払分給与から、64歳以上の雇用保険加入者の方についても、雇用保険料の控除が必要となります。この点についても、給与計算ソフトの設定を確認しておきましょう。

(4)キャリアアップ助成金の5%アップ要件変更

4月1日以降に正社員等に転換した従業員の方を対象とし、キャリアアップ助成金の「5%要件」の計算方法に変更がありますので、ご注意ください。

なお、5%要件とは、キャリアアップ助成金の支給要件の1つで、正社員等への転換前6ヶ月と転換後6ヶ月の賃金を比較して、5%以上の昇給がなければならないというものです。その「5%」の考え方について変更がありました。

<2020年3月31日までの転換者の計算方法>

正規雇用等へ転換した際、転換前の6ヶ月と転換後の6ヶ月の賃金(※)を比較して、5%以上増額していること

※賞与や諸手当を含む賃金の総額。
※転換後の基本給や定額で支給されている諸手当を、転換前と比較して低下させていないこと

<2020年4月1日以降の転換者の計算方法>

正規雇用等へ転換した際、転換前の6ヶ月と転換後の6ヶ月の賃金を比較して、以下のアまたはイのいずれかが5%以上増額していること

ア 基本給及び定額で支給されている諸手当(賞与を除く)を含む賃金の総額

イ 基本給、定額で支給されている諸手当及び賞与を含む賃金の総額(転換後の基本給及び定額で支給されている諸手当の合計額を、転換前と比較して低下させていないこと。)

この変更は、会社側にとって有利な変更と考えて良いでしょう。従来は、「月度給与+賞与」の合計額だけで5%アップか否かが判断されていたところ、「月度給与のみ」または「月度給与+賞与」のいずれかで5%アップ要件をクリアすれば良いことになったわけです。

基本給をしっかり昇給させても、たまたま業績の影響などで正社員転換後の賞与が少なかったため、助成金の対象外となってしまっていたようなケースが、今回のルール変更で2020年4月1日以降の正社員等への転換者については、救済されるようになると思います。

(5)大企業および派遣事業者に同一労働・同一賃金の適用開始

この4月1日より大企業および派遣事業者に、働き方改革法の一環として「同一労働・同一賃金」が適用開始となります。

既に対応を進めている企業が多いと思いますが、正社員と非正規社員を比較して、基本給や賞与の支給水準が、役割・責任の違いで説明ができないような差異が無いことや、合理的な理由なく、正社員と非正規社員で支給の有無や支給水準に差異を設けている手当が無いか等を確認し、必要に応じて是正してください。

また、派遣事業者においては、派遣社員に関する同一労働・同一賃金を実現する必要があります。

具体的には、派遣先と連携して派遣社員の賃金水準を派遣先の同一業務に従事している社員と合わせる「派遣先均等・均衡方式」か、社内で労使協定を締結して国の定めた基準に基づき派遣社員の賃金水準を決定する「労使協定方式」か、いずれかの方式で対応を進める形になります。

人事労務ホットな小話

目下、新型コロナウイルス感染症の影響で、引き続き多くの企業が苦しんでいます。

しかしながら、そのような厳しい環境の中、筆者は希望も見出しています。

このピンチを乗り越えるため、多くの企業が、テレワークの実施や時差出勤、フレックスタイム制の活用、クラウドツールの導入による業務の効率化など、様々な形で労働環境の改革に向き合っています。労使双方が危機感を持ち、柔軟で多様な働き方ができる体制の構築が急ピッチで進められています。

新型コロナウイルス騒動が一刻も早く鎮静化することを願ってやみませんが、事業環境が正常に戻った暁には、新型コロナウイルス感染症への対策で構築した効率的な労働環境が企業の財産として残ると考えられます。

売上の回復期に入ると、高い利益率や従業員に対する昇給原資の確保、福利厚生や多様な働き方の充実、といった形で、企業や労働者に還元されるのではないでしょうか。

おわりに

今年の4月は、新型コロナウイルス感染症の影響もある中、時間外労働の上限規制や電子申請義務化などの法改正にも対応しなければならない大変な月です。

筆者自身も、1人の社会保険労務士であると同時に、社会保険労務士法人の経営者でもあるので、当事者として、この環境に立ち向かっています。

この厳しい時期を乗り越えて、力を蓄えて、次のチャンスに向かっていきたものですね。

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