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withコロナ時代の「はんこ出社」をめぐる話題と、テレワーク推進を妨げる出社要因の解説

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こんにちは。株式会社SmartHR 公共政策担当ディレクターの岡﨑です。

民間の立場として公共政策に携わる中で得た、人事労務担当者にとって役立つ情報をSmartHR Mag.にて発信しています。

日本で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者が初めて確認されてから、4ヶ月半ほどが経過しました。5月25日には緊急事態宣言が全国で解除され、新型コロナウイルス感染症と共存していくフェーズに入ってきていると言えるでしょう。

そんな中、議論の高まりを見せているのが、テレワーク推進を妨げる「対面原則」「書面原則」「押印原則」です。政府は、企業などに可能な限りテレワークを実施するよう要請していますが、企業の現場では、いわゆる「はんこ出社(書類にはんこを押すための出社)」を余儀なくされる実態が浮き彫りになっています。

本稿では、押印関連の議論がどのように起こってきたかの振り返りと、テレワーク導入を妨げる具体的な対応書類の解説、今後の押印関連の流れの予想などを解説します。

押印関連の議論はどのように進んできたのか

押印関連の話題は行政や民間においてどのように進んできたのでしょうか。

まずは4月6日、自民党の行政改革推進本部規制改革チームは、「押印原則の徹底的な見直し」を盛り込んだ、「新型コロナ対応を機に進めるべきデジタル規制改革」についての緊急提言を安倍総理に申し入れました。

民間企業では、4月8日に株式会社メルカリと株式会社メルペイが取引先との契約締結時に必要な捺印や署名の手続きを電子契約サービスに切り替える方針を発表。

4月9日には、新経済連盟がコロナ問題を契機とした規制・制度 / 経営・業務改革についての政策提言を公表するなど、少しずつデジタル化促進の声が挙がっていました。

民間企業の声を受けて、押印関連の話題が注目されるように

事態が大きく動いたのは、4月14日。クールジャパン戦略、知的財産戦略、科学技術政策、宇宙政策を担う竹本内閣府特命担当大臣の記者会見での発言です。竹本大臣は会見の最後に「しょせんは民・民(民間と民間)の話なんで」と発言しました。

会見翌日には、GMOインターネット株式会社 熊谷代表取締役社長が、「決めました。GMOは印鑑を廃止します」と自身のツイッターに投稿し、その2日後には正式発表。一連の流れが多くのマスコミに取り上げられ、押印関連のルールが急激に見直される流れとなります。

4月22日のIT戦略本部会合で安倍総理は、

「IT本部が中心となって、従来のデジタル・ガバメント実行計画を見直し、全ての行政手続きについて、デジタル化の前倒しなどを至急検討してください。さらに、民間の経済活動についても、紙や押印を前提とした業務慣行を改め、オンラインでの完結が原則となるよう、民事ルールも含め、国の制度面で見直すべき点がないか、全面的な点検を行ってください」

と発言。

4月28日の規制改革会議では、小林議長は、

「テレワークの障害となっているはんこの押印を含む書面規制、対面規制の見直しにつきまして、規制改革推進会議としてできることをしっかりと行いたい」

と語りました。

併せて事務局から、経団連・日商・同友会・新経連に対して、書面規制等について緊急対応を求める現場の声を取りまとめてもらえるようお願いしていることも説明され、具体的な見直しについては緊急要望を踏まえて議論することとなりました。

このように、民間からの声を踏まえて、少しずつ押印関連の話が前に進んでいると言えるでしょう。

テレワーク推進の妨げとなっている出社要因は何なのか?

見直しが進む押印関連ですが、テレワークを推進する上で、具体的にどのような書類の対応によって出社が必要となっているのでしょうか。

もちろん、出社が必要となる要因は各企業さまざまですが、株式会社SmartHRでは、以下の業務で出社が必要な場合があります。

毎月発生するもの

  • 健康保険被保険者資格証明書
  • 健康保険証
  • 就労証明書
  • 住民税の変更通知
  • 厚生年金の保険料納付額通知等

5月度に発生したもの

  • 住民税特別徴収額通知

6月度以降発生するもの

  • 住民税特別徴収への切り替え手続き
  • 雇用調整助成金などの申請手続き
  • 新型コロナウイルス感染症による休業等対応助成金
  • 電子申請時の第3号関係届の添付書類
  • 現況票
  • 確定拠出年金書類

企業によっては、上述した業務以外にも発生するものは多々あると思いますが、重要なのは、数の大小はあるにしろ、出社するための押印業務が数多く残されているという現実です。

今こそ、民間と行政が連携し、実情を理解した上で現場課題を解決していくべきでしょう。

押印関連の今後の流れと、今、企業がやるべきこと

新型コロナウイルス感染症で事実上の外出制限となったことで、デジタル規制改革の中でも特に、人と人とが対面せざるを得ない環境を作るルールについては、見直しが進むと予想します。

押印をただ電子署名に変えるという手法論だけではなく、「そもそもその手続きが必要なものなのかどうか」の議論がまずは必要です。もし、厳格な本人確認が必要であれば、電子署名など法的に根拠のある手法を選択するべきでしょう。それでも不足する場合には、電子署名法や電子帳簿保存法などの法改正が必要となるかもしれません。

「はんこは良くない」「習慣なんて変えた方がいい」と言うことは簡単です。自社で「脱・はんこ」の流れを進めようとしても、顧客の理解を得るのは簡単ではありません。また、はんこには長い歴史があり、偽装を防ぐなどの観点からも、押印をなくすこと自体に抵抗のある方々もいますし、はんこ業界で働く労働者の方々も多くいらっしゃいます。そういった背景を無視して議論を進めることはできません。

大切なのは、過去の制度・習慣・議論の背景を把握した上で提言していくこと

我々に求められることは、これまでの制度や習慣、議論の経緯・背景をしっかりと把握したうえで、多くの人が安心し、かつ、より良い社会になるための改善策や対応策を考え、提言していくことだと思います。

今回の新型コロナウイルス感染症で、各団体、各企業からは押印問題に限らず、多くの声が政府、各省庁、各自治体には届けられています。

押印の話に限らず、withコロナの時代は、日本社会がテクノロジーの力で前進する大きなチャンス。

我々企業に求められるのは、各企業の視点から常に現場の問題点や改善点を模索し、その声を伝え続けることです。大変な時期ではありますが、ぜひとも自社の課題や要望を発信していきましょう。

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