飲食・小売業における「東京五輪シーズン」の人事労務課題と対策


こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。

2020年、五輪イヤーを迎えました。2019年のラグビーワールドカップが盛り上がったので、否が応でも東京五輪・パラリンピックに期待してしまいますね。

国内観戦者、訪日外国人の増大を見込むと、五輪期間中は、飲食・小売業にとって大きなビジネスチャンスになることは間違いありません。

今回は、飲食・小売業における東京五輪に向けた人事的課題について考察します。

【課題1】期間中の人材確保

五輪期間中は都内を中心に国内外問わず多くの観光客が訪れるため、売上アップが見込まれます。

それに伴ってスタッフの増員が必要になりますが、現在多くの業種で人手不足の傾向があり、新規採用は容易ではないでしょう。

高騰する人件費

人件費の高騰も採用競争に響きそうです。

株式会社リクルートジョブズの2019年11月度 アルバイト・パート募集時平均時給調査によると、販売・サービス系、フード系の募集時の平均時給が高騰しており、特に三大都市圏における11月度の平均時給は、前年同月比+32円(1,052円 → 1,084円)と、人件費の上昇により厳しい経営環境にあると言えます。

「働く場所」の懸念

企業のなかには、五輪期間中の公共交通機関の混雑を考慮し、オフィスワーカーなどを対象に在宅などのリモートワーク導入や、年次有給休暇の取得促進日に当てるなど対策をしています。

しかし、飲食・小売業など、店舗業では従業員に実際に出勤してもらう必要があります。

そのため、乗り換えのためのターミナル駅や、競技場近くの路線などを中心に大変な混雑が予想され、通勤できない、通勤に時間がかかり出勤時刻に間に合わないといった事態が懸念されます。

【課題2】「時間外労働の上限規制」の問題

働き方改革において重要課題である長時間労働を是正するため、「時間外労働の上限規制」が2020年4月より中小企業に適用されます。
(大企業は2019年4月より適用済み。)

慢性的な人手不足を抱える事業所では、残業してもらうことでカバーしているところも少なくありません。

「時間外労働の上限規制」により、一人あたりの残業時間を減らさざるを得ないため、必要な従業員数をいかに確保するか、従業員の生産性を向上できるかが大きなポイントとなるでしょう。

【課題3】外国人観光客対応の従業員教育

多くの店舗が、店舗の案内表示やメニュー表を外国語に対応し、写真、絵文字等の視覚記号などの活用するなど、外国人観光客への対策を予定していることと思います。

しかし、外国人観光客には日本語が通じないことも多く、外国語のメニュー表などのツールがあったとしても接客は簡単ではありません。

文化の違いから、対応に時間がかかったり、思わぬトラブルになったりすることもありますので、外国人向け接客オペレーションの構築と従業員の教育に注力する必要があるでしょう。

 

続いて、ここまでに挙げたような五輪シーズンの人事的課題を解決するための対策方法を以下にお伝えします。

【対策1】シフト制や36協定届など「雇用・労務管理」の強化

繁忙期となる五輪シーズン。シフトを組む上で36協定への理解は不可欠です。多くの飲食・小売業ではシフト制(1ヶ月単位の変形労働時間制)を適用していますが、厳格な運用ルールが求められますので、再度ルールを確認しておきましょう。

雇用管理で特に注意したいのは、36協定届、および時間外労働の状況です。五輪開催期間中は残業も発生することが予想されるためです。

基本の確認ですが、法定労働時間(1日8時間、1週40週)を超えて残業させるためには、あらかじめ36協定届を労働基準監督署に届け出なければなりません。

36協定届の新しい様式では、36協定で定める必要がある事項が変更になりました。

上限時間について労使で確認するべきチェック欄や、限度時間を超えた労働者に対する健康確保措置を講ずる欄が新たに設けられるなど、重要な変更点がありますので、厚生労働省のパンフレット「時間外労働の上限規制わかりやすい解説」にて、新様式をよく確認してください。

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雇用管理の対策をする上でのポイント

特別な事情があって、原則のひと月45時間を超える時間外労働が予想される場合、特別条項付きの36協定届を届け出ます。

この場合、原則45時間を超える時間外労働をさせることができるのは、1年のうち6ヶ月のみです。

五輪開催期間となる7月から9月の3ヶ月を対象とする場合、他の月は時間外労働を抑える必要があるため、五輪期間前に、労使で残業について話し合い、1年間の労働時間を計画しておきましょう。

【対策2】「外国人労働者」の雇用による採用強化

人手不足が予測される五輪シーズンは、単に人を増員するだけでなく、外国人とコミュニケーションを取ることができる人材をいかに確保するかが重要となります。

ですから、日本人労働者だけでなく外国人労働者を積極的に雇用するのが、ひとつの解決策として挙げられるでしょう。近年、外国人留学生の人数が増え、多くの飲食・小売業で外国人が働いていますが、彼らは外国人観光客対応の即戦力です。

接客のみならず、母国語や英語などの簡単なレッスンを日本人スタッフに実施してもらうこともできるでしょう。これにより、従業員間のコミュニケーション機会が増え、定着率がアップするなど、副次的な効果も期待できます。

外国人労働者を雇用する上でのポイント

  • 「留学生」などの在留資格による労働時間の制限があること
  • ハローワークへの外国人労働者の届け出が事業主の義務であること

など、外国人労働者を雇うときは雇用管理上、細心の注意を払います。

また、英語あるいは母国語で記載された労働条件通知書を配布し、日本で働くことに早く慣れるようにフォローしましょう。

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【対策3】職場としての魅力づけで人材確保

繁忙期となる五輪期間は、来店者数の増加や、外国語でのコミュニケーションが求められるなど、従業員にとっては通常業務より心身の負荷が増すことが想定されます。

そこで、五輪期間にいきいきと従業員に働いてもらうための魅力づけが重要となります。

スキルアップできる仕事として再認識してもらう

従業員教育をきっかけに、スキルアップが本人のモチベーションにつながります。

特に外国人観光客とのコミュニケーションは外国語を話す機会であり、「異文化に触れたい」、「外国語コミュニケーション能力を向上させたい」という意志を持った人にはもってこいです。

また、本社スタッフを店舗に派遣することもオススメです。人手不足解消だけではなく、店舗スタッフが本社スタッフと一緒に働くことで、自分の職場を就職先の対象として新たに認識したり、将来なりたい姿(ロールモデル)や会社で働く上でのロードマップを感じてもらえたりします。

期間中の待遇・手当の引き上げ

  • 時給の割増
  • 期間中の出勤日数等による手当の支給
  • 魅力的な日替わりの賄い(まかない)や食事補助

など、期間中の待遇を引き上げて、自発的に働く日数や時間数を増やしたいと思える仕掛けが必要です。

五輪期間中はなるべく多く勤務してもらえるように、このようなインセンティブを設けつつ、伝えるのが得策でしょう。

楽しんで働いてもらう工夫

仕事を「単なる作業」としてとらえていたり、やらされ感があったりでは、楽しくありません。

「セールスチャレンジデー(ウィーク)」として目標セールスを設定するなど、楽しんで働いてもらう工夫をしましょう。

また、皆勤賞やMVP、認定証等の賞を用意し、期間後の打ち上げ等で表彰するのもオススメです。
(ただしその際、提供する賞品や食事は、労働の対価として現物給与になります。各種保険料の基礎となる賃金に合算、また課税対象となりますので、十分に確認して適正に処理してください。)

おわりに

日本の飲食・小売業はサービスのレベルが高く、外国人観光客が日本の「おもてなし」を体験する機会となるのは、誇らしいことです。

五輪・パラリンピックの日程、および競技場など情報を集め、自社の商圏に合った早め早めの対策で、ビジネスチャンスを掴んでいただきたいと思います。

特定社会保険労務士 羽田未希

17年間の飲食業現場経験を持つ、異色の女性社会保険労務士として飲食業・小売業などサービス業を得意とする。パート・アルバイト活用、人材育成のコンサルティング、労使トラブルを未然に防ぐ就業規則作成、助成金申請など、中小企業の人材活用のサポートを行う。著書に『店長のための「稼ぐスタッフ」の育て方』(同文舘出版)がある。
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