こんにちは、社会保険労務士の吉田崇です。
仕事柄、社長や労働者の方から様々な質問をいただきます。
法律に照らし合わせてスパッと回答できる質問も多いですが、中には「確かに微妙なラインですねぇ……。」という質問もあります。
今回は法律で割り切れない「印象的な微妙な相談」エピソードを3つ紹介したいと思います。
Q.「退職までの有給消化期間について、通勤手当を支給するべき?」
社長「先生、来月末で退職する社員がいるのですが、明日から退職日までの残り30日間を有給消化に当てたいと言っています。」
私「あ、そうなんですね。」
社長「それ自体は問題ないのですが、、毎月支払っている通勤手当もやはり全額払わないといけませんか? 来月は実際は1日も出勤しないのに、通勤手当を払うのも、なんだかなあと思いまして。」
私「確かにそうですねぇ。」
さて、通勤手当についてですが、意外かもしれませんが、法律的には必ずしも支払わなければならないものではありません。極端な話、交通費を一切支払わなくても問題ないのです。
通勤手当の取り扱いは、就業規則にどのように定めているかで決定します。
たとえば今回のケースですと、就業規則に「通勤手当は、実際に出勤した日についてのみ支給する」と記載してあれば、退職までの有給消化日について、通勤手当を支払う必要はありません。
一方、就業規則にこのような定めがない場合は、退職までの期間についても、通勤手当を支払う必要があると言えます。
Q.「自宅でのスマホチェックは労働時間?」
社長「先生、うちではスタッフに会社のLINEグループに参加してもらって、そこで仕事のやり取りをすることがあるんです。」
私「確かに便利ですもんね。」
社長「ただ、ちょっと気になっていることがあるんです。」
私「と、言いますと?」
社長「LINEはスタッフの私用のスマホで登録してもらっているんですが、業務時間外にもLINEでの連絡を回したりすることがあります。そのスマホチェックの時間も労働時間にあたるのでしょうか? また、それ以前に、もしかしたら、私用のスマホを使わせてしまっていること自体違法なのでしょうか?」
業務時間外のスマホチェックが義務付けられている、または義務付けまではしていなくとも、チェックを怠ると、次の日の業務に支障をきたす、などという場合は、使用者の指揮命令下にあると判断できます。この場合、スマホチェックの時間は労働時間と見なされる可能性が高いといえます。
業務時間外の利用については、その必要性がないのであれば、自宅でのチェックは禁止するよう指導した方が良いでしょう。
一方、私用のスマホを使用させることについてですが、業務時間内の利用に関して言えばBYOD(Bring Your Own Device: 私物端末の業務利用)と呼ばれ、昨今一般的になりつつあります。
しかしながら、BYODを活用する場合、情報漏洩のリスクなどを考慮し、きちんとしたセキュリティ対策と、ガイドラインを作成した上で運用することが望まれます。
Q.「従業員がインフルエンザに! 診断書の提出義務は?」
社長「従業員がインフルエンザにかかりまして。解熱から3日たったんで明日から出勤すると言っているんです。」
私「それは大変でしたね。で、それが何か?」
社長「ご存じのとおり、うちは介護施設で、万が一利用者様が感染でもしたら大変です。なので、診断書を取ってきてくれとお願いしたところ、会社が診断書の費用を持ってくれるならいいけど、そうでなければ診断書はもらわないと言っているんです。」
私「ははぁ、なるほど……。」
さて、まず「診断書の提出義務」についてですが、就業規則などに規定されている場合、労働者にはそれを守る義務がありますので、診断書の提出は必須です。
一方、就業規則などに規定がない場合ですが、普通の風邪で数日休んだ程度であれば、「診断書の提出」を求めるのは難しいでしょう。ただし、インフルエンザのような流行性の感染症の場合、利用者や他の従業員の安全性を考慮し、診断書を提出させるのは、合理的な指示の範囲であると考えられます。
また、診断書を提出させる際の費用負担についてですが、必ずしも会社負担である必要はありません。
しかしながら、会社が求めて提出させるのであれば、会社が費用を負担するのがベターです。また、会社が費用を負担しないのであれば、トラブルを避ける為にも、あらかじめその旨を就業規則に規定しておくのが良いでしょう。