海外ユニコーン企業並みの成長曲線を描くスタートアップの組織作り

2018.08.02 ライター: 藤田 隼

自律駆動型組織をつくる要素 その2「強い価値観」

次の要素が「強い価値観」です。

これは「バリュー」や「判断基準」とか「価値基準」など、いろんな言葉に置き換えていただいても大丈夫です。

先日上場したメルカリさんもバリューを大事にしている会社として有名です。たとえば「Go Bold」というバリューは、我々のようなスタートアップをはじめ他の会社でも浸透しており、それほどの強烈な価値観を打ち出しています。

我々SmartHRも強い価値観を持った会社です。

先ほど、持っている情報が同じ場合、意思決定が似てくると申し上げましたが、これは大体合っているものの、このままでは正確ではありません。

正しくは、「持っている情報が同等で、かつ重視する価値観も同じ」、この場合に限って意思決定が似てくると思っています。

我々の会社の価値観を、会社の判断基準として定めています。

ビジネスモデルからの逆算

では、どうしてこのような価値観を設定したか?

我々の価値観は、ビジネスモデルから逆算してつくられています。SmartHRのビジネス上の特徴をご紹介します。

まず、対象顧客がものすごく多いんです。

SmartHRが便利にしているのが、社会保険手続きや年末調整、WEB給与明細、雇用契約など、従業員を雇っている会社であれば必ずやっていることです。

そのため、業種や規模を問わない、日本全国の会社が顧客になり得るということです。

2つ目、SmartHRの単価は高くありません。

従業員1人あたり月550円(月額換算)の、比較的安価なソフトウェアです。

3つ目、SmartHRの解約率はとても低く、月次の解約率が0.3%なんです。

SaaSの世界だと、月次解約率が2%を下回っていたらすごいねと言われる目安があります。どういうことかと言いますと、月次の解約率が2%ですと、平均して5年お客さんに使ってもらえる計算になります。5年間使ってもらえると、マーケティングにもガンガン投資できるんですね。

その中で我々の月次解約率は0.3%です。素直に計算すると、40年ほど継続する計算になるため、一応厳しめに見て10年ほど継続いただけるという想定のもと、マーケティング予算を考えています。

まとめると、SmartHRは対象顧客が多くて、単価が安くて、解約率が非常に低いサービスです。

つまり、どういうことかと言うと、営業マンが張り付くことが難しいんですよね。

対象顧客が多く、単価も高くないため、1件1件に多くの時間をかけられるわけではありません。一方で、恐らく競合が出てきても、それなりの低い解約率を維持できる競合が出てくると思っています。そうすると、リプレイスも1件1件に手間をかけることができません。

勝手に売れるほど良いプロダクトで大胆に攻める価値観

このような状況で、我々のビジネスを成功させるためには、何が必要か?

勝手に売れるほど良いプロダクトをつくる必要があると思っています。

更に、時には大胆なマーケティングや営業活動を仕掛けて、いち早くどんどん広めていくってことが必要になります。

そこから逆算して生まれたのがSmartHRの価値観です。

上の3つは、「勝手に売れるプロダクト」をつくるための価値観です。

まず「人が欲しいと思うものをつくろう」という価値観、これは我々が言い出したというよりも、YコンビネータというAirbnbやDropboxを生み出したシードアクセラレーターの、ポール・グレアムという創業者が提唱しているものです。

人の欲しくないものをどれだけマーケティングしても、どれだけ営業しても結局広まらないと。ユーザーが欲しくて欲しくてたまらなくて、使っている自分たちを自慢したくなるぐらいに良いプロダクトをつくろうということです。

次に「一語一句に手間ひまかける」「最善のプランCを見つける」

この「最善のプランCを見つける」は、どういうことかと言いますと、よく開発の現場で、「すぐにできるけどメンテナンスしにくい “プランA” か、開発に時間はかかるんだけどメンテナンスがやりやすい “プランB” か、どちらにしよう?」という議論が起きがちです。その時に両方を満たせる “プランC” がないかを模索するときに使う価値観です。

また、我々のサービスは、法律や社会保障制度などに紐付いてるものです。そのため、法律を守りつつ、しっかり顧客の利便性にも応えていく必要があります。こういった価値観をもとに「勝手に売れるプロダクト」づくりに励んでいます。

一方、下の3つの価値観は、「大胆に攻めるため」の価値観です。

「ワイルドサイドを歩こう」は、失敗してもいいからとにかく挑戦しよう、ガンガン攻めていこうという価値観です。

「早いほうがカッコイイ」というのは、レスポンスもアウトプットもどんどん早めていきましょうということです。

そして「自律駆動」は本日のテーマにもなっていますが、従業員ひとりひとりが主体性をもって、行動していこうということです。

たとえば、SmartHRでは、マーケティングの施策に関して、私はほとんど稟議に目を通しません。稟議も形式上あるといえばあるのですが、ほぼノールックに近いです。

なぜか? これは、マーケチームに全てのKPIを共有しているため、LTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得コスト)のバランスがとれていれば、基本的にノールックでやっていいよとメンバーに任せています(※)。
(※ SaaSの業界では「LTV ÷ CAC > 3」の公式が成り立つ限り、アクセルを踏むべきという指標があり、その公式が成り立っている限り各自の判断に任せている)

こういった価値観を使って、大胆に攻めるための組織をつくっています。

そして、当たり前ですが、価値観をつくって終わりではないんですよね。浸透させないと全く意味がありません。

我々が価値観を浸透させるために取り組んできたことを、いくつかご紹介します。

価値観を浸透させるための取り組み

■ 日常的に使いやすい言葉にする

まずは、「日常的に使いやすい言葉にする」ことを重要視しました。

SmartHRでは「崇高な理念より唱えやすいマントラ」を意識しています。

これは私のオリジナルの言葉ではなくて、会社の理念を考えているときにどこかで見つけた言葉の引用です。どこで見つけたか思い出せず出典を書けないのが残念なんですが、すごくいい言葉だなと思いました。「崇高な理念を掲げても、それが浸透しなかったら意味がない。唱えやすいマントラのようなものにしないといけない」といったことが書かれており、本当にその通りだなと思っています。

そこで「口に出しやすく、広まりやすい」価値観を意識しました。

たとえば「早いほうがカッコイイ」という価値観はすごく口に出しやすい言葉です。タスクの期日を決める時に「早いほうがカッコイイよね。すぐやろう」と迅速な着手につながったり、メンバーが素早くアウトプットした時に「早い! めっちゃカッコイイ!」と褒めやすかったりします。

あと、「最善のプランCを見つける」はそのまま言うと長いので、口頭では「プランC」と使うことが多いです。実際に会議で行き詰まったりすると「何かプランCないかな?」とか「そのアイデア、プランCじゃん!」といったように使います。

このように、我々の価値観は日常的な使いやすさを重視しています。実際に、社内でも日常的に使われている言葉になっています。

■ 評価制度に組み込む

次に、「評価制度」に組み込みました。従業員に「この価値観を重視してください」と言っても、従業員からすると、自分に得がないと、意識しなくなっていくものだと思います。

なので、この価値観を意識して行動し、そしてこの価値観と合致する行動が増えることが「事業にも自分にも得がある」、そう感じてもらうために、評価制度の中に組み込んでいます。

実際に、価値観に沿った行動が多い従業員は給料が上がりやすく、逆に価値観に沿った行動が少ない社員は給料が上がりづらい仕組みになっています。

■ 嫌な体験と結び付けない

3つ目に、「嫌な体験と結び付けない」。これもかなり重要視しています。

私がサラリーマン時代に勤めた会社で、朝礼時に会社のバリューブックを読み上げさせられていましたが、とっても嫌だったんです。会社のメンバーも「そういうのは嫌ですね」と、言っている方が多いです。

もちろん、価値観を浸透させたい会社側としては従業員に覚えさせるために「みんな朝礼で読んでよ」って思うかもしれませんが、従業員側からすると、命令されている感じが出て、嫌になっちゃうんですよね。しかも、朝眠い時に。

このような嫌な体験と紐付いた価値観は、浸透するどころか嫌いになっていくと思っているため、会社の価値観を朝礼で読み上げさせたりはしないと決めています。

逆に、褒めるシーンでたくさん使うことで「良い体験」と結び付けて、どんどん価値観を好きになってもらうようにしています。

■ 価値観が違う人を採用しない

あとは、そもそも会社の価値観とマッチしない人を採用しないよう気を付けています。

こちらは、実際に採用面接の時に使ってる資料です。SmartHRの価値観にマッチするかセルフチェックしてもらっています。

もちろん、面接でいらっしゃる方は大体価値観に目を通してお越しいただいていますが、一方で「価値観ってあるけど、お飾りでしょ」みたいな印象を持つ人も結構多かったりするんですよね。

ですので、その場で「この価値観は実際に評価制度と結び付いているため、価値観に合致する行動が少なければ給料が上がりづらいので、共感できない場合入社するのをやめたほうがいいです。逆に、価値観に合致する行動が多ければ給料が上がりやすいので、この価値観に共感できるのであればぜひ入ってください」と、強めに伝えています。

これについては、その場で価値観を見てもらうというよりは、家に帰った後にもう一度セルフチェックしてくださいとお願いしています。その結果、価値観に合致するメンバーが集まっています。

このように、ビジネスモデルからの逆算で定めた価値観を、様々な取り組みによって浸透させていっています。

繰り返しになりますが、持っている情報と重視する価値観が同じになって、初めて社長と従業員の意思決定が似てくると考えています。

次ページその3「フラットな組織」

1 2 3 4 5 6
藤田 隼

SmartHR Mag. 2代目編集長。ソーシャル系スタートアップでSNSマーケティングや自社メディア運営に携わり、2015年よりメディアに特化した事業会社で複数サイトのディレクターを経験した後、SmartHRにジョイン。ウェブ解析士。
他の執筆記事はこちら

働き方改革2.0の関連記事

働き方改革2.0の新着記事

飲食・小売業の人事労務特集

SmartHR スタートガイド

電子化がもたらす労務革命