生産性を向上させるデジタル時代のバックオフィスとは?【電子手続き推進フォーラム パネルディスカッション】

2019.11.14 ライター: 藤田 隼

2019年7月19日、社会保険システム連絡協議会主催イベント『電子手続き推進フォーラム -デジタルファースト時代対応に向けて』が開催されました。

行政とクラウドサービス事業者が一体となった、税・社会保険における電子化の推進を掲げる同イベントにおいて、「生産性を向上させるデジタル時代のバックオフィス」をテーマにパネルディスカッション形式で議論。

パネリストは、エフアンドエムネット株式会社 代表取締役社長 上枝 康弘さん、社会保険労務士法人セルズ 代表社員 加藤 雅也さん、株式会社SmartHR 取締役副社長・CIO 内藤 研介の3人。

モデレーターは、ラクラス株式会社 代表取締役であり、社会保険システム連絡協議会 代表幹事 北原 佳郎さんが努めます。

デジタルファースト時代に求められる、バックオフィスの働き方とは?

デジタル・ガバメントの展望

ラクラス 北原さん
まず最初に、各パネラーの方々から、デジタル・ガバメントの展望について、それぞれの立場からお話しいただきたいと思います。SmartHRの内藤さんからお願いいたします。

iPhoneのマイナンバー読み取り対応で電子申請普及が進む?

SmartHR 内藤
まず、iPhoneでマイナンバーを読み取れるようになるのは、初めて知って驚いた方も多いのではないでしょうか。

エンジニアの視点からすると、ブラウザで使用するシステムはカードリーダーとの相性が良くないこともあり電子証明書って扱いづらいんです。

Androidは既に対応していましたが、iPhoneも対応するとなると、AndroidとiPhoneをあわせて多くのユーザーをカバーできるはずです。それぞれの端末から連携アプリを使えると、電子証明の利便性が上がるのではないでしょうか。これにより、電子証明書という電子申請普及の1つの課題が解決できるんじゃないかなと非常にワクワクしています。

皆さんは、何かこのあたりで気になったことはありますか?

利便性とセキュリティの両立が肝心

エフアンドエム 上枝さん
私はBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)に携わっており、その観点では、書類の提出部分だけでなく、書類回収や申請後の返戻書類などをどのように手元に残すかが関わってくるかなと思っています。

そんな中、浅岡さん(内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 企画官)のお話に、「マイナポータルを通じて、様々な書類の回収自体が不要になる」というようなお話がありました。保険や銀行などの各社がマイナポータルのAPIに対応してもらえると、そのAPIからデータを取得すれば、資料を集めなくても会社に情報が届き、ものすごく便利な時代になるのではないかと感じています。

その分、本人確認等については、情報レベルに合わせたセキュリティが必要になってくるため、利便性とセキュリティをどう両立させていくのかに、とても興味があります。

加藤さんはいかかですか?

認知に課題があるマイナポータル

セルズ 加藤さん
マイナポータルで色々できることが、より明らかになったなと感じています。その一方で、課題もありそうです。

先日弊社に会社見学をしたいという方が数名いて、面談をしたんですが、その方々に「マイナポータルって知っていますか?」と聞いたところ、誰一人として知らなかったんですよね。

マイナポータルはすごく便利だなと思う反面、これから社労士の先生方や各ベンダーが周知のための活動をしていく必要があると感じました。

優先対応されつつある電子申請の窓口対応

北原さん
ありがとうございます。この「社会保険システム連絡協議会」ができまして数年が経ちますが、立ち上げ以前から現在に至るまで、政府の対応が好意的に変わってきている手応えを感じます。

社労士法人を経営されている加藤さんから、このあたりの変化について、コメントをいただけますでしょうか?

セルズ 加藤さん
確かに、以前に比べると電子申請の窓口対応もずいぶん円滑にできるようになったと感じます。

一方で、年金事務センターなどの現場の方々は、まだまだ苦労されている印象もあり、官民一体となって色々なことに取り組む必要があるのではないでしょうか。

SmartHR 内藤
窓口の対応について、以前は紙申請のほうが電子申請より対応が早いという意見がよく出ていました。

しかしそれはよくないよねと、電子申請を優先的に対応するように変わったと伺っていますし、実際にそのように対応をいただけている実感はあります。

株式会社SmartHR 取締役副社長 CIO 内藤 研介
カリフォルニア州立大学でコンピュータサイエンスを専攻。卒業後、フューチャーアーキテクト株式会社でメッセージングミドルウェアや分散データストアの研究開発、金融機関向けのシステム開発に携わる。2013 年、株式会社 KUFU(現 SmartHR)を創業。2015 年クラウド人事労務ソフト「SmartHR」を公開。社会保険システム連絡協議会メンバー。未来投資会議 産官協議会に参加。情報セキュリティスペシャリスト。

労務の現場の課題

北原さん
続いて2つめのテーマとして、労務の現場の課題をどのように把握されているかについてお話しいただきたいと思います。

アナログ対応が残り、データ活用しづらい状況

SmartHR 内藤
電子申請は徐々に普及しつつありますし、送信するデータもちゃんと形式化されたデータで送信されている。

ただ、社会保険分野だと、添付ファイルが多いことがよくあります。たとえば、お子様が生まれて、被扶養者届の添付ファイルなどではPDFだったりするんですね。せっかく申請する書類のデータ自体は電子化されているのに、添付書類がPDFではアナログの状態です。

この場合、PDFを印刷して押印し、またPDFで取り込んで添付する、といった作業が必要になりデータ活用しづらい状況といえます。

もちろん、これらの課題は行政側も認識し対応されることも伺っていますが、現状としてはまだ課題があるのかなと認識しています。

エフアンドエム 上枝さん
健保組合が紙対応のため、どうしても全体的に紙対応フローにせざるを得ないともよく聞きます。このあたりに関しては、今後のマイナポータルに進化に期待したいと思います。

あとは、受付窓口で聞くたびに担当者ごとに回答が変わるようなケースも現状はまだあるので、しっかり統一化される仕組みができてくれるとうれしいなと感じます。

セルズ 加藤さん
私の実例を紹介します。最近、3人目の子どもが生まれまして、普段の手続きは職員に任せているものの、たまには自分でやってみようということで、つい先日、被扶養者届を作成したんです。

電子申請で手続きしたんですが、しばらくすると返戻されたんですよね。「なぜだろう、問題ないはずなのにな」と思ったら、マイナンバーが書いていないということで返戻されたと。しかも、住民票も添付されていないということでおかしいなと。

出生届も私が区役所に行って手続きをしたんですが、「マイナンバーは1ヶ月後に通知カードが送られてくるので、そちらを確認してください」と言われたんです。すぐ手に入らないんだなと思い、そのままマイナンバー無しで被扶養者届を作成したんですが、住民票が無いだとか、マイナンバーがないということで返戻され、困ったなと。

ちなみに、私は名古屋在住なんですが、名古屋は住民票をコンビニで受け取れない地域なんです。なので、また区役所に行って書類をもらい手続きを行う。

結果的に、子どもが生まれてから保険証が手元に届くのに、約1ヶ月半かかってしまいました。

今後少しずつ改善されていくだろうとは思いますが、まだまだ課題があるなと感じています。

北原さん
PDFやデジタルデータとして扱えないものに関しては、まだまだ課題があるというような認識でしょうか?

SmartHR 内藤
そうですね。

ただ、今後マイナンバーが普及していくと、インターネット上でつながって、そもそもデータを送信する必要すらなくなるんじゃないか、みたいなことも考えられそうですし、非常に期待しています。

2020年電子申請義務化で徐々に訪れる電子化の波

北原さん
ただ、すべてを紙で対応している方もまだまだ多いなかで、紙でやっていたことを電子申請に変えると、「窓口に行かなくていい」「申請後の進捗がわかる」など、シンプルなメリットは感じてもらいやすいんじゃないかと思っています。

SmartHR 内藤
手続き申請の際には、役所への往復の時間もかかりますし、窓口で待つ時間もかかります。電子化するとこのような課題も解決できるメリットがあるので、非常に有用ですね。

セルズ 加藤さん
社労士業界も、2020年4月からの電子申請義務化を控え、その対象となる比較的規模の大きい企業(※)からのオファーが増え、電子化の波が徐々に来ていると感じています。
(※ 電子申請義務化対象企業:事業年度開始の時における資本金の額、出資金または銀行等保有株式取得機構がその会員から納付された当初拠出金の額及び売却時拠出金の額の合計額が1億円を超える法人、相互会社、投資法人及び特定目的会社)

エフアンドエム 上枝さん
このあたりの業務効率化がうまい企業は、「全部が全部効率化できるわけじゃないから始めない」みたいな考えはなく、効率化できる部分から少しずつ推進して、時間を有効活用しようと考えている特徴があると感じています。

エフアンドエムネット株式会社 代表取締役社長 上枝 康弘さん
香川県高松市出身1975年生。1998年株式会社エフアンドエム入社。2006年財務コンサルティング事業本部 本部長、2010年総務コンサルティング事業本部 本部長として既存2事業を牽引、2012年新規事業SR STATION事業を立ち上げ。2015年エフアンドエムネット株式会社(株式会社エフアンドエム100%出資)代表取締役社長。2016年クラウド労務管理システム「オフィスステーション」をローンチ。「全ての事業者が本業に集中できる社会」を実現するために日々活動している。

電子申請の普及に向けて

北原さん
ありがとうございます。次のテーマは「電子申請の普及に向けて」ということで、繰り返しになって恐縮ですが、たとえば、企業規模や業種によって普及スピードの差はあるのでしょうか?

大企業と中小企業で異なる電子証明書の課題

セルズ 加藤さん
規模の大きい企業では、電子証明書の取り扱いがボトルネックになりやすい課題があります。会社に1つしかない電子証明書を、人事や総務の方が気軽に使えるような状況ではないんです。

北原さん
逆に、そうなると社労士の皆さまが活躍する余地が大きいんじゃないですか?

セルズ 加藤さん
本来そうだと思うのですが、社労士の方々も、そこまで大きな企業規模になると対応できていないのも現状ではないでしょうか。とはいえ、少しずつ変わりつつある実感もあります。

SmartHR 内藤
逆に小規模の企業では、手続き件数自体があまり多くなく、電子証明書の取得や管理に必要なコストが響いてきて、電子申請をやっていないケースも結構あるようです。

北原さん
今はどのぐらいのコストがかかるんですか?

エフアンドエム 上枝さん
最近、弊社で手続きをやりましたが、2万円弱です。

▼参考:電子証明書発行手数料

出典:総務省「電子証明書の証明期間と発行手数料

北原さん
そうですよね。何十万円という金額ではないですよね。

SmartHR 内藤
そこまで高いわけではないので、手数料そのものより取得しに行く手間が惜しいのだと考えられそうです。Windowsのソフトを立ち上げて、情報を入力し、書類を印刷して、持っていって、お金を払って……みたいな流れで、その手間や時間的なコストを気にしているのかもしれません。

大企業ほど電子申請対応の業務効率化メリットが大きい

北原さん
弊社のクライアントは、比較的大きい企業が多いんですが、その場合は、電子申請の効果が絶大です。

紙で申請するということは、紙の枚数と作業時間が比例して増えますので、従業員数や入退社が多い企業は、その分だけ処理に時間がかかります。

電子申請の場合は、データを作る手間は変わりませんが、データさえ作れば、それぞれ別のハローワークに持っていく必要がありませんし、申請中の手続き進捗も確認できます。

エフアンドエム 上枝さん
電子証明書の取得に関しては、「取り方がわからない」「サイトを見ても情報が載っていない」という声を聞くため、実は弊社も独自の取得マニュアルを作成しています。お問い合わせをいただいたら、そのマニュアルを渡してトライしていただくと。法務局に1回行けば取得でき、あとは楽になります。

小規模の企業では、広範な業務を1人の方が兼任されているケースが多いので、ぜひ電子申請によって少しでも効率化していただきたいです。

1つのID・パスワードで行政サービスを活用できる「gBizID」への期待

セルズ 加藤さん
電子証明書は確かに色々とハードルが高いかもしれませんが、1つのIDやパスワードで行政サービスを活用できる、法人共通認証基盤「gBizID」なども、今後取得していかなければいけないのかなと感じています。

先日、弊社も「gBizID」を取得したんです。「gBizID」のサイトから申請書を作成して、必要事項をPDFに記載し、印鑑証明書を付けて窓口に送ると。それで、1ヶ月ぐらいかかるのかなと思ったら、ほんの2~3日でメールが送られてきて「gBizプライム」というIDを取得できました。

今まで会社の電子証明書は1社につき1つでしたが、そこからいくつかIDが作成できますので、今後マイナポータルを利用するときに必要になるのではないでしょうか。その「gBizID」を、今後ベンダーも社労士も、使えるようにならなければいけない気がしています。

SmartHR 内藤
ID・パスワードじゃなくて、電子証明書を使う前提ですと、マイナンバーカードを利用した電子署名などのやり方も考えられそうです。スマートフォンなどの、ID情報を読み取れるデバイスが増えているので、マイナンバーを使って署名し送信する、というのも1つの未来としてあると感じています。

普及に向けたインセンティブ設計が必要?

エフアンドエム 上枝さん
普及に向けては、電子申請をしたら専用のポイントが貯まるような、何かしらのインセンティブがあるといいなと常々思います。

さきほど、加藤さんと内藤さんから電子申請で処理が早くなったとお話がありましたが、地方での現状は、必ずしもそうとは限らないようです。

これは社労士先生から伺った例ですが、電子申請をすると数日間返戻がこないものでも、直接役所に持っていったらその場で処理をしてもらえるので、あえて役所に行っているケースもあるようです。実際にそれでクライアントが喜んでくれているため、「電子申請で行うことだけが正しいのか?」と考えさせられる事例といえます。

何度か提言したことがあるのですが、たとえば役所の窓口人数を10分の1にしてもらって、「1日10件までしか受付できません、紙での申請は10日間を要します。紙ではなく電子申請だったら即日対応します。」このような感じで電子申請を優先対応するようにしたら、自然と広まるのではないでしょうか?

私たちは経理関係の業務も一部取り扱っていますが、アメリカは年末調整制度がなくて、確定申告を国民全員が自分でやらないといけないんです。とはいっても、ほとんどの方は自分でやるのが大変なので、100ドルぐらいの手数料を払って、確定申告代行会社に委託をしています。

その委託サービスが広がったのは、アメリカでいう国税庁や税務署の窓口人数を減らして、直接窓口に来ても対応しきれませんと国が宣言してからだと聞いています。このような荒療治も必要なんじゃないかなと提言していますが、なかなかそういうわけにもいかないと回答をいただいています。

北原さん
飴と鞭がないとなかなか普及しないというのは確かにそうですね。15%(※)でも、結構増えてきた感覚もありますけれども。
(※ 平成29年の社会保険・労働保険分野における改善促進手続のオンライン利用率

セルズ 加藤さん
マイナンバーの情報を会社に提出したくない方はまだまだいらっしゃいますので、「5,000円プレゼントキャンペーン」じゃないですけれども、普及に向けた取り組みを積極的にやっていかければならないと感じています。

社会保険労務士法人セルズ 代表社員 加藤 雅也氏
1979年名古屋生まれ。2000年に株式会社Cellsへ入社しWEB制作、社労士事務所業務に携わる。2005年、社会保険労務士の資格を取得し、2013年、社労士事務所部門の代表社員に就任。2015年、株式会社Cellsの代表取締役に就任。現在は、人事労務管理とITの融合領域によるシームレスソリューションをテーマに、全国の社労士事務所を通して「企業の健全な発展のためのサービス」を展開中。

働き方の付加価値を高めるには?

北原さん
第4のテーマです。

人間が人間にしかできない仕事に集中していく必要性が求められる時代になりました。この意識は、地方都市とくらべ大都市のほうが進行しているように思います。

当社はBPOサービスも提供していますが、なかなか地方での受注は難しい。これはそのポジションを充足するだけの人が、地方にはまだいるからです。これが大都市、特に東京ともなると、エンジニアはもとより、給与や福利厚生の専門家も雇いにくくなっている。

一方の従業員の側にしても、給与計算や福利厚生に関する知識を身につけても、それが専門職として一生食べていけるだけのキャリアになるのかどうか、疑問を持ち始めている。企業と社員の両方の側での変化が、大都市では顕在化してきている気がします。

このような文脈でみたときに、給与や福利厚生を担当する方々が持っている「付加価値をもたらす仕事に取り組みたい」という想いにどう答えるかが、今後大きなテーマになると思います。紙の手続き業務から解放されたその先で、「これからの人事部はこんな付加価値を提供できるのではないか」といったテーマでお話しいただければと思います。

重要な経営資源「ヒト」に携わる人事労務の生産性向上を

SmartHR 内藤
北原さんのおっしゃるとおりだと思っています。労働人口がこの先減っていくのに対し、1人1人がやれる仕事量は限られています。そういった中で、定型的業務をソフトウェアやコンピュータに任せ、人にしかできない仕事に取り組み、生産性を向上させていくことが求められるのではないでしょうか。

弊社のお客さまの中にも、「SmartHR」の導入によって従来の定型業務を見直したのち、業務効率化によって生まれた時間を使って人事制度を刷新し、結果的に6割の社員が生産性向上を実感したという成功事例があります。

このように、重要な経営資源である「ヒト」に携わる人事労務は、企業全体に影響がある業務です。そのため、人事労務を担当する人々の生産性を少しでも上げられると、ひいては企業に大きなインパクトとして還元されると考えています。

そのため、これからの人事労務の働き方としては、定型業務を効率化させつつ、より価値の高い業務にシフトし、会社全体の生産性の向上に寄与していくことが求められると感じています。

エフアンドエム 上枝さん
「手続き」ってものすごく重要で、なくてはならないことですが、これらの業務は“起こってしまったことに対する書類の提出”ということになります。

たとえば、弊社のシステムを使って労災などの手続きをしていただいているお客さまも多いんですが、労災手続きって発生したトラブルに対する報告なんです。しかし本来は、同じような労働災害が起こらないように、いかに予防していくかが重要です。

充分に人員を配置できているのであれば、再発防止戦略を考えたり、その周知徹底に取り組めると思います。しかし、実際に各社のお話を聞いてみると、「バックオフィス部門で増員しようとしても、直接利益を上げるわけではないため経営陣からの締め付けが厳しかったり、何とか今の人数で踏ん張ってくれと言われたりしがちなんです」という声を、よく聞いています。

このようなユーザー企業において、今まで労災手続き担当だった方が書類作成にかけていた時間をグッと減らし、その分で生まれた時間で、労働災害を防止するためにどうやったら環境改善できるのか、対策できるようになったという事例を伺っています。

なので、起こった後の対応としての手続きにだけ目を向けるのではなく、より良い環境づくりに取り組んでいく必要があると感じています。

確かな労務管理で労使の信頼関係を築く

セルズ 加藤さん
なぜ労務管理が必要なのか? 社労士としての観点でみると、労使の信頼関係を築くためだと考えています。

たとえば、退職手続きを行って、離職票の発行が遅れてしまったとします。それで、その人からクレームが会社に入ると、他の従業員さんも「ひょっとすると、仮に私たちが退職するときも離職票の発行が遅くなるのかもしれない」と、不安に思いますよね。それ以外にも、給与計算などでミスがあると、会社がいくら先進的な取り組みを行っていても、従業員は会社を信頼できなくなってしまいますし、あまりにも不安が大きいと、職務に専念できなくなることもあります。

このように労務管理にまつわる業務は、労使の信頼関係を築くものなんです。

そんな中、このような業務は電子申請やマイナポータルをはじめ、新しい仕組みによってどんどん電子化されていく。ひょっとすると、労務管理のミスなどに気付かなくなる可能性が高い。

だからこそ、しっかりとミスや異変に気付ける“目”がより必要になってくると思っています。そのため、社労士先生などの専門家の皆さまにサポートをいただきつつ労務管理を徹底することで、労使の信頼関係を築くことが、今後求められるのではないかと感じています。

実際に私も、社労士法人でありながら、外部の社労士先生と顧問契約をしようと検討しています。社内のバックオフィス事情を考えたときに、誰がやっても一緒のアウトプットになるような定型業務はアウトソーシングしたいと思いますし、人事制度や各種規程なども、社内に限らず色々な人の意見を伺いたいんです。なので、社労士法人であっても、社労士先生と顧問契約するのが望ましいのではないかと考えています。

電子化を後押しする「電子申請サポーター」の必要性

エフアンドエム 上枝さん
電子申請への対応を支援する「電子申請サポーター」のような存在が必要だと感じています。

電子化が進む一方で、なかなか始められない方々もいらっしゃいます。そのようなお悩みを持つ方々、特に中小企業に対して、電子申請を実行できるようになるために、社会保険労務士の先生方に支援していただけると良いのではないでしょうか。

アウトソーシングも1つの形なんですが、アウトソーシングだけでなく、自社でできるようになるための伴走や、そのような立場の人材が必要になりそうです。

人事部の業務効率化で重要性増す「リテンション」への対策を

北原さん
ありがとうございます。私からもちょっと違う視点からお話させてください。

私は1980年代の後半から6年間ほどアメリカで仕事をしていました。そのとき、アメリカ人の人事部長に「アメリカにおける“人事部”のミッションは何か?」という質問をしたことがあります。

すると、「アトラクション&リテンションだ」と言われたんです。アトラクションとは、人を惹きつけること。それから、リテンションとは、人材を維持し辞めさせないこと。

当時の僕は、彼女が何を言っているのか全然わかっていませんでした。しかし今になるとよくわかります。いまの日本は、労働人口の減少に伴い、人材確保にみんな血眼です。そんな中、人事部門は、特に大事な業務のひとつして採用が挙げられています。ですから、「アトラクション」の重要性は皆さんわかっているんです。

もう1個、すごく大事なのが「リテンション」です。「モノ」や「カネ」と違い、「ヒト」はモチベーションが高いか低いかでパフォーマンスが変わる、可変的な経営資源です。

ですから、バックオフィスとしての人事部の役割は、正しく手続きや管理をできるのかに加えて、従業員に高いモチベーションで働いてもらうための仕組みを構築できるかを今後問われるのではないかと感じています。

アトラクションやリテンションなどへの対策に時間を割きたいと思っている人事部の方は、たくさんいると思うんです。でも、なかなかできない。なぜなら、手続きや勤怠管理、給与計算、人事評価などの定業業務に追われてしまっているから。

たとえば人事評価は、社員のモチベーションにとってとても重要な業務です。でも、人事部は、評価票の配布や回収などの定型業務に時間を費やしてしまっている。本来注力したい評価そのものを考えるための時間を割けていないのです。

ですから、定型的な業務に関しては少しでも効率化し、どのようにして従業員のモチベーションを高めるのかに時間を割いていくのかが、これからの人事部の役割になるのではないかと感じています。

会社の魅力は、小手先ではなく従業員が働きやすい環境づくりから生まれる

SmartHR 内藤
弊社の経営陣の場合は、いかに会社を魅力的に見せようかみたいな小手先の話ではなく、従業員が働きやすい環境づくりには何が必要かを、よく考えています。

また、従業員が新たな従業員を誘う「リファラル採用」という制度がありますが、自分の信頼によって会社に人を誘うのは、とてもエネルギーを使うことです。よっぽど会社のことを好きじゃないと誘ってはもらえません。

その考えに至って、会社の魅力と実態にギャップがないことは非常に大切だなと思います。

おわりに

北原さん
最後に、これから先の各社の開発方針といいますか、お客様にどのような新しい価値を提供していこうと考えていらっしゃるのかを、伺いたいと思います。

SmartHR 内藤
今の悩みととしてひとつお話させてください。今後マイナポータルがAPIを提供して、色々な手続きに対応されるとのことですが、現在私たちのサービス「SmartHR」はe-GovとAPI連携しています。そういった状況で我々がどのように対応していくかはまだ決まっていませんが、検討を進めていこうとしている段階です。

ただ、今まで電子申請に対応していなかった健保組合が対応するという未来がもう見えている中で、お客さまに新しい価値を確実に届けられることを想像すると非常にワクワクしています。

エフアンドエム 上枝さん
BPO業務をやっていると、1個の業務だけが便利になったからといって、必ずしも全体の工数が大きく変わるわけではないことに気付くケースがよくあります。

1つは、業務全体を捉えて、業務の一連の流れでいかに全体最適化されるかという形で、システムをブラッシュアップしていきたいなと、イメージしています。

もう1つ、これは会社のフィロソフィと関わる話なんですが、実は弊社はもともと花屋でして、今でこそ「エフアンドエム」という社名ですが、企業当初は「フラワーメッセージ」という社名だったんです。

当時は、お客さまにお花と一緒にメッセージを届ける代行業や販売促進のプロモーション代行業をやっていました。そのときのお客さまが保険の販売をしている外交員の方々で、その方々は皆さん個人事業主で、「何かお困りのことはないですかね?」と聞いたら、確定申告するための記帳にすごくお困りでいらっしゃったんです。そんなにお客さまが困っているんだったら、記帳代行をやったら喜んでもらえるんじゃないかということで、事業を始めたらこちらのほうが大きいビジネスになったと。

その際に「フラワーメッセージ記帳代行センター」という社名になったんですが、その後お花を売らなくなったので「フラワーメッセージ」はおかしいだろうということで、フラワーの「F」と、メッセージの「M」というのはそのまま残して、今はファイナンスアンドマネジメントを意味する「エフアンドエム」という社名に至ったんです。

何が言いたかったかというと、弊社は、お客さまが困っていることや解決したいことを少しずつ実現させることで、より多くのお客さまと繋がってきた会社です。弊社のシステムはクラウドであり、改善したものはすぐにリリースできるので、お客さまの意見をいただきつつ、しっかりとシステムに反映していかないといけないし、やっていきたいなと思っています。

SmartHR 内藤
もう一度お花を売ることはありますか?

エフアンドエム 上枝さん
お客さまは結構いるので、たまに「やったら?」って言われます(笑)。

北原さん
言われるんですね、面白い(笑)。加藤さんはいかがですか?

セルズ 加藤さん
私たちは、主に社労士事務所向けに基幹システムの開発や販売サポートをしていて、オンプレミスとクラウドのハイブリッドのような体制でサービスを展開していますが、それを100%クラウドにシフトしていこうと考えています。また、電子申請もまだe-Govとマイナポータルのどちらを選択するかって決めてはいないんですが、できるだけ早い段階で決めていきたいです。

今もそうですが、今後も社労士事務所向けのシステムにこだわって取り組んでいきます。クラウド上のデータを有効活用して、社労士事務所の顧問先企業の方々に有益な情報提供をしやすいようなサービスを目指します。

北原さん
ありがとうございます。それでは時間がまいりましたので、パネルディスカッションをこれにてお開きとさせていただきます。

皆さま、本日はご清聴いただき、ありがとうございました。

藤田 隼

SmartHR Mag. 2代目編集長。ソーシャル系スタートアップでSNSマーケティングや自社メディア運営に携わり、2015年よりメディアに特化した事業会社で複数サイトのディレクターを経験した後、SmartHRにジョイン。ウェブ解析士。
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