【第5回 人材像WG 速報】プロ人材育成に有効な「ハイブリッド型人事」は、副業・人材流動化と両立するか?

2017.12.20 ライター: 藤田 隼

AIやIoTといった次世代テクノロジーを中心に、第四次産業革命が到来していると言われる中、産業構造の変化はもちろん人の働き方も大きな転換点を迎えています。

「人材力」こそが企業競争力の源泉たる要素として注目され始め、「一億総活躍プラン」の流れの中で「働き方改革」とともに「人づくり革命」などの議論が活発化しています。2017年9月に発足し、HR業界をはじめ各所で話題になっている「人生100年時代構想会議」も、まさに同様の文脈に端を発しています。

その流れを受け、経済産業省主導のもと「我が国産業における人材力強化に向けた研究会(人材力研究会)」が設置され、それに紐づくワーキンググループのひとつ「必要な人材像とキャリア構築支援に向けた検討ワーキング・グループ(人材像WG)」が、2017年10月16日より始動しました。

12月18日に開催された第5回「人材像WG」を聴講してまいりましたので、速報レポートをお送りいたします。

なお背景となる要旨、及びこれまでの展開は過去のレポート記事をそれぞれご覧ください。

第5回 人材像WGのテーマ

前回のWGでは、有識者ゲストスピーカーとして、昭和女子大学ダイバーシティ推進機構キャリアカレッジ 熊平美香 学院長と、株式会社デジタルハーツ第二創業推進室 河野亮 副室長が出席し、「リフレクション/内省」や「自己肯定感」、「潜在労働力の戦力化」、「卒業生(アルムナイ)の輩出」などがキーワードになりました。

第5回となる今回は、ゲストスピーカーとして株式会社日本総合研究所の山田久理事と、NewsPicksの佐藤留美副編集長が登場。また、中核人材確保WGより参加する、株式会社日本人材機構の小城武彦社長もプレゼンを行いました。

各プレゼンは下記のようなテーマ・要旨です。

  • 山田氏・・・生産性向上に繋がる人材投資・人事改革
  • 小城氏・・・地方経済圏への人材異動の重要性、重要な成長分野
  • 佐藤氏・・・NeswPicks読者が提言する「大人の学び」「働き方改革」の政策アイデア

生産性を高めるプロ人材育成には「ハイブリッド型人事」が有効

株式会社日本総合研究所 理事の山田氏は、「生産性向上に繋がる人材投資・人事改革」というテーマのもと、プレゼンを行いました。

山田 久 株式会社日本総合研究所 理事

労働生産性のカギを握る「成人教育参加率」「専門職比率」

山田氏は、日本の産業課題に「労働生産性の停滞」を挙げ、その要因を、

  • 産業構造変化によるもの(生産性の低い産業シェアの上昇によるもの:再配分効果)
  • 各産業内での生産性低迷によるもの(内部効果)

と、分けたうえで、さらに「各産業内それぞれで生産性が低迷していることと同時に、生産性の高い部門に労働力が円滑にシフトしていない」ことも、無視できない要因であると分析しています。

他方、欧米の労働生産性の高い国では「社会人の教育参加率」も高いとされ、その背景として「成人教育への参加が職業能力の向上に有効だと考えられている」ことがあり、実際に、「時間当たり労働生産性」と「成人教育参加率」の間には順相関があるようです。では、なぜそれらが順相関しているのか? それは、欧米では専門職の比率が高いことが要因となっており、こちらも「専門職比率」と「成人教育参加率」とでかなり強い相関があるようです。

プレゼン資料より抜粋/日本生産性本部「労働生産性の国際比較」

更に、「専門職比率」と「労働生産性」の間にも相関関係があり、これらを総合的に考察し、「専門職の重視」と「社会人教育の普及」を相互に関連付け、その中で専門スキル向上や労働移動促進を図ることで「労働生産性の向上」につながるとしています。

プレゼン資料より抜粋/日本生産性本部「労働生産性の国際比較」

プロフェッショナル人材育成に向けた「ハイブリッド型人事」への移行

ここまでの考察は、労働生産性を高める上で、企業の外部に職業教育システムを整備・拡充すると同時に、その前提として、企業がプロフェッショナル型の人材を積極的に育成・活用していくことが重要な課題となることを示唆しています。

従来の日本型雇用を振り返ると、「組織能力」が重視されるいわゆる「メンバーシップ型雇用」が中心でした。これは上記の「プロフェッショナル人材」とは相反するようですが、「関係構築能力」が問われるAI時代においてはむしろ求められる側面とも捉えることができます。その中で山田氏は、今後求められるプロフェッショナル人材の要件を、「専門スキル」にあわせて「関係構築能力」を双方持つ人材であるとしています。

その人材を生み出すためには、「メンバーシップ型」と「ジョブ型」を組み合わせた「ハイブリッド型人事」が必要になると提言しています。

具体的には、採用フェーズでは「メンバーシップ型採用」によって、各人材の持つ多様性の発掘、そしてその適性を「ジョブ型人材育成」によってプロフェッショナル人材へと鍛えていくようなイメージです。

年代層としては、

  1. 〜20代半ば・・・職業人基礎能力習得/計画的ジョブローテーション
  2. 20代後半〜30代・・・プロフェッショナル能力の確立
  3. 40代以降・・・プロフェッショナル能力の発展/新たな専門能力の習得

 

のように、3つのキャリアフェーズが想定されています。

山田氏のプレゼンを整理すると、労働生産性向上にはプロフェッショナル人材が必要不可欠。そしてプロフェッショナル人材の輩出には、個人視点では「成人教育参加」、企業視点では「ハイブリッド型人事」が効果的である、ということになりそうです。

地域中小企業の「オーナーの右腕」にチャンスが眠る?

小城 武彦 株式会社日本人材機構 代表取締役社長

続いて、株式会社日本人材機構の代表取締役社長 小城氏によるプレゼン。テーマは「地方経済圏への人材移動の重要性、重要な成長分野」です。

政府主導で設立された同社は、2015年より「地方企業の生産性を上げ、雇用・賃金を拡大・向上」させることをミッションとして活動しています。

「地方経済圏への人材移動」の重要性は、大きく分けて4つのポイントがあります。

(1)地方経済圏の「317兆円」というポテンシャル

東京、神奈川、千葉、埼玉、名古屋市、大阪市意外の地域の「県内総生産(名目)の合計値」は317兆円にものぼるようです。

(2)地域中小企業では、今まさにオーナーの右腕が必要とされている

少子高齢化や内需縮小化が顕在化する中で人材不足にあえぎ、孤軍奮闘するオーナーに溢れ、特に事業継承に関する悩みは根深いようです。

オーナーの右腕として、変革を主導する「幹部人材」が今まさに必要とされています。

実際に、オーナーが事業継承に悩む創業150年超の造り酒屋に、オーナーの右腕とすべく大手銀行やベンチャーで経験のある中核人材を紹介し、週2日勤務で採用したところ、入社から間もないオーナーの長男を教育するかたわら、中期経営計画の実行を牽引し、新商品開発や営業強化などの成果を短期間で創出することができたようです。

形態としても、常勤だけでなく非常勤へのニーズもあることも、ポイントのひとつです。

(3)大企業人材の早期リリースの必要性

地域中小企業で活躍できる人材像を、下記のように定義しています。

  • オーナーの意向を踏まえ、範囲を限定せず主体的に動ける人
  • 異文化集団に飛び込み、信頼を勝ち得るコミュニケーション能力と柔軟性
  • 混沌、未知、異文化を受け入れ、周囲を巻き込む力
  • 自身の軸となる自信を持つ領域やその成功体験
  • 自らの力・経験を社会のために使いたいとの「志」

 

抽象的に表現すると、下記の3つのポイントになります。

  1. 30代〜50代前半:東京でバリバリ働いている人
  2. 大企業の仕事の仕方しかできない人には不向き
  3. 大企業だけではなく、ベンチャー、中小企業での「実戦経験」、「修羅場経験」があると望ましい

 

2点目、3点目に関して、大手企業管理職には、幹部候補選抜に漏れながらも、キャリアの再構築を図れるなら図りたいが、実際には踏みとどまっている人材に溢れていることを、同社の調査結果より示しています。

小城氏は、この「大手企業管理職」という潜在的母集団から、人材育成・人材供給を図ることができれば、地域中小企業における活躍余地は大きいのではないかと指摘しています。

(4)「学び」の場としての地域企業の魅力

地域企業でオーナーの右腕になる醍醐味として、下記2点を挙げています。

  • 歯車ではなく「企業の心臓」になる経験ができる
  • 「自分の活躍=企業の成長=地域の発展」を肌で感じることができる

また、創業者やオーナーの右腕として働くことで、「大組織ではなかなか出会う機会がない、人生をかけて事業を作ってきた人間の凄み」に触れられる、「新たなロールモデルの出会い」も魅力のひとつして挙げています。

 

以上大きく分けて4つのポイントを整理し、下記のようにプレゼンを締めくくっています。

  • 地方中小企業には大きな成長潜在力がある
  • その顕在化のカギは、首都圏からの幹部クラスの人材移動
  • 大企業人材の早い段階でのリリースが必要
  • 兼業・副(複)業にも大きなニーズ。流動化の導入プロセスとして機能する可能性大

「大人の学び」が当然に受容される仕組みづくりが必要

委員・オブザーバーからの質疑応答を挟み、経済情報に特化した人気ニュースサービス「NewsPicks」の副編集長、佐藤氏によるプレゼンテーションが行われました。

九喜 洋介 NewsPicks クリエイティブディレクター

クリエイティブディレクターの九喜氏よりサービス概要が説明された後、本題へ。

同サービスでは、本ワーキンググループにおいて、政策提言すべく「人生100年時代の学び方、働き方。政策アイデアを大募集」というアンケート企画を実施、600以上もの回答数を得られたようです。

調査結果の例としては、安倍政権による労働政策(ex.働き方企画、人づくり革命)を評価する声が約73%あったほか、兼業・副業を支持する声が約95%にのぼるなど、現在の労働政策推進に対する期待の高さが伺えます。

メインコンテンツとなる政策提言においては、「教育・人材育成」(36%)、「柔軟な働き方」(18%)といったカテゴリへのアイデアが寄せられました。

「隠れキリシタン」を生まないために

佐藤 留美 NewsPicks 副編集長

最多となった「教育・人材育成」のカテゴリでは、主に下記のようなキーワードが挙げられています。

  • 「サバティカル休暇」の推進
  • モデルケースとなる企業の表彰
  • 学び直す人への税制考慮
  • 公的オンライン教育の拡充
  • 大人の学びへのインセンティブ設計

 

これらが挙がった背景としては、以前のワーキンググループから諏訪座長が「隠れキリシタンにならざるを得ない状況である」と苦言を呈しているように、大人の学び直しが各企業において市民権を得ていない現状がありますが、これに対して「大人の学び」を新時代の常識へと変えていくには、モデルケースとなる企業を国が表彰するなど、マジョリティとしての認知を獲得する必要性があると考えられます。

また、現在の仕組みでは、個人にとって税制もハードルになりえます。例えば一度離職しMBA取得に励んでいる回答者からは、「リカレント教育の実践においては前年所得の税金が非常に負担になる。払わないわけではなく、時期をずらすなどの税制考慮をして頂きたい」というコメントが寄せられています。

このように、リカレント教育をはじめとした「大人の学び」を推進していく上では、それ自体が当然に受け入れられる仕組みと空気感を醸成していくことが求められそうです。

意見交換

伊藤 禎則 経済産業省 参事官

続いて、ここまでの人材像WGにおいての振り返りとして、伊藤参事官が整理しました。ポイントは大きく分けて3つあります。

  1. 何を学ぶのか(人生100年時代に必要な能力)
  2. どう学ぶのか
  3. 学んだ後、どう活躍(評価)するか

 

伊藤参事官による振り返りの後に、今回の議論内容を踏まえ、「兼業・副業」「人材の流動化」などを主なポイントとして、自由討論形式で意見が交換されました。

副業・複業を推進する株式会社HARES代表の西村氏は、NewsPicks佐藤氏の報告をうけ、「兼業・副業推進のためアクションしていく上では、その障壁となるものを取り去る必要があるが、その一手としては“学びのインセンティブ”は非常に重要。また個人としても20代の内からキャリアを向き合い自律的なキャリア形成のもと、棚卸ししていく必要がある。そのために必要となるものを習得するために“学び”が求められる」とコメント。

西村 創一朗 株式会社HARES 代表取締役

その中にある課題として、佐藤氏は「現状“リフレクション”がないのが現状で、“1on1”が広く取り入れられつつある一方、形骸化してしまっている側面もある。今、意欲的な大人は“リフレクション”を渇望している。ただその一方、上司の議論ばかりになってしまい、彼らへの負担ばかりになってしまうことにも対策する必要があるのでは」と示唆しています。

続くかたちで山田氏が「人事の機能の一部をマネージャーに押し付けてしまっている部分もある。中間管理職・現場マネージャーを、人事がどのようにサポートしていくかも今後必要になる」と付け加えています。

今後の議論・検討に「ターゲットの明確化」は不可欠

一方、米田氏や小城氏は、NewsPicksのアンケートによって得られたアンケート結果は、同メディアのユーザー属性から鑑みるに、仕事や学びへの「熱量の高い社会人」からの意見であることを念頭に置く必要があり、個々によって異なる熱量を踏まえた上で、ターゲットを明確にした上で、検討していくべきである旨のコメントをしています。

米田 瑛紀 エッセンス株式会社 代表取締役

これらの意見に対し伊藤参事官も「確かにターゲットやレイヤーごとに明確に区分し、具体的なアクションとして進める必要がある」としています。また、厚生労働省主導で進む、「柔軟な働き方に関する検討会」でも、副業・兼業について議論が進んでいることについても言及。例えば、厚労省が、企業で就業規則を制定する際の雛形として公開している「モデル就業規則」では、副業・兼業は原則禁止となっているが、これらは見直される方針で進んでいるようです。

小城氏がこれまでの議論を振り返って「副業や兼業の推進に関し、これらに取り組む人々によってそれぞれ目的が違う。例えば、“学びのための副業・兼業”が議論の対象となっている一方、実際には、収入を得るための“アルバイト的副業・兼業”もあり、個人によってその意味合いが異なってくる。それをどう捉えていくかは、明確に区分したほうが良いのでは」と提言しています。

忘れてはならない懸念点も

宮島 忠文 株式会社社会人材コミュニケーションズ 代表取締役社長

それ以外にも、オブザーバーの宮島氏が「(副業・兼業にともない)機密情報の漏えいリスクなども同時に考えなければなららず、“個人事業主”としてのマナーやモラルも同時に問われるのでは」といった懸念点があることについてコメント。これは、経団連の榊原会長が同日別件の記者会見で触れた、副業・兼業の課題について共通する部分があるように感じます。

最後に、諏訪座長により締めくくられましたが、「語学であったりスポーツであったり実務であったり、プロ水準に達するには1万時間かかるとも言われる中で、3から4年スパンでクルクルと人材をローテーションさせるのは、その会社のプロにはなっても社会的に通用するプロにはなりづらいのではないか」という見解も示しており、プロフェッショナル人材の育成や人材の流動化・人材移動等を考える上で、あわせて考えるべき懸念点も同時に対策する必要があるでしょう。

(詳細なる議事要旨や配布資料は、順次、経済産業省ホームページより公開される予定ですので、是非そちらをご参考ください。)

【参考】人材像WG委員名簿(敬称略)

■ 「必要な人材像とキャリア構築支援に向けた検討ワーキング・グループ」委員
諏訪 康雄 法政大学 名誉教授【座長】
西村 創一朗 株式会社HARES 代表取締役
米田 瑛紀 エッセンス株式会社 代表取締役

■ 「中小企業・小規模事業者・スタートアップ等における中核人材の確保・活用促進に向けた検討ワーキング・グループ」より参加
小城 武彦 株式会社日本人材機構 代表取締役社長
宮島 忠文 株式会社社会人材コミュニケーションズ 代表取締役社長

■ ゲストスピーカー
山田 久 株式会社日本総合研究所 理事
佐藤 留美 NewsPicks 副編集長

藤田 隼

SmartHR mag. 2代目編集長。ソーシャル系スタートアップでSNSマーケティングや自社メディア運営に携わり、2015年よりメディアに特化した事業会社で複数サイトのディレクターを経験した後、SmartHRにジョイン。ウェブ解析士。
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