社労士が解説! HRニュース 2022年6月振り返りと2022年7月のポイント

2022.06.30 ライター: 特定社会保険労務士 榊 裕葵

人事労務担当者の皆さまは、目下、年度更新や算定基礎届の対応、夏季賞与の支給などで忙しくしていらっしゃる時期だと思います。

この時期ならではのイベントに対応漏れがないようにすることと、雇用調整助成金の動向など行政の動きにも注目しながら、今月のニュースレターの解説していきます。

2022年6月のトピックの振り返り

(1)年度更新・算定基礎届

6月から7月にかけてのルーティン業務で忘れてはならないのは、やはり労働保険の年度更新と、社会保険の算定基礎届です。どちらも、7月11日(原則は10日だが、今年は10日が日曜日のため)までが提出期限ですので、遅れないように対応をお願いします。

なお、年度更新は申告書の提出だけでなく、保険料の納付(全額、または3分割の場合は1回目)まで含めて7月11日が期限となりますのでご注意ください。ただし、口座振替の登録をしている場合は、申告を済ませれば9月6日に自動で引落しとなります(3分割の場合は1回目の引落し)。

(2)雇用調整助成金の動向

雇用調整助成金のコロナ特例は6月末までとされていましたが、現在の支給内容を据置きで9月末まで延長されることとなりました。

雇用調整助成金等の助成内容

(参考)令和4年7月以降の雇用調整助成金の特例措置等について – 厚生労働省

新型コロナウイルスの感染者数は減少傾向にありますが、飲食業や旅行業などまだまだ需要は回復途上ですし、足元の物価高による経済回復への不安も踏まえ、延長が決定されたようです。

雇用調整助成金は、雇用の維持や、企業の倒産防止に役立っていることは間違いありませんが、財源の枯渇により4月から雇用保険料率がアップしたこと(10月にはさらにアップ)、成長産業への労働者の移行を妨げていること、休業が続き労働者の勤労意欲の低下や成長の機会を奪うことにつながっていることなど、負の側面の大きくなりつつあり、政策論としては、どのタイミングまで雇用調整助成金のコロナ特例を継続するのかは難しい局面と言えるでしょう。

一方で、個々の企業においては、雇用調整助成金にコロナ特例がいつ大幅縮小や終了しても対応できるよう、本格的に検討をしておかなければ、経営上の大きなリスクになってしまうことが懸念されます。

(3)出産一時金の増額

岸田総理は6月15日、出産一時金を増額する方針を打ち出し、増額は2023年度から実行される見通しです。現在は、1児につき42万円が支給されていますが、どの程度の増額になるのか、今後の続報を見守りたいところです。

個室・エステ・ディナーなど、妊婦本人の希望で利用する上乗せサービスは別として、一般的な産前産後の処置であっても、実際の出産費用は現在の支給額を上回ることが多いのが実情だと思いますので、出産一時金が増額がされることは素直に喜ばしいことです。

一方で、妊娠期間中の妊婦健診は、地方自治体の助成券を利用しても、1回あたり数千円~1万円程度かかります。確定申告で医療費控除の対象になるとはいえ、その負担は決して小さいものではありません。また、つわりなどで上の子の育児や家事が難しい場合は、ヘルパーを頼んだり、宅食サービスを利用することもあるでしょう。

これらに対する公的補助の強化を政治にも期待したいところですが、個々の企業においても、従業員本人や配偶者の妊婦健診の費用補助やヘルパー代の補助などについては、福利厚生のメニューとして検討の余地が高いと思います。

(4)ハラスメント判決

今年の4月1日から、中小企業も含めパワハラ防止法が全面施行され、ハラスメントに対する企業の対応が注目されています。

そのような中、企業内でのハラスメントについて、さらなる注意を促す判決がありました。

5月25日、東京地方裁判所は、フリーランスで働く女性が発注会社の代表取締役からセクシュアルハラスメントを受けたと訴えた裁判で、発注会社と代表取締役に慰謝料など計188万円の支払いを命じました。

パワハラ防止法や男女雇用機会均等法などの諸法令においては、基本的に上司から部下に対するパワハラやセクハラなど、社内での人間関係におけるハラスメントの防止を主眼においています。

しかし社内だけでなく、取引先など社外のあらゆる関係者に対して、ハラスメントを行うことが許されないのは常識判断として当然のことですし、民法上の不法行為による損害賠償はもちろん、刑法上も傷害罪、暴行罪、強制わいせつ罪、侮辱罪、名誉毀損罪などさまざまな類型の犯罪行為に該当する可能性があります。

それだけではなく、マスコミで報道されれば会社の信用に傷がつき、取引先や顧客との契約打ち切り、従業員の流出など、経営にとっても大きなダメージになります。

今回の裁判のように、代表取締役が自らハラスメント行為を行うのは論外ですが、人事労務担当者は、社内だけでなく従業員が社外の関係者に対してもハラスメント行為を行わないよう、改めて注意喚起を図っていただきたいと思います。

2022年7月のトピック

(1)熱中症対策

暑さが本格的に厳しくなってきました。熱中症に気を付けなければならない時期です。

熱中症は、高温多湿な環境下において体内の水分や塩分のバランスが崩れたり、体内の調整機能が破綻して発生します。症状としては、めまい・失神、頭痛・気分の不快・吐き気・嘔吐、意識障害・けいれん・手足の運動障害、高体温などが見られます。熱中症は症状によりⅠ度からⅢ度まで分かれており、Ⅲ度では死に至る可能性もあります。

熱中症というと、建設業など屋外で働く人がかかりやすいという印象があるかもしれません。

しかし、オフィスワークであっても熱中症のリスクはあります。実際、統計的にも熱中症の約40%は屋内で発生しています。

オフィスで椅子に座って作業をしていても汗をかきますので、水分補給をしっかりと行ってください。また節電も大切ですが、オフィスはサーバーやPCの放熱などで熱もこもりやすいですので、従業員の就労環境に配慮した空調や冷房を行うように心がけてください。

また、テレワークで働く人も増えていますが、従業員が自宅での熱中症予防のために、自宅の温度管理や水分補給などを怠らないよう、人事労務担当者からテレワーク勤務者へ改めて呼びかけていただきたいと思います。

(2)男女の賃金格差、開示の義務化

女性活躍推進法に基づく省令が7月中に改正され、従業員数301名以上の企業は、男女の賃金格差を開示することが義務化されます。

7月になったら直ちに公表しなければならないということではなく、開示準備するための時間的猶予が与えられ、実際に開示することになるのは2023年4月以降になりそうです。

各企業としては、公表に先立ち、まずは自社の現状を把握することが対応の第一歩となるでしょう。

実際に数字が公表されると、格差の大きい企業はメディアで報道され、「賃金の男女格差が大きい企業ワースト100」といったようなランキングを作るメディアもあるかもしれません。

男女間の賃金格差が大きいことが明らかになると、採用活動にあたって大きなダメージとなることは火を見るよりも明らかですし、在職中の女性従業員のモチベーションにも影響を与えます。

ですからこの法改正は、単に数字を公表することが義務化されたから形式的に対応するということではなく、数字が公表された結果、何が起こるのかまで考えたうえでの対応が必要となります。

なお今後は、開示の義務化の対象となる企業規模の範囲が拡大される可能性もあります。

(3)住民税の特別徴収額のアップデート

住民税の特別徴収額は、毎年6月分(7月10日納期限分)から新年度の金額に切り替わります。新年度の住民税額に給与計算ソフトの従業員マスタをアップデートし、6月分の給与計算が行われているか、今一度ご確認ください。

正しくアップデートされた額が控除されておりましたら、その額で7月10日までに住民税の納税を行いましょう。

住民税の特別徴収は、2021年の年末調整を行った方(給与支払報告書で普通徴収を選択した方を除く)および、途中入社で個別に特別徴収の切替依頼届書を提出した方が対象になります。

特別徴収になるはずの方で、まだ住民税の決定通知書や納付書が届いていない方がおりましたら、どこかで事務処理ミスが起きているか、郵送事故の可能性がありますので、当該従業員の居住する市区町村役場へご確認ください。

人事・労務ホットな小話

男女雇用機会均等法により、性別による労働条件の差は従前から禁止されているものの、あくまでも抽象的な定めであるため、事実上の男女差は残り続けていました。

今回、女性活躍推進法に基づく省令の改正により、男女間の賃金格差の公開が義務化されることは、情報化社会の現在、中途半端な罰則よりも企業にとってインパクトの大きいものだと思います。公表された数字がランキング化されたり、SNSで次々に共有されたりするのです。

これまで企業のブランディングについては、マーケティング部門が主たる役割を担ってきたと思いますが、働き方に対する関心が非常に高まっている現在、人事労務部門も、自社のブランディングに対して重要な役割を果たす時代になってきています。

自社の働き方に対するイメージが採用活動に直結することはもちろん、場合によっては売上や利益に影響を与えることも考えられます。たとえば、「あの会社はブラック企業だから不買運動をしよう」などということが、SNSを発端に起こるというようなリスクも想定されうるわけです。

ですから人事労務担当者は、「自社のブランディングの一翼を担っているのだ」という気概をぜひ持っていただきたいと思います。

まとめ

年度更新と算定基礎届を終えると、人事労務部門はいったん落ち着く時期に入ると思います。

このタイミングに、熱中症対策をはじめとした従業員の健康管理、ハラスメント防止体制が機能しているかの確認、男女間の賃金差の状況把握など、従業員が安全・快適に働ける社内環境づくりに力を割いていただければ幸いです。

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。「社員から信頼される会社作りをサポートする」を経営理念として、顧問先の支援に当たっている。執筆活動にも力を入れており、WEBメディアへの掲載多数。
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