外食産業が挑むテクノロジー活用のヒント 〜一風堂の海外多店舗展開を支える『人事戦略』とは〜【後編】

2018.10.22 ライター: 藤田 隼

前編「日本の食文化を世界へ 〜一風堂の海外多店舗展開を支える『人事戦略』とは〜 」を読む


2018年9月6日、株式会社ビズリーチ主催「FUTURE of WORK JAPAN 2018 – 未来の経営と働き方に出会うEXPO」が開催されました。

労働人口の減少やグローバル化の加速、テクノロジーの進化など、時代は大きな社会変化を迎えています。同イベントでは、企業競争力の源泉が人材へとシフトしていくなか、企業はこれからの経営と働き方をどう捉えるべきなのかについて、様々なヒントと出会いの提供、そして変革の機会創出を掲げています。

同イベントでは、株式会社SmartHR 代表取締役CEO・宮田 昇始が、株式会社力の源カンパニー 代表取締役社長・清宮 俊之さんをお招きし、「日本の食文化を世界へ 〜一風堂の海外多店舗展開を支える『人事戦略』とは〜」と題してインタビューセッションを実施しました。

その内容を前後編に分け、後編となる本稿では「従業員の育成とテクノロジーの活用」についての議論をお届けします。

細切れ化する採用と研修を抜本解決させた「イチトレ」

宮田
SmartHRのお客様で、「アルバイト採用において、フリーター採用が難しくなり、学生中心の採用にシフトせざるを得ない」というお話を聞くことが増えています。

この課題に対して、御社で工夫していることがあれば教えてください。

清宮さん
10年、20年前はフリーターを中心に店舗運営が成り立っていたんですが、最近では1週間のうちがっつりシフトを入れるという方が少なくなっており、どちらかというと週の中でスポットでシフトを入れたいというワークスタイルを望む方が増えています。そのような学生さん・主婦の方を中心に、シフトを組むケースが多くなっています。

宮田さんが冒頭で、外食産業の人事課題を3つ挙げていましたが、いずれもおっしゃる通りで、特に「人の入れ替わりが激しい」「店長が本業に集中できていない」については、弊社でもやはり同様の課題がありました。

どういうことかというと、かつて「0研(ゼロケン)」という入社時研修があったんですが、これを店長がスタッフに対して9時間程かけて行っていたんです。1人1人に対して必ずやるものなので、スポットでのシフト希望者の採用が増え細切れ化していくとともに、店長がどうしても「0研」に時間を割かれてしまい、現場に費やせる時間が減ってきてしまっていたんです。

そこで、この課題を解決し、研修制度もテクノロジーを活用して効率化しようということで、全店舗にタブレットを配布し、そのタブレットを活用した「イチトレ」という取り組みを開始しました。これまで「0研」でやってきた内容も「イチトレ」の動画で学ぶことができるようになっています。

これによって、入社時研修に使う時間を減らしつつ、オペレーションを平準化することができました。また、「ちゃんと評価してくれている」というのがスタッフ側にもわかりやすく、その安心感から離職率の低下にも繋がっています。

宮田
なるほど、学生スタッフも「評価されている」ことを実感すると。

清宮さん
そうですね。以前退職者が増えた際に、退職者にその理由を出口調査したところ、8割ほどが「評価に納得がいかない」「時給が上がりにくい」という人事評価に関する内容でした。何が評価基準になっているのかがわからない状態だったんですね。

この課題も、「イチトレ」によって各スタッフの研修進捗やスキルもデータ化されたことで、社内の水準が可視化されたため、どのような基準で評価されるのかがわかりやすくなり、安心感にも繋がっています。結果、スタッフの定着化に繋がり離職率は下がっています。

もちろん、店長が細切れ化された入社時研修に時間をとられることなく、現場の仕事に費やせる時間も増えています

「イチトレ」がもたらした時給向上と人材定着化

宮田
そのスタッフ評価は「イチトレで、どのトレーニングを終えたか?」などの進捗状況をもとに行われるのでしょうか?

清宮さん
研修の軸として「オペレーション」と「理念」の2つがあります。

スタッフが終わった項目に対してチェックマークをつけると、店長はイチトレ上で確認できます。また、オペレーション面では終わった項目に対してチェックマークをつけるだけでなく、研修が終わり次第店長に報告して、実技で習熟度を確認するようにしています。

宮田
先ほど「時給」について話がありましたが、「イチトレ」導入後、時給は上げやすくなったのでしょうか?

清宮さん
スキル習得と成果が結びついているメンバーの時給がUP
しています。

スタッフのオペレーション力を可視化した、スキルマップのようなものもあり、全店舗における自分の立ち位置がわかるようになっています。「もっと上に行きたい」と感じたら、その「上に行くには何が必要か」というのもロジカルにわかるようになっています。

これでモチベーション下がる人もいるかなと思っていたんですが、蓋を開けてみたらそんなことはなく、「何をやれば給料が上がるのか」が可視化されているためモチベーション向上に繋がっていますね

宮田
そうなんですね。スキルアップへのモチベーション向上に繋がるのはもちろん、「ここまで時給が上がった」「もう少しで時給が上がる」というのがわかると、「やめるのはもったいないから、継続しよう」という継続へのモチベーション向上にも繋がりそうですね。

ちなみに、「イチトレ」導入前の、店長がアナログでやっていた「0研」は、重要なひとつの文化であるという印象を受けましたが、この「0研」廃止への反対意見はありませんでしたか?

清宮さん
「この0研があるから一風堂があるんだ」という考えは間違っていませんし、当初反対意見もありました。ですが、社内でよく使う言葉として「都市伝説を疑え」という言葉があり、時代の変化とともにオペレーションも変化することを理解しているので、「イチトレいいよね」とすぐに受け入れられました。

宮田
スキルアップという観点では、アルバイトからの社員登用も積極的に取り組まれているかと思いますが、アルバイト時代に習得したスキル評価は社員登用時にリセットされるのでしょうか? それとも継続されるのでしょうか?

清宮さん
以前はリセットに近い形でしたが、現在「イチトレ」でスキルや実績を可視化できるようになったため、今後は等級制度のような形で、社員登用時にその評価を引き継ぐような形式を考えています。

宮田
学生時代に培ったスキルを社員登用時に評価として引き継いでいくのは、スタッフ側のメリットにもなりますし、会社としてより長期的な雇用にも繋がっていきそうですね。

改革された店長の働き方。求められる今後の役割とは

宮田
「0研」がなくなったことで、店長が店舗業務に専念できるようになったとのことですが、今後店長により期待する役割は、どのようなものがありますか?

清宮さん
店舗の「コーディネーター」としての役割
ですね。

創業時から変わらない「店は舞台」という考え方があるんですが、つまり店長の役割は“舞台監督”であり、スタッフが“演者”なんです。

一方、ラーメン屋によく行かれる方はわかるかと思うんですが、どうしても店長が麺を茹でて丼に盛り付ける、麺上げをしたがるんですよ(笑)。

宮田
あーでも、確かにイメージわきます(笑)。かっこいいですもんね。

清宮さん
でも麺上げじゃなくて、店長に本当に期待するのは、舞台であるお店や演者であるスタッフなど、全体をコーディネートする力なんです。

もっと言葉をシンプルに明文化して、大事にしていきたいなと思っています。

宮田
逆に、あまり時間を割いてほしくない業務はありますか?

清宮さん
こちらも宮田さんが冒頭でおっしゃっていたような課題と共通するのですが、書類作業などを効率化して、事務作業やパソコンとにらめっこする時間やストレスを極力減らしてあげたいなと思っています

「顧客価値」を創造するテクノロジー活用がカギ

宮田
今後、よりよい店舗・ブランドづくりに向けて、活用していきたいテクノロジーはありますか?

清宮さん
厨房にAIを導入してオペレーション改革を進めたいと思っています。AIは飛躍的に進歩しており、厨房オペレーションの改善にも力を発揮するはずです。

一方、本格的に導入すると大きなコストも発生するため、多くの企業で踏みとどまっているのが現状で、産官学の連動が必要になってくると思います。

なので今できることとして、弊社でいうところの「イチトレ」のように、少しずつ改善できるところからテクノロジーを活用し、オペレーション力を上げていくのが良いのではないでしょうか。

また、店舗全体でのテクノロジー活用は「顧客価値の作り方」がポイントになってくると思います。入店時に顔認証し、蓄積された顧客データベースから趣味嗜好と紐付けるようなことは、やろうと思えばできるような時代になってきています。

それを踏まえ、たとえば一風堂らしい店舗を構えつつ、その隣接地にスタッフがいない新たなラーメンブランドを作ってみるようなことも面白いと思っています。

宮田
最近話題の中国の無人スーパーや「Amazon Go(アマゾン・ゴー)」のようなイメージですかね?

清宮さん
「Amazon Go」のニュースを見たとき本当にビックリしたんですが、あれをラーメン屋でできたらカッコイイよなと。

宮田
カッコいいですね、「一風堂・ゴー」みたいな(笑)。

このように、テクノロジーの普及によって外食産業も大きく変革していくと考えられますが、今後の外食産業において活躍していくのはどのような人材だと思いますか?

清宮さん
色んな業界を経験してきた方が外食産業に入ってくると、もっと活性化すると思いますが、中でもIT業界の方々が日本の外食産業を手がけ始めると、世界に勝てる外食コンテンツができるんじゃないかと考えています。

日本は世界に誇れる食文化を持っていますが、一方仕組み化を苦手にしていて、おとなり韓国や中国に遅れをとっており、このままでは世界で勝てないと感じています。

世界で勝つにはやはり仕組み化は避けて通れません。その仕組み化によって世界に日本の食を届けられるようになってこそ、クールジャパンを実現できるのではないでしょうか。

2020年、東京オリンピックを起点に、仕組み化に積極的に取り組んでいきたいです。

宮田
韓国や中国はテクノロジーの活用が進んでいるとおっしゃっていましたが、具体的にどの分野の仕組み化に強みを持っているのでしょうか?

清宮さん
中国は(電子マネー等の)決済システム導入のスピード感
が本当に凄いですね。みんなお財布を持たないというのが当たり前になってきています。農村の方々も携帯から決済していたり。

宮田
「Alipay(アリペイ)」のような。

清宮さん
そうですね、この点日本はまだまだ遅れているなと感じています。

一方の韓国では、色んなオーナーさんが、ラーメンやお寿司などの様々な業態をパッケージ化し、それをフランチャイズ化して世界で展開しています。「日本食」というキーワードは世界でも広がっていますが、そのオーナーやオペレーターは韓国の方だったというケースがすごく増えています。

このあたりが中国や韓国と比べて日本はまだまだ遅れているという印象ですね。

日本食文化の未来を見据えて。

宮田
多くの国がテクノロジーを活用して外食産業を進化させていく中で、日本においてもさらなる推進が必要だなと感じました。

最後に本日のお話を通して、会場の皆さんへのメッセージとして、外食産業の人事やテクノロジーについて、どのようなことを見据えていくのが良いか、一言いただけますでしょうか。

清宮さん
食だけではないのですが、世界に誇るべき日本の文化には、世界をいい意味で変えるヒントが詰まっていると思っています。これを、自国で満足するだけでなく世界に発信していく必要を感じています。

もちろん、先ほどのテクノロジーはもちろん文化そのものも含め、日本自体が変わらなければならない部分もたくさんあります。海外で日本の食文化を発展させつつ、それをまた日本に逆輸入したり還元したりすることで、もっと垣根をとっぱらって取り組んでいければと思っています。垣根をなくすうえでは、外国人労働者の就労環境改善も、そのエネルギーを生み出す大きなポイントになるはずです。

そのためには、いま外食産業にいる人材だけでなく、業界をまたいだリーダーたちも含めて、外食産業の新しい流れをつくっていく必要があるのではないでしょうか。

宮田
ありがとうございます。本日のお話を通して、私も外食産業に訪れている時代の変化や、その中で皆さまが感じている課題、今後を見据えた取り組みなどを、改めて認識することができました。清宮さん、本日はありがとうございました!

清宮さん
こちらこそ、ありがとうございました!

藤田 隼

SmartHR Mag. 2代目編集長。ソーシャル系スタートアップでSNSマーケティングや自社メディア運営に携わり、2015年よりメディアに特化した事業会社で複数サイトのディレクターを経験した後、SmartHRにジョイン。ウェブ解析士。
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