日本の食文化を世界へ 〜一風堂の海外多店舗展開を支える『人事戦略』とは〜 【前編】

2018.10.17 ライター: 藤田 隼

2018年9月6日、株式会社ビズリーチ主催「FUTURE of WORK JAPAN 2018 – 未来の経営と働き方に出会うEXPO」が開催されました。

労働人口の減少やグローバル化の加速、テクノロジーの進化など、時代は大きな社会変化を迎えています。同イベントでは、企業競争力の源泉が人材へとシフトしていくなか、企業はこれからの経営と働き方をどう捉えるべきなのかについて、様々なヒントと出会いの提供、そして変革の機会創出を掲げています。

同イベントでは、株式会社SmartHR 代表取締役CEO・宮田 昇始が、株式会社力の源カンパニー 代表取締役社長・清宮 俊之さんをお招きし、「日本の食文化を世界へ 〜一風堂の海外多店舗展開を支える『人事戦略』とは〜」と題してインタビューセッションを実施しました。

その内容を前後編に分け、前編となる本稿では「飲食業の海外展開と人材確保」についての議論をお届けします。

冒頭挨拶

宮田
皆さん、こんにちは。株式会社SmartHRの宮田と申します。

本日は、人気ラーメンブランド「一風堂」をはじめとした飲食チェーンを運営する力の源カンパニー社長の清宮さんをお招きして、「一風堂の海外多店舗展開を支える『人事戦略』とは」というテーマでお話させていただければと思います。

まず本題に入る前に、SmartHRについて簡単に紹介させていただきます。

(サービス紹介中略)

もともと「SmartHR」はIT企業を中心に広まっていったサービスなんですが、最近では、飲食業や小売業などのチェーン業界で広がりを見せています。

特に、外食産業では、

  • 「アルバイトの入退社が多く書類手続きを効率化したい」
  • 「各店舗への書類郵送をなくし、郵送コストとセキュリティリスクを減らしたい」
  • 「店長の書類業務をなくし、店舗業務に集中してもらいたい」

などのニーズがあり、この業界で広まってきています。

そこで我々としても、外食産業の皆さまが今どんなことに困り、どんなことに力を入れているのかをもっと知りたいと思い、清宮さんにお越しいただきました。

それでは清宮さん、まずは自己紹介をお願いします。

清宮さん
皆さん、初めまして清宮です。

力の源カンパニーでは、「一風堂」というラーメン業態を中心に、国内そして海外と展開しております。実はわたしは、前職まで外食畑ではなくて、TSUTAYA等を運営するCCC(現:カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)という会社に15年おりました。力の源では現在8年目になります。

本日は宜しくお願いします。

宮田:ありがとうございます。

本日の流れとしては、前半で「次代の変化」について触れ、後半では「変化への対応」として、力の源カンパニーさんがどのような人事戦略を立案しているのかについてお話をお伺いできればと思います。宜しくお願いします。

清宮さん
宜しくお願いします。

時代の変化「After 2020」をどう見据える?

(1)東京オリンピック

宮田
まず外食産業を取り巻く時代の変化についてですが、最近「After 2020」という言葉を耳にすることが増えました。

その要素はいくつかあると思いますが、まずは「東京オリンピック」。これを機に外食産業でもいろいろな変化が起こりそうだと、我々SmartHRのお客様から聞く機会が増えています。

清宮さんとしては、この「東京オリンピック」でどのような変化が起こると考えていますか?

清宮さん
やはり既に世の中で言われているように、インバウンド需要が大きく変化します。これは外食産業に限った話ではなく、小売業界等も同様で、外国のお客様をどんどん取り込み、東京を中心にセールスが上がるというポジティブな面があります。

我々の「一風堂」は博多で生まれ、東京はもちろん、海外にも展開しており、大変ありがたい状況ではあるのですが、こと東京に至ってはポジティブな面だけでなく、ネガティブな面も入り乱れてくるのではないかと考えています。

東京オリンピック開催にあたっては、ボランティアとして何万人規模で国から声をかけられます。そうすると、例えば一風堂 銀座店のスタッフが30人いるとすれば、下手するとそのうち15人くらいがボランティアで抜けてしまうかもしれないと考えた時に、人手不足は免れず可及的速やかに人材対策を進めなければならないという状況です。

宮田
「東京オリンピック」においては、人材確保における懸念が発生し、その対策が必要になるということですね。

(2)HACCPの義務化

宮田
時代の変化に関連してもうひとつ。「HACCP(ハサップ)」の義務化が業界で話題になっています。今日ご来場の方には、あまり耳馴染みが無いかもしれないので簡単に説明すると、「HACCP」とは食品や食事を提供する事業者に求められる、食品衛生管理の国際基準です。

清宮さんはこの「HACCP」の義務化で生じる変化についてどのようにお考えでしょうか?

清宮さん
そもそも「HACCP義務化」にまつわる情報が錯綜していてなんとも言えませんが、我々のように食品に従事する立場としては、工場も保有しているため工場のほうに目が行きがちなのですが、店舗や厨房のオペレーションにも「HACCP」は入ってくるため、設備投資等によって食中毒が起こらないような安心・安全な環境の追求が当然必要です。

ただし、(この義務化は事業の大小を問わず対象になると言われているため、)日本中の食品・外食に携わる事業者が今後2年で設備投資していくとなると、多くの方が資金面で営業が立ち行かなくなってしまうかもしれないという懸念があります。

店舗オペレーションに関しては人的な管理基盤を持つことで「HACCP」に対応していくことが必要ですが、設備投資に伴う経営への影響は、企業側も今まさに情報収集しているところだと思います。

そんな中、弊社ではアメリカ発祥の「PANDA EXPRESS(パンダエクスプレス)」という業態を川崎と千葉で運営していますが、アメリカのチームは「HACCP」への対応が完璧にできているので、それを参考に「一風堂」へと持ち込んでいきたいと思っています。

宮田
なるほど、そうすると「HACCP」義務化による変化は、人材オペレーションと設備投資の2つの側面で捉える必要があり、御社としては「PANDA EXPRESS」でのノウハウも参考に対応を進めていくということですね。

一風堂「活躍人材」の定義とは

宮田
このように2020年に向けて「東京オリンピック」「HACCP義務化」という大きな変化が生じる中、変化への対応として、どのような人事戦略を打っていくのかを深掘りさせていただければと思います。

その人事戦略の話の前段として、「今後御社で活躍していくだろう人材」を、どのように定義しているかについてお聞かせいただけますでしょうか。

清宮さん
はい。国籍や性別の垣根がない時代ですし、多種多様な人材がいてこそ会社や店舗が立体的に成り立ちます。

これからの事業展開のスピード感としては、海外展開のほうが早くなっていきますが、そこで活躍している人材を見てみると「自走力」の高い方が多いです。

日本(の本部)に承認を求めて意思決定を仰いでから動くというのは海外では全く通じません。現地で、リスクを負って自分で意思決定しながら日本を巻き込んで動いていくことが求められます。

宮田
国籍や性別を問わず、「自走力」を軸に活躍人材を定義していくと。

清宮さん
そうですね、現在は私が力の源カンパニーの社長を努めていますが、数年後には例えばフランスの一風堂出身のメンバーが社長をやっていても面白いですし、もっと多様性ある会社になっていくと、輝いていくだろうなと考えています。

海外展開に欠かせない「企業理念」の浸透

宮田
いま「海外展開」のお話がありましたが、海外展開において、人事面の狙いはあるのでしょうか?

清宮さん
総論としては、海外に出ていって勝負したいという学生や社会人は、年々少なくなってきているんじゃないかと感じています。とはいえ、(学校や会社など個別の)各論では、海外志向が強い方も当然いらっしゃいます。そのため、そういった方が、10ヶ国以上展開している私たち、力の源グループの事業に魅力を感じることも多々あるかと思います。

宮田
そういった海外展開の際は、日本から送り込む社員と現地採用の社員、どちらが多いんでしょうか?

清宮さん
現在、13ヶ国・地域に展開しており、今後数年でベトナムやニュージーランドなどが加わり20ヶ国ほどになる計画ですが、現時点では新規国での出店の場合、経営スタッフとして日本から社員を現地に送り込んで、スタッフを現地採用しています。

その後3年5年と経った際に、経営スタッフ自体を現地で採用していくようにしています。

宮田
新規出店後の現地採用時や、現地での経営スタッフの採用時に、会社の文化がバラついてしまわないかという懸念はありますか?

清宮さん
エリアによって文化や考え方がまったく異なるので、最初は難しいと思っていました。

会社として、何か軸を通さねばならないということで、この数年積極的に取り組んでいることがあります。

「7つの習慣」という世界的ベストセラーの書籍を外食産業版に置き換えて、「7つの習慣 店舗運営の心得」と題して、フランクリン・コヴィー・ジャパンと共同開発しました。

これをもとに研修を進めていて、国内ではある程度確立されてきたため、海外でもこれをベースに各国に落とし込んでいこうかなというフェーズにあります。

宮田
それを現地スタッフに落とし込んで、軸となる企業理念を浸透させていこうと。

清宮さん
そうですね、一風堂の考え方を自身や家族も含めてドッキングしてもらって、ライフワークとして一緒にキャリアをつくっていこうと取り組んでいます。

採用の間口を拡げる「ブランド」という選択肢

宮田
採用競争が激化する中で、海外展開していくための人材確保はどのように行っていますか?

清宮さん
今後IT化・AI化が当たり前になっていきますが、日本の外食産業はとりわけ様々なブランドが群雄割拠で存在し、今なお新たなブランドが生まれています。

このように採用競争が激化する市場においては、人材確保できる企業が生き残り、そうでない企業が衰退していくという課題があります。とはいえ私たちも今手探りでやっている状況です。

「力の源カンパニーという会社は海外展開中です」と、ポジティブに伝えることはできますが、人材獲得における優位性があるかというと現状そうではないと思っています。

そこで重要になってくるのが「個のブランド力」です。それも闇雲にやるのではなく、世界展開で必要になるであろうブランドを日本で実験して、様々な人材を獲得できるよう間口を拡げています。

宮田
「一風堂」だけでなく多様なブランドで採用の間口を拡げているんですね。ブランドによって、どのブランドが採用しやすいなどの傾向はあるのでしょうか?

清宮さん
傾向はありますね。弊社の創業の地は福岡の博多ですが、東京でも「一風堂」たけでなく他社も含めて、博多ラーメンが行列をつくっており激戦区もあります。

たとえば「一風堂」の新しい店舗を出すとなった際、採用も安定化してはいるのですが、応募が100名200名と応募が来るかと言ったらそんなことはないんですね。

一方、東京発のハンバーグ店で「山本のハンバーグ」という人気ブランドがありますが、このブランドを私たちが現在福岡で展開させて頂いています。昨年、博多の繁華街からは少し離れた六本松という場所にオープンしたのですが、スタッフ募集として求人広告を1回地元紙に載せただけで、女性を中心に100名ほど応募がありまして。

宮田
100人も……!(笑)

清宮さん
「東京のブランドが博多にくる」という優位性もあるでしょうし、何より洋食って人気なんだなと。

なので、「外食産業って人が集まりにくいです」って言われがちですが、ブランドが確立されていれば人材はしっかりと集まるんだなと思いました。

世の中の総論として人材難と言われているかもしれませんが、各論としての個別的な課題や対策は正しく把握できないんだなと再認識しました。

後編につづく

藤田 隼

SmartHR Mag. 2代目編集長。ソーシャル系スタートアップでSNSマーケティングや自社メディア運営に携わり、2015年よりメディアに特化した事業会社で複数サイトのディレクターを経験した後、SmartHRにジョイン。ウェブ解析士。
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