今求められる、ISO30414とは? 人的資本情報開示の背景と重要性


2018年に発表された人的資本に関する情報開示のガイドラインISO30414が今、注目を集めています。そして、2022年8月には日本政府より人的資本可視化指針が発表されました。本記事では、ISO30414の重要性に関して、何を目的としたものなのか、世界での導入状況などを説明いたします。

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ISO30414(人的資本に関する情報開示の国際標準ガイドライン)とは?

ISO30414(読み:アイエスオーサンゼロヨンイチヨン)とは、2018年にISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)が発表した、社内外に向けた人的資本に関する情報開示のガイドラインです。内容としては、11領域49項目にわたり、企業における人的資本の情報開示規格が定められています

(参考)ISO 30414:2018 Human resource management — Guidelines for internal and external human capital reporting – ISO

ISO30414の目的

国際的基準として、ISO30414が発表された目的は主に2点です

人的資本情報の統一と可視化

人的資本情報の開示により、企業が「人的資本(Human Capital)に対してどのような姿勢を持っているのか」が、定量的かつ定性的に示され、客観的な把握が可能になります。

例えば、

  • どのように人材を確保しているのか
  • 人材に対してどのような教育を行っているのか
  • 育児休業の取得率は上がっているか
  • 男女の賃金差や女性管理職の比率はどうか
  • それによる企業利益はどのようなものか

など、人的資本に対する企業の取り組みを各社バラバラの指標で出すのではなく、統一された国際標準の指標のもと、可視化されます。

人的資本経営による企業の持続的成長

前述したように、「企業がどのように人的資本経営を実践しているか」が可視化されることにより、採用競争が激化している現代において、企業が人材確保・育成について対策すべき課題や戦略が見えてきます

可視化された人的資本情報を研究・分析することにより、採用市場における競争力の強化や生産性の向上が期待され、企業の持続的成長が可能になります。

ISOとは

ISOとは、スイスのジュネーブに本部を置く非政府機関「International Organization for Standardization(国際標準化機構)」の略称です。ISOの主な活動である、国際的に通用する規格制定により、異国同士でのスムーズな取引が実現します。ISOにより、“世界中で同じ品質、同じレベルのものが提供できるようになる”のです。2014年時点では、規格制定や改訂の際は、日本を含む世界165ヵ国が投票へ参加します。

そして、ISO規格が定める対象は2種類あり、ISO30414は後者にあたります。

  • 製品そのものに対するモノ規格
    • 非常口のマーク(ISO7010)、カードのサイズ(ISO/IEC7810)
  • 組織の品質活動や環境活動に対するマネジメントシステム規格
    • 品質マネジメントシステム(ISO 9001)、環境マネジメントシステム(ISO 14001)

ISOとは

(出典)ISOの基礎知識 – 一般財団法人 日本品質保証機構

また、品質マネジメントシステム(ISO 9001)、環境マネジメントシステム(ISO 14001)といったマネジメントシステム規格に関しては、原文が英語やフランス語で作成されるため、忠実に翻訳され、日本の国家規格として発行されたものが、JIS Q 9001やJIS Q 14001です。

(参考)ISOの基礎知識 – 一般財団法人 日本品質保証機構

人的資本とは

人的資本(Human Captal)とは、人材が持つ能力や技術、知識を資本と捉えることを指します。

経済産業省では、中長期的な企業価値向上につなげるための経営のあり方として、人材を“資本”として捉え、その価値を最大限に引き出す人的資本経営を掲げています。

これは、今までは企業における資本を所有する資金や物として考えていましたが、人的資本経営では人が持つ能力や技術、知識の価値に目を向ける動きが高まっていることに起因します。

これには、超少子高齢社会による働き手の減少や、キャリア・働き方に対する個人の意識変化など、さまざまな要因が考えられます。優秀な人材の確保や育成、組織構築といった複合的な人材戦略が必要不可欠となった結果、有形資産から無形資産である人的資本が重要視されることとなったのです。

(参考) 人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~経済産業省

人的資本可視化指針

日本国内でも、2022年8月30日に日本政府から人的資本可視化指針が発表されています。本資料では、“人的資本の可視化の方法”、“可視化に向けたステップ”が紹介されています。その中で示されている“人的資本の可視化の方法”に関して、一部見出しを抜粋して紹介します。

人的資本可視化指針 人的資本の可視化の方法

  1. 可視化において企業・経営者に期待されること
  2. 人的資本への投資と競争力のつながりの明確化
  3. 4つの要素(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)に沿った開示
  4. 開示事項の類型に応じた個別事項の具体的内容の検討
  5. 具体的な開示事項の検討に際しての留意点

2022年5月、上場企業に対して有価証券に新しく「男女間賃金格差」「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」の記載を義務づけられました。上記項目以外に、人的資本可視化指針では明確な項目や定義がほとんど記載されていないため、そのほかの国際的な開示基準を参照として例示されています。

「男女間賃金格差」「男性育児休業取得率」に関しては、社会労務士の方に解説いただいた記事がありますので、ぜひ参考にしてみてください。

「男女賃金格差の開示義務」が2022年7月施行! 算出方法と公表期限を社労士が解説

【2022年10月〜】「産後パパ育休」と「育児休業の分割取得」のポイントを社労士が解説

(参考)人的資本可視化指針 – 内閣官房

(参考)男女間の賃金格差・男性の育休取得率など公開義務づけへ 金融庁 – FNNプライムオンライン

ISO30414が定める11領域と49項目

これまで述べてきたように、ISO30414は、社内外のステークホルダーに向けた人的資本に関する取り組みを開示するための国際的なガイドラインです。ISO30414が定めるのは、11領域。そして、それぞれの領域に含まれる合計49項目から成り立ちます。11領域と49項目を紹介します。

ISO30414が策定する11領域

  1. コンプライアンスと倫理
  2. コスト
  3. ダイバーシティ
  4. リーダーシップ
  5. 企業文化
  6. 企業の健康・安全・福祉
  7. 生産性
  8. 採用・異動・離職
  9. スキルと能力
  10. 後継者育成
  11. 労働力確保

1)コンプライアンスと倫理

「コンプライアンスと倫理」には、企業がどのようにコンプライアンスに取り組んでいるのかを示す5項目が含まれます。

  • 苦情の件数・内容
  • 懲戒処分の件数・内容
  • コンプライアンス・倫理についての研修を終えている従業員の割合
  • 外部関係者とのトラブル
  • 外部とのトラブルの種類とそれに対してのアクション

(2)コスト

「コスト」では、給与や人件費など、人材に関するあらゆる費用の項目が示されます。コストには、7つの項目があります。

  • 総人件費
  • 外部人件費
  • 平均給与と役員報酬の比率
  • 雇用にかかる総費用.
  • 採用1人当たりの費用
  • 採用にかかる総費用
  • 離職にかかる総費用

(3)ダイバーシティ

「ダイバーシティ」には、「企業がどのように採用活動を進めているか」、「リーダー層にはどういった方がいるのか」を示す、2つの項目が含まれます。

  • 労働者の多様性(年齢、性別、障がいの有無、その他)
  • リーダー層の多様性

4)リーダーシップ

「リーダーシップ」には、代表取締役社長やCEO、CHRO(最高人材責任者)に関する3つの項目が含まれます。

  • リーダーシップに対しての信頼
  • 管理下においている従業員の数
  • リーダーシップの開発

(5)企業文化

「企業文化」には、従業員のエンゲージメントやコミットメントから見る、企業文化に関する2つの項目が含まれます。

  • 1従業員エンゲージメント・満足度・コミットメント
  • 従業員の定着率

(6)企業の健康・安全・福祉

「企業の健康・安全・福祉」には、労働災害など、健康経営に関する4つの項目が含まれます。

  • 仕事中の負傷、事故、病気による損失時間
  • 労働災害の件数
  • 労働災害による死亡者数
  • 研修を受講した従業員数

7)生産性

「生産性」には、従業員一人あたりの生み出す利益など、人的資本と利益に関する2つの項目が含まれます。

  • 従業員1人当たりのEBIT・売り上げ・利益
  • 人的資本に関する利益率

8)採用・異動・離職

「採用・異動・離職」には、最も多い14項目が含まれます。人事戦略に関わる内容です。

  • 各ポジションの候補者数
  • 雇用当たりの質
  • 空きポジションを埋めるまでの期間の長さ
  • 重要な空きポジションを埋めるまでの期間の長さ
  • 将来に対する現状の人材充足度
  • 内部充足度
  • 重要なポジションの内部充足度
  • 重要なポジションの割合
  • 重要なポジションの空き割合
  • 内部異動率
  • 従業員の層の厚さ
  • 離職率
  • 重要なポジションの従業員の離職率
  • 退職の理由

(9)スキルと能力

「スキルと能力」には、従業員に対して、どのように能力開発を行なっているかを示す3つの項目が含まれます。

  • 教育費用
  • 教育活動の時間数・参加率
  • 労働者のコンピテンシーの比率

10)後継者育成

「後継者育成」には、CEO、CFO、CHROなど経営陣や責任のあるポジションの後継者育成に関する3つの項目が含まれます。

  • 後継者の有効率
  • 後継者のカバー率
  • 後継者の準備率

11)労働力確保

「労働力確保」には、企業が確保できている労働力を示す領域です。4つの項目が含まれます。

  • 総従業員数
  • フルタイム・パートタイムそれぞれの従業員数
  • 外部からの労働力
  • 休職者数

(参考)Human resource management — Guidelines for internal and external human capital reporting – ISO ISO 30414:2018

ISO30414が注目される背景

人的資本経営の気運が高まるなか、2018年に発表されたISO30414が注目されることになった理由には、主に3つの背景があります

(1)ESG投資とSDGsの浸透

「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」を表す、ESG投資。企業の事業成長のために欠かせない3つの観点として、投資家に注目されています

事実、ESG投資に関する投資額としては、日本では2018年から2020年の間で34%の増加、アメリカでは43%の増加を記録しています。2018年から2020年の世界投資総額としては、35兆3,010億米ドル(約3,900兆円/2020年時点)となっています。

世界で増加するESG投資

世界で増加するESG投資

(出典)GSIR 2020 – GSIA

SDGsの目標5番目「ジェンダー平等の実現しよう」や目標8番目「働きがいも経済成長も」、目標10番目「人や国の不平等をなくそう」といった取り組みを行なっている企業には、ESG投資の対象として注目が集まりやすくなっています。

そのため、これらの目標に対する取り組みをISO30414に沿って開示を行うことで、投資家の判断材料となり得るのです。

(参考)GSIR 2020 – GSIA

(参考)SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン – 国際連合広報センター

(2)コーポレートガバナンス・コードの改訂

2021年6月に日本取引所グループから発表された改訂版コーポレートガバナンス・コード。本資料では、多様性の確保とサステナビリティに関して、以下のように記述されています。

2.企業の中核人材における多様性の確保

■管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標の設定

■多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表

3.サステナビリティを巡る課題への取組み

■プライム市場上場企業において、TCFD 又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実

■サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示

(出典)改訂版コーポレートガバナンス・コード – 日本取引所グループ

この改定により、上場企業にはISO30414に沿った人的資本情報の開示が求められることとなりました。

こういった取り組みに関しては、株主だけではなく、従業員に対してもわかりやすく定量的に示すことにより、企業理解に役立つものとされています。

(参考)改訂版コーポレートガバナンス・コード – 日本取引所グループ

(3)人的資本の重要性の高まり

2020年9月、経済産業省が発表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書(人材版伊藤レポート)」。これは、一橋大学特任教授・伊藤邦雄氏主宰による人的資本経営や人材戦略を対象とした研究会における、報告書です。

レポート内では、

持続的な企業価値の向上を実現するためには、ビジネスモデル、経営戦略と人材戦略が連動していることが不可欠である

(出典)「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書(人材版伊藤レポート)」 – 経済産業省

と記載されており、人的資本を活用した人材戦略の重要性が問われています。このような人的資本の重要性の高まりから、情報開示のガイドラインであるISO30414が注目されています。

(参考)「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書(人材版伊藤レポート)」 – 経済産業省

ISO30414がもたらす効果

ESG投資の高まりや社会の変化から発表されたISO30414。この規格が示すガイドラインに沿って、人的資本情報の開示を実施することで、企業にもたらされる効果について説明します。

企業価値・採用力向上

ISO30414に沿って人的資本の情報開示をすることで、企業価値・採用力向上につながると考えられます。確保した人材に対する十分な教育の実施などに関して情報を示すことで、採用へ応募する際の判断材料となります。

また、人的資本を定量化することで可視化され、戦略的な人的資本のコントロールが可能となります。これにより実現性および、効果の高い人事戦略の立案ができるでしょう。

投資家への透明性、確実性のある情報提供

ISO30414に沿った人的資本情報の開示により、企業は定性・定量的な情報提供が可能となります。これらの情報は、投資家をはじめとするステークホルダーが、企業の人的資本の状況を適切に判断するための材料となります。

人的資本の情報を可視化することで、適正な投資評価や企業価値向上といった効果が考えられます。

海外・国内企業におけるISO30414の導入状況

ISO30414の海外や国内企業における導入状況を見ていきます。アメリカでは上場企業に対する人的資本情報の開示が義務化され、ドイツでは人的資本に関するレポートを投資家に向けて発表する企業も増えています。

アメリカでのISO30414導入状況

アメリカではISO30414の導入が積極的に行われています。2020年8月には、米国証券取引委員会(SEC)がアメリカ国内の上場企業に対して“人的資本の開示を義務化”する旨のレギュレーション S-K(非財務情報の開示に関する要求事項)の改訂を発表しました。情報開示規則が変更されるのは実に30年以上ぶりとのことで、ISO30414をベースにした情報開示が行われるようになりました。

(参考) SEC Adopts Rule Amendments to Modernize Disclosures of Business, Legal Proceedings, and Risk Factors Under Regulation S-K – 米国証券取引委員会

ドイツでのISO30414導入状況

ドイツでは、ドイツ銀行「Human Resources Report」をはじめ、保険を取り扱うアリアンツ社「People Fact Book」、半導体を取り扱うインフォニオン社「HR Report」など、人的資本情報のレポートを公開する企業が多く存在します。

また、ドイツ銀行傘下の資産運用を行うDSW社は、2020年に5ページにまとめられたシンプルな「DWS HUMAN CAPITAL」を公開し、2021年1月に世界初となるISO30414認証企業となっています。

ドイツ銀行

ドイツ銀行は、フランクフルト証券取引所(FSE)の上場銘柄のうち、時価総額と流動性が大きい40銘柄を指す、DAX40企業の一つです。2020年に公開された「Human Resources Report 2020」に続き、2021年には「Human Resources Report 2021」を発表しています。これらのレポートは、DAX40企業として2年連続、最初のレポート公開となっています。また、2021年3月には自社傘下であるDSW社に続き、ISO30414認証企業となりました。

「Human Resources Report 2021」のなかでは以下の人的資本情報について、データに基づき投資家に対して、説明されています。

1.Optimized workforce (最適化された労働力)

  • 1.Adding value by managing our workforce (従業員マネジメントがもたらす付加価値)
  • 2.Enriching our workforce (従業員の充実)

2.Leaders of the future (未来のリーダー)

  • 3.Developing our leaders (リーダーの育成)
  • 4.A stronger bank through diversity and inclusion(ダイバーシティとインクルージョンによる、より強い銀行)

3.Empowered employees (権限を与えられた従業員)

  • 5.Reimagining the Future of Work (仕事の未来の再考)
  • 6.Creating a motivating and engaging working environment (意欲的で魅力的な職場環境の創造)
  • 7.Rewarding performance (やりがいのあるパフォーマンス)
  • 8.Developing our employees (社員の育成)

4.Safe bank(安全な銀行)

  • 9.Ensuring our employees’ wellbeing (従業員のWell-beingの確保)
  • 10.Strengthening consequence management (結果管理の強化)

(参考)HR Report2021 – ドイツ銀行

(参考)People Fact Book – アリアンツ社

(参考)HR Report – インフォニオン社

(参考)DWS HUMAN CAPITAL – DSW

(参考)DWS Commits to Human Capital Reporting Standards – DSW

日本国内でのISO30414導入状況

日本国内でもアジア初となる、ISO30414認証取得企業が生まれています。株式会社リンクアンドモチベーションが2022年に「Human Capital Report 2021」を発表し、同年ISO30414認証を取得しています。

株式会社リンクアンドモチベーション

2022年に発表された、「Human Capital Report 2021」では全47ページにわたり、同社のISO30414に基づく人的資本情報に加え、組織戦略、経営の考え方などが図表を交えてわかりやすくまとめられています。

(参考)機関投資家の非財務資本開示に関する意識調査結果を公開 – 株式会社リンクアンドモチベーション

ISO30414で人的資本情報を明確に発信

ISO30414に関して、その概要、目的、策定された背景などを解説させていただきました。ISO30414取得はゴールではなく、人的資本情報を定量的に開示することで社内外のステークホルダーに透明性のある情報が届き、そこから持続的企業成長につながることが重要だと考えられます。

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