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HR総研が予測する2022年HRキーワード「人的資本開示の本格化」

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VUCAの時代と言われ、社会やビジネスの不確実性、複雑性などが高まるなか、2022年も人事領域において、新たな課題や変化が生じることが予想される。そこで、混迷を極める未来を予測していくために、HR総研に「2022年注目のHRキーワード」を解説いただいた。

※HR総研と株式会社SmartHRが共同で制作した資料、『2021年人事4大トピック&2022年HR予測キーワード ――HRのプロ4人とHR総研が解説』から、一部を抜粋。許諾を得て転載しています。

■執筆者 松岡 仁 ProFuture株式会社 取締役/HR総研 主席研究員

1985年大学卒業。文化放送ブレーンで大手から中小まで幅広い企業の採用コンサルティングを行う。ソフトバンクヒューマンキャピタル、文化放送キャリアパートナーズで転職・就職サイトの企画・運営に携った後、2009年に採用プロドットコム(現ProFuture)に入社し、各種調査の企画・分析を担当。「東洋経済オンライン」「WEB労政時報」に連載中。

「人的資本開示」

経済産業省の「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」(人材版伊藤レポート)を受けて、2021年6月11日、東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード」が改訂され、「人的資本」に関する情報開示という項目を追加されました。

開示項目のフォーマットがあるわけではなく、国際標準ガイドライン「ISO30414」に定められた11カテゴリ58指標を参考にして、開示情報を決める企業が多くなると推測しています。中でも、「5.組織文化」カテゴリの「エンゲージメント等の従業員意識」は、サーベイによる数値化(定量化)が可能ですので、その推移を指標として開示する企業が多いのでないかと推測しています。

これまで、株主総会やIRは、総務部や経理・財務部、経営企画部などの管轄とされ、人事部はあまり関与してきませんでしたが、もはやそうは言っていられません。今後は、株主総会の質問の多くを人的資本関連の項目が占めることもあり得ます。

コーポレートガバナンス・コードは上場企業に向けてのものになりますが、その関連会社も当然対象になります。また、人的資本開示の動きは欧米諸国をはじめとした海外の方が先行しており、今後、海外との取引時には上場の有無とは関係なく、取引先から開示を求められるケースが増えてくるものと推測しています。

「脱人事部」

人事部は、これまで管理部門の1つとしてとらえられがちでしたが、管理部門から戦略部門へと大きく変わっていく必要があります。事業戦略に沿った人事戦略を策定し、さらには生産性向上に向けて従業員エンゲージメントを高めるべく、カルチャー変革の中心的役割をも期待されます。

かつて、「ひとごと部」と揶揄されることもあった人事部から、従業員一人ひとりに寄り添い、血の通ったコミュニケーションが取れる組織へと、率先してカルチャー変革をしていくことが求められています。

すでに外資系企業では、「エンプロイー・サクセス」等、従業員の働きがいのある職場にすることを部門のミッションとした名称に変更する例も出てきています。

「ラーニング・アジリティ」

ラーニング・アジリティとは、組織・人事コンサルティング会社のコーン・フェリーが提唱するコンセプトで、「学習機敏性」と訳されています。過去の環境や経験から素早く学び、その学びを初めての状況にもすぐに応用することのできる能力とされています。

VUCAの時代と呼ばれる変化の激しい現代においては、過去の成功や常識にとらわれずに、すぐに新しい環境に適応していくことが求められています。

学習機敏性は、どちらかというと先天的な資質といわれていますが、新しい環境に適応していこうとするマインドセットによって、その資質の向上も期待できるともいわれており、新しい人材開発のテーマになるものと推測しています。

「真のダイバーシティ&インクルージョン」

これまでの日本の「ダイバーシティ」は、少子高齢化による労働力人口減少という社会課題に対応すべく、人材を確保する視点で重要視され始めたこともあり、性別や年齢、学歴、障がい、国籍(人種・民族)など、デジタルに区別しやすい違いで語られることがほとんどでした。

ただ、表面的には同じに見えるがために見落とされがちになる内面的な違い、すなわち考え方や価値観、働き方、趣味嗜好、経験なども含めてとらえる必要があります。

また、企業や組織内における個人の多様性を活用することが企業の成長につながるという企業側の理論によるマネジメントである「ダイバーシティ経営」から、企業の成長だけでなく、個人それぞれが自身の多様性を生かして最大限に能力を発揮し、個人の幸福感(エンゲージメントの向上)にもつなげようとするマネジメント「ダイバーシティ&インクルージョン」へと進化させる必要があると考えます。

「人事部門の生産性向上」

2020年初頭からの新型コロナ対応の中で、人事部門は新たな制度づくりや、HRテクノロジーの導入によるオンライン化対応など、本来の業務にプラスしての業務が重なり、多忙な2年間を過ごされたと推測します。

これからは、人事業務におけるペーパーレス化の推進や、作業にあたる定型的な業務の見直しなど、人事部門の生産性向上を図るべく、HRテクノロジーの導入や仕組みづくりに取り組むべきでしょう。

例えば、社内からの人事部門への各種手続き関連の問い合わせ対応は、チャットボットに移行することで24時間対応が可能となりますので、かえって従業員満足度の向上にもつながり、内線電話やメールで問い合わせ対応していた担当者は、別の業務に時間を割くことができるようになります。

採用活動における説明会や面接を対面型からオンラインに切り替えたことで、事前準備や当日運営にかけていた手間やコストを大幅に削減できたことは、多くの企業で実感されているはずです。人事関連業務の中で、効率化できることはまだまだたくさんあるはずです。

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