サーベイをどのように扱い、従業員のやりがいや行動変容につなげていくか ― 旭化成三橋氏から学ぶ、個人と組織の成長につながるエンゲージメント

エンゲージメント向上への取り組みを各社が行う中、旭化成グループでは独自の施策に取り組んでいる。「個人と組織の活力向上と成長」が実現できる組織づくりを目指す同グループでは、2020年度にそれまで実施していた従業員意識調査の内容を抜本的に見直し、ワーク・エンゲージメントや成長につながる行動も確認できるサーベイ「KSA(活力と成長アセスメント)」を新たに導入した。

今回、そのKSAを推進する旭化成株式会社 人事部 人財・組織開発室 室長 三橋 明弘氏をお迎えし、株式会社SmartHRのプロダクトマーケティングマネージャー 重松 裕三氏が、KSA推進の背景や具体的な取り組みなどについて話を伺った。

※HRプロと株式会社SmartHRが共同で制作した資料、『サーベイをどのように扱い、従業員のやりがいや行動変容につなげていくか――旭化成三橋氏から学ぶ、個人と組織の成長につながるエンゲージメント』から抜粋。許諾を得て転載しています。

三橋 明弘 氏 旭化成株式会社 人事部 人財・組織開発室 室長

1988年、旭化成工業株式会社入社。住宅事業部門営業、人事部人事制度企画、関係会社事業企画、事業部門人事等を経て現職。人材・キャリア開発、組織開発を所管。

重松 裕三 氏 株式会社SmartHR プロダクトマーケティングマネージャー

慶應義塾大学商学部卒業後、コンシューマー向けプロダクトを開発する企業で、プロダクトマネージャーとして新規事業の立ち上げを複数手掛けつつ、組織内最大チームのマネジメントを担う。2019 年、SmartHR に入社し、プロダクトマーケティングマネージャーとしてクラウド人事労務ソフト「SmartHR」の機能開発に貢献。人事情報を活用し組織の力を向上させるサービスの企画開発も担当し、2020年9月に「従業員サーベイ」機能を、2021年10月に「人事評価」機能をリリース。

旭化成独自のサーベイ「KSA」が生まれた背景

重松氏:本日は、貴社独自のサーベイ「KSA(活力と成長アセスメント)」について伺いながら、「エンゲージメント」や「人的資本経営」に関するお話もしていきたいと思います。貴社ではこれまで実施されていた従業員意識調査を見直し、KSAを導入されたとのことですが、これにはどのような背景があったのでしょうか。

三橋氏:当社では15年程前から従業員意識調査を3年毎に実施していましたが、いくつもの課題を抱えていました。まず、設問数が180問ほどと非常に多く、回答に大きな負担がかかっていました。大量の設問を設けて調査をするものの、その結果は経営への報告と共有以外に活用できておらず、現場の改善にはつながっていませんでした。

さらに、3年に1度という頻度も情報の鮮度という観点で課題となっていました。しかも、分析を外部の委託先に依頼をしており、分析結果が出るのに時間がかかっていたことも悩みの種でした。

重松氏:その課題のもと、どのような思想でKSAを設計されたのでしょうか。

三橋氏:旭化成グループでは、「個人と組織の活力向上と成長」が実現できる組織づくりを目指しています。

そのためには、調査したデータを現場にしっかりとフィードバックしなければなりません。その上で、各職場でどのような課題があるのか、どういう方向性で組織をつくるのがいいのか考えてもらい、アクションにつなげる必要があります。そういった背景からKSAを設計しました。年1回のペースで実施しており、2022年の今年で3回目となります。

重松氏:今年発表された貴社の中期経営計画でも、経営戦略の中に人材に対するポリシーがしっかりと組み込まれており、KSAの位置付けが明確になっていると感じました。

三橋氏:旭化成は『中期経営計画 2024 ~Be a Trailblazer~』を策定し、2022年4月よりスタートさせました。そこでは、「Green(グリーン)」、「Digital(デジタル)」、「People(人財)」という3つのトランスフォーメーションを掲げています。

つまり、経営戦略で「人は財産、すべては『人』から」と明確に掲げているのです。そして、挑戦・成長を促す「終身成長」と多様性を活かす「共創力」で未来を切り拓くというメッセージを出しています。その中でKSAのサーベイを活用して、個人の「やりがい」や「ウェルビーイング」、そして事業や企業の競争力の強化につなげていくことを目指しています。

サーベイの結果を踏まえ、具体的なアクションにつながっているか

重松氏:KSAは大阪大学の開本 浩矢教授と開発をされた独自のサーベイだと伺いました。

三橋氏:はい。組織行動論の専門家である開本先生とディスカッションをしながら、指標と設問を作成していきました。ベースとなる職場環境と、上司・部下関係があり、それが活力に影響します。そして、活力のひとつが「ワーク・エンゲージメント」で、成長につながる行動を生み出していくというプロセスです。また、行動していると活力が高まるという逆の循環も起こるので、それをサイクルとしてモデル化して設問を設定しました。

重松氏:以前の従業員意識調査では180問ほどあったということですが、KSAでは何問程度設けられたのでしょうか。指標や設問は貴社独自のものになるのでしょうか。

三橋氏:設問は80問程度です。あまりオリジナルの指標や設問を作ってしまうと、分析が複雑になってしまうため、基本的に世の中で色々と検証された指標や設問を設定しています。

KSAの特徴としては、実際にアクションにつながったかどうかの設問を入れていることです。サーベイの最後の方に「前回のサーベイ分析レポートの内容について、上司からフィードバックを受けましたか」、「そのサポートについて職場で対話をしましたか」、「それを踏まえて何か取り組みをしましたか」といったことを、全員に聞くようにしています。こうすることで、サーベイ結果を踏まえたアクションが起こっているのか、測定しているのです。

重松氏:従業員に対して、アクションの可否を聞くというのは面白い視点ですね。サーベイを何度か行って、その経年比較で改善したかどうかを見ることはよくありますが、実際にサーベイ結果を踏まえて行動に出たかどうかを問うのは初めて聞きました。こうしたKSAの取り組みのなかで、貴社ではどのようなことを大切にしながら進められたのでしょうか。

三橋氏:こうした従業員調査のレポートは、どうしても数字にこだわって、他部署と比較してしまいがちです。しかし、レポートは他と比べるというよりは、マネージャーにとって現状を知るためのひとつのきっかけにすぎません。この結果を踏まえてメンバーと対話をして、職場の状況を確認していくという行動が大切だと伝え続けています。

KSAを浸透させるための動画作成や、サーベイ活用の研修を実施

重松氏:KSAを啓発するための工夫は何かしていらっしゃいますか。

三橋氏:KSAの目的や結果の活用方法について、私たちが解説する動画を作成しています。他部署との比較ではなく、自組織の変化を意識してみていく必要があるということもメッセージに含んでいます。特にマネージャーに見てもらうように、KSAの調査レポートが出た時の案内に動画URLも貼り付けてメールで送っています。

重松氏:動画にまとめてあれば、好きな時に視聴できるので便利ですね。

三橋氏:それでも、なかなか見ないという人もいます。そこで、主に新任マネージャー向けに、レポートを活用して自組織でどう対話すればいいのかという「ファシリテーション講座」を開催しています。規模としては、今年度は240人くらいの部課長が参加しています。

このように、KSAに対する理解を深めると共に、レポートを踏まえてアクションするという意識の醸成、そして職場での対話スキルも身に付けてもらっています。また、これは今後の取り組みになりますが、レポートを読み込んで職場で起こっていることの仮説を立て、メンバーとの対話をどう行っていくのか、具体的なサポートもしていく予定です。

重松氏:確かに、データをマネージャーに渡すだけでは数字だけを見て他と比較するだけで終わってしまう場合がありますよね。そこを、KSAの狙いや活用方法を正しく伝えることで、さらに良い循環が回っていくと。

三橋氏:一方で、特に人事がサポートをしなくとも、KSAを活用して自発的にアクションを起こして、成果を出している部署もあります。そうした部署にヒアリングを実施して、取り組み事例もまとめました。この情報をファシリテーション講座の最後に紹介するなど、横展開していくことも考えています。

重松氏:こうした事例を人事がヒアリングして、社内に展開することは、会社全体の底上げになりますし、紹介された部門のさらなるモチベーション向上につながりそうですね。

三橋氏:また、人事もヒアリングをしたり、各部署のサポートを行ったりする以上、しっかりと知識を身に付けなければなりません。そこで人事メンバーにも、組織開発の勉強をしてもらっています。

「個人と組織の活力向上と成長」に向けて、サーベイの結果をどう扱うべきか

重松氏:KSAの設計から浸透まで、かなり綿密に手を掛けて育てている取り組みだと思いますが、一方で課題も多かったのではないでしょうか。

三橋氏:たくさんあります。1つは、どうしてもデータ分析偏重になってしまうことです。特に旭化成はメーカーで、物質の分析データを見ている技術者がたくさんいますから、より細かく分解的に見ようとしがちです。しかし、こうしたサーベイは人が主観的に付けているものですから、データだけをただ掘り下げていくよりも、人に聞いた方が早いですよね。それを分かってもらうことが大変です。

重松氏:メーカーならではの大変な課題なのかもしれませんね。

三橋氏:悪いところが目についてしまうことも課題です。KSAは活力と成長のアセスメントですから、プラスの部分に目を向けることが重要になります。マイナスをゼロにするのではなく、現状をさらに良くする活動だということを理解してもらうのに、まだ時間がかかっていますね。それから、“やらされ感”も問題です。レポートが来ると、どうしても義務感が生じますよね。マネージャーによっては、煩わしく思ってしまうこともあります。

そのため、先ほどお話しした動画の中では、「KSAは、あなたのマネジメントをしっかりと回していくための見える化ツールですよ」と伝えています。あるべき姿に向けて変わっていこうという時に、現状を把握するための材料として活用して欲しいのです。

重松氏:KSAの調査結果は、どのように公開しているのでしょうか。

三橋氏:階層別に段階的に公開しています。まず調査を行って分析をして各事業部長以上にフィードバックしているのです。さらに1ヵ月後、部課長にレポートを公開しています。その1ヵ月の間に事業部長と人事が、各事業部のデータを見てディスカッションを実施し、気になる部署があれば部課長に公開するタイミングで人事がフォローしていくという流れです。

重松氏:メンバーに対しても調査結果はオープンにしているのでしょうか。

三橋氏:マネージャーは自組織のレポートをメンバーと共有して対話することになっていますし、自分が回答した結果と同じ職位・年代の回答結果が比較できる個人用フィードバックレポートも作成、送付しています。また、KSAの理念を知ってもらいたいので、社内報で何度か取り上げてもらいました。

また、昨年から労働組合ともディスカッションをしています。職場活性化は労組にとっても重要課題であり、メンバーも主体的に考えなければならないというのが労組の考えです。そこで、今年からは組合員にも研修等でKSAの理解を深める動画を見てもらおうとしています。

重松氏:マネージャー任せにせず、全体で組織を良くしていこうということですね。

三橋氏:ただ個人的に思うのは、マネジメントはKSAをしっかりと意識する必要があるものの、メンバー自身が意識しすぎるとあまりよくないかもしれません。ガチガチにとらわれず、自然と職場を良くしていくような空気がある職場の方がいいのかもしれないですね。

人事はエンゲージメント向上のために何をすべきか

重松氏:エンゲージメントサーベイを導入している企業が増えているなかで、「何をすればエンゲージメント向上につながるのか」と悩む人事の方も多い現状があります。人事は、何から着手すべきでしょうか。

三橋氏:職場環境が良いと活力が上がり、活力が上がると成長行動につながるということをデータとして集めて分析して、エビデンスとして見える化することが重要です。その上では、他社の事例も役に立つのではないでしょうか。

エンゲージメントが上がれば業績も向上するという研究結果もありますから、まずはその知識を学ぶこと。そしてどう組織に入り込んで活性化させるか、プロセスとスキルを身に付けた人事を増やしていくことが重要だと思います。

重松氏:確かに、人事がまず自らのスキルを向上させる必要があることは、間違いありませんね。

三橋氏:組織開発の主役はマネージャーですから、彼らが活躍できる土壌を整えることも人事の役割です。そのためには、人が育ってエンゲージメントが向上すれば業績もついてくるという全体像を、人事がしっかりと理解していることが非常に重要です。なので、経営戦略も理解しておくことが人事には必要ですね。

重松氏:人事が他部署の現場に介入することはそう簡単ではないと伺います。

三橋氏:その通りです。人事として動きを変える必要もあります。ともすると、単にKSAのレポートを見るための操作方法サポートだったり、より詳しく分析したりするだけのサポートで終わってしまいかねません。日常の職場課題に働きかけながら、マネージャーと一緒に組織のことを考えるところまで踏み込むことが大切です。レポートだけをフックにしてしまうと、「レポートの内容が悪かったから話しかけに来たのか。余計なお世話だ」となりかねません。

そうではない接点をどう作っていくのか、それぞれの企業でそのヒントが必ずあるはずです。そこから、どう個人と組織の成長につなげていくのか、現状を見える化させる材料がエンゲージメントサーベイだということは、忘れてはいけない視点だと思います。

重松氏:確かに、普段接点のない人事がいきなり「サーベイの結果の件で」と話しかけられても、マネージャーは身構えてしまいます。まさに伴走者として、一緒に組織を良くしていくためのパートナーという意識が大切ですね。

なぜ社外に公開する数字は、他社比較だけではなく独自観点も重要なのか

重松氏:貴社は人材育成やサクセッションプランニングにも注力していらっしゃいますが、人事データも活用しながら取り組みを進めているのでしょうか。

三橋氏:タレントマネジメントシステムを最近導入したので、今後は、そのデータを利活用していく予定です。人事の立場でいうと、例えば今回ファシリテーション講座を受けた240人が、本当に職場内で対話をしたのか。さらに、その部署のメンバーがどう感じたのか。そういったデータを分析できるようになると、研修の効果が測定できます。

参考材料として、研修を受けると数年度にマネジメントが改善されてKSAに反映されるという好循環を想定しながら実施していきたいと思っています。

重松氏:そのように人を大切にしていらっしゃる貴社ですが、ここ最近「人的資本経営」が注目されている中で、今後、取り組みにあたって何が重要になるとお考えでしょうか。

三橋氏:1つは、冒頭で中期経営計画の「GDP」の話をしましたが、「P(人財)」のところに経営がコミットすることが重要です。当社では毎月、社長と人事の定例ミーティングを行い、現状をテーマごとに報告・ディスカッションをしています。また、各領域の幹部とも定期的に情報共有する場を設けています。そのように、事業と人事が離れないような連携の仕組みを回しているのです。

また、社長からは「社外に公表する数字は、世の中との比較が必要だが、旭化成らしさも重要で、オリジナリティも打ち出していかねばならない」という言葉をもらっています。例えば、KSAの成長行動指標や、高度専門職の人数など、旭化成ならではの視点で、いくつかは既に社外公表しています。

重松氏:どうしても男女比など既存の数字にとらわれがちですが、それだけではなく自社の魅力を打ち出すストーリー性のある数字を出していくことで、企業の魅力につなげることもできますよね。そのような視点で人的資本経営を捉えることは、非常に面白いと感じました。本日は貴重なお話をしていただき、ありがとうございました。

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