弁護士が解説! SmartHRの「雇用契約機能」が法的に安心して活用できるワケ

2020.06.22 ライター:上原慧

こんにちは、株式会社SmartHRで法務を担当する弁護士の上原です。

テレワークの推進とともに、ハンコの要否やクラウドでの契約の法的リスクについてのニュースも大きな注目を集めています。

SmartHRの雇用契約機能(以下、本稿では「雇用契約機能」といいます)についても大丈夫なのか心配な方もいらっしゃるかもしれません。

結論から申し上げると、大丈夫です! 本稿では電子契約のメリットと共にその理由を解説します。

弁護士が解説! SmartHRの「雇用契約機能」が法的に安心して活用できるワケ

電子契約のメリットとは?

電子契約には、契約締結に至るまでの時間短縮やクラウド上に契約書を保存することによるコンプライアンス強化などのメリットが存在します。

例えば、2020年4月にSmartHRを導入いただいたTSグループ様では、導入からわずか2日で新入社員203名の入社手続きをオンラインで行い、新型コロナウィルスの入社手続きへの影響を最小限に抑えられました。

(参考)新型コロナウイルス感染症対策として、TSグループ様が新入社員203名の入社手続きをオンラインで実施

また、同じくSmartHRをご利用いただいている合同会社DMM.com様では、月間500枚におよぶ誓約書の締結のペーパーレス化に成功。契約書フォーマットの統一や印刷・保管に伴う作業の手間も効率化も実現しています。

(参考)労務効率化で働き方改革を後押し。「オンライン雇用契約」で月500枚の誓約書・労働契約書をペーパーレス化【合同会社DMM.com 篠﨑 孝太さん】

「電子契約は紙よりリスクがあるんじゃない?」

以上のようなメリットをもつ電子契約ですが、「紙で締結する場合と比べてリスクがあるんじゃないか」というお声があるのも事実です。

そのような電子契約への懸念を整理すると、以下の2点に集約されます。

  • 契約の有効性は問題ないか?(契約の有効性への懸念)
  • 訴訟で契約の成立や中身を証明する際に不利なことがないか?(訴訟での証拠力への懸念)

しかし、ご安心ください。

以下のとおり、特に雇用契約機能を利用して締結される人事労務関係の契約書に関しては、それを電子上で締結するリスクは極めて限定的であり、メリットの方がはるかに大きいといえます。

それでは、「契約の有効性」と「訴訟での証拠力」に分けて、それぞれご説明します。

電子契約でも契約は有効に成立する

「そもそも紙での契約書がない電子契約でも契約が有効に成立するのか?」という疑問についてですが、電子契約でも契約は有効に成立します

なぜなら、日本では「契約方式の自由」の原則が認められており、そもそも契約成立のために契約書の作成は必要ないためです。

契約は口頭やメールでも有効に成立するものであり、契約書とは、あくまでも契約内容を明確化し、事後的な紛争を防止する(言った言わないを防止する)ことを目的として作成されるものとなります。

例外的に、法律で契約書の作成が必須とされている契約も存在しますが(一部の定期借地契約・定期賃貸借契約など)、雇用契約機能で扱われる従業員様との契約(雇用契約、秘密保持契約など)については、上記の原則どおり、書面の作成は必要ありません。

また、上記のとおり契約成立に書面作成が必要ない以上、当然契約書への押印も契約成立に必須ではありません。

このことは、2020年6月19日に内閣府・法務省・経済産業省から出されたQ&Aにおいても、以下のとおり認められています。

・私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。

・ 特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、 契約の効力に影響は生じない。

内閣府、法務省、経済産業省「押印についてのQ&A」(令和2年6月19日) 問1より抜粋

さらに上記の政府Q&Aにおいては、以下のように、押印の省略や押印以外の手段が有意義であるとの言及もあり、電子契約であっても契約が有効に成立することを当然の前提としています。

このように、形式的証拠力を確保するという面からは、本人による押印があったとしても万全というわけではない。そのため、テ レワーク推進の観点からは、必ずしも本人による押印を得ることにこだわらず、不要な押印を省略したり、「重要な文書だからハンコが必要」と考える場合であっても押印以外の手段で代替したりすることが有意義であると考えられる。

内閣府、法務省、経済産業省「押印についてのQ&A」(令和2年6月19日) 問3より抜粋

したがって、雇用契約機能で扱われる契約については、電子契約でも契約は有効に成立しますし、事後的な紛争にも備えられます。

(なお「形式的証拠力」については、「【番外編】弁護士が解説! SmartHRの「雇用契約機能」が法的に安心して活用できるワケ 〜電子契約の証拠力は?〜」にて説明いたします。)

訴訟での証拠力

次に、(電子契約が有効だとしても)雇用契約機能を利用した電子契約が、紙の契約と比べて訴訟で不利に扱われることはないかについてお話します。

この点についてはまず、訴訟において雇用契約の成立が争いになるケースがどれくらいあるのかという観点が重要です。

大前提

日本の訴訟手続きにおいて、契約の成立やその内容を証明する必要があるのは、当事者間で争いがある(意見が食い違う)ポイントに限られます。

反対にいうと、当事者(原告と被告)がお互いに「雇用契約の締結」という事実について認めているのであれば、締結方法が電子か紙かにかかわらず、その事実を証明する必要はなくなります。

つまり、電子契約の証拠力を気にする必要があるのは、当事者間でその契約締結について争いがある(意見が食い違う)事案に限られます。例えば、他者のなりすましや相手の脅迫によって契約が締結されてしまったケースなどでは、このような争いが生じます。

したがって、まずは電子化したい契約のタイプにおいて、そのような事案がどのくらい発生するかをイメージすることが重要です。

雇用契約等の締結が争われる可能性

では、雇用契約機能を利用して締結される契約等(雇用契約、労働条件通知書、入社時に締結する秘密保持契約など)の場合、後になって当事者間で契約の締結自体について争いが生じるケースはどれくらい生じるのでしょうか。

この点、企業労働法に詳しい倉重公太朗弁護士(倉重・近衞・森田法律事務所 代表弁護士)に聞いてみました。

―― 会社と従業員間で締結する人事労務関連の契約について、訴訟で契約の締結自体が争いになったケースはどれくらいあるのでしょうか?

倉重弁護士
人事労務関連の契約に限って言えば、訴訟でその締結自体が争われるケースはほぼありませんね。特に、内定〜入社時に交わす雇用契約書や労働条件通知書、秘密保持契約書などの書面については、「これは自分の意思に反して作成された書面だ」といった争われ方は一度も経験したことがありません。真意に基づく合意か否かが争われるのは退職届くらいではないでしょうか。

そもそも、雇用契約や労働条件通知に承服しかねる従業員は退職をすればよいため、従業員側には入社前・入社時に締結した契約の成立を争う実益があまりありません。実際にもそのような争われ方は聞いたことがないです。

もちろん、時には雇用時の労働条件に関する訴訟も存在しますが、そこでは契約書の作成自体が争われているわけではなく、作成された契約書の内容の不明確さや実態との矛盾が問題になっており、それは紙でも電子でも共通で生じうる問題です。しかし、この場合も、契約書が作成されるまでには必ずやり取りや交渉が存在しますので、その経緯を客観的に記録できていれば、証明についてあまり心配はないでしょう。むしろ、口頭であいまいなやり取りしか記録されていないケースよりもログが残る点でメリットもあると思います。

このように、雇用契約機能を利用して締結される契約のタイプにおいては、その締結が争いになること自体が非常に稀であるため、電子契約の証拠力が問題になるケースがほとんどないといえます。

まとめ

最後に、本稿の要点をまとめると以下のとおりです。

まとめ
  • 電子契約についてよく懸念される点は、「有効性」と「証拠力」である。
  • 「有効性」について、雇用契約等の場合は、電子契約も有効である。
  • 「証拠力」については、当事者間で契約締結に争いがある場合に限ってそれが問題となる。
    • そして、雇用契約や労働条件通知については、その締結・作成自体が争いになるケースは非常に稀である。
    • したがって、その証拠力が問題になるケースはほぼない。
    • 仮に、労働条件の内容に争いが生じた場合でも、客観的にやり取りの記録が残る状態になっていれば証明は難しくない。

以上を踏まえると、現実的に考えて、雇用契約機能を利用して締結される人事労務関連の契約では、電子契約であることが紙での契約締結と比較して不利になるケースはほぼありません。

したがいまして、お客様におかれましては、安心して本サービスをご利用いただけますと幸いです。

「でも低いとはいえ、雇用契約の締結について争いになる可能性はあるんだよね?」という方は、「【番外編】弁護士が解説! SmartHRの「雇用契約機能」が法的に安心して活用できるワケ 〜電子契約の証拠力は?〜」をご覧ください。万が一雇用契約等の締結について争いとなった場合でも、証明が可能であることについて解説いたします。

上原慧

株式会社SmartHR 経営推進グループ法務ユニット。弁護士として一部上場企業から中小企業にわたって多様な企業法務業務を経験した後、2人目の弁護士としてSmartHRへジョイン。
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