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「バックオフィス改革が鍵でした。」採用広告費ゼロの人気店に学ぶ、働き方改革のヒント

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目次

政府主導のもと「働き方改革」が叫ばれ、ここ1年の間に企業はもちろん働く人々の間で、その言葉は瞬く間に浸透しました。

しかし、その多くの取り組みが長時間労働の是正などに終始しており、本来取り組みたい「働き方改革」に至っていない現状が見て取れます。この記事をご覧の方にも、同じような悩みを抱える方もいらっしゃるかもしれません。そんな中、地に足のついた着想と取り組みによって、事業成長と働き方改革に一本筋を通し、日々成果を上げている企業があります。

焼肉店『焼肉キングコング』やスペインバル『BARDEBIS(バルデビス)』など、様々な業態の飲食店を経営するアクトダイニング株式会社。2017年には同社初となる海外出店で、『YAKINIKU KINGKONG』をフィリピンにオープンするなど、その成長を加速させています。

同社は、果たしてどのような課題のもと働き方改革に取り組み、そして実際に成果を生んでいるのか。アクトダイニング株式会社 取締役の井筒将太さんにインタビューしました。

読者の皆さまが今日この瞬間から働き方改革の一歩を踏み出していけるよう、インタビュー内容をもとに、同社の取り組みを体系的に解説しヒントをお届けしたいと思います。

働き方改革の目的は「日本で一番笑顔の多いレストラン」

アクトダイニング社が働き方改革に取り組む背景には、事業成果創出のため競合優位性をつくるべく「顧客価値の創造」があります。

この軸を一言で表したのが「日本で一番笑顔の多いレストラン」という企業理念です。

井筒さん

お客さまの笑顔を生み出す起点となるのは、顧客接点となる1人1人のスタッフに他なりません。私たちが企業理念を実践するうえで、スタッフの笑顔を生むための取り組みが何よりも必要でした。

“笑顔”を軸にした、接客力の向上が同社の働き方改革の鍵でした。この“接客力”とは、単にオペレーションスキルを指すものではありません。

井筒さん

スタッフには、できるだけお客さまと接する時間の質を高めてほしいと思っています。しかし、作業に追われていては丁寧に接することができません。そのため、そもそもお客さまと余裕をもって接する時間も必要です。

笑顔や接客スキルが生かされるのも、まさにこの時間があってこそです。とはいえ、当時は接客に注力できる状態ではなかったうえに、長時間労働という課題もあり、店舗業務の効率化が急務でした。

ここで示唆されるのは、定型的オペレーションの効率化により「働きやすさ」を確保しつつ、その環境の中で非定型的オペレーションの質を高める「働きがい」を創出する。

同社は、このような背景のもと「働きやすさ」と「働きがい」の、2つのアプローチによる働き方改革を着想するに至ったのです。

恵比寿の隠れ家的スペインバル『BARDEBIS』東京都渋谷区恵比寿1-22-14石井ビルB1F

恵比寿の隠れ家的スペインバル『BARDEBIS』東京都渋谷区恵比寿1-22-14石井ビルB1F

「働きやすさ」を生む、働き方改革の第一歩

一方で、実際に働き方改革に取り組んでいくうえでの課題もありました。

井筒さん

実際に働き方改革を進めるにあたっては、経営陣や本部での“働き方改革の企画立案”と、各店舗における“働き方改革の実行”に負担がかかってしまいます。

働き方改革推進のための時間捻出が必要

企画と実行の負担によって、かえって働きやすさを損ねてしまっては本末転倒です。もちろん、その負担が一時的であり中長期的な結果として働き方改革に成功すれば、最初の負担も投資として捉えられます。

しかし、実際に成果が出るかわからない状態で負担を抱えるのは、持続可能性の観点からも懸念が残ります。

井筒さん

そのため、「本部運営」と「店舗運営」に関わる定型的オペレーションの効率化により、経営陣や本部スタッフ、各店長・店舗社員の負担を軽減するための取り組みに着手しました。

例えば本部側では、給与や労務、ホームページ運用、グルメサイト運用、などにおけるクラウドサービス、アウトソーシングの活用です。

具体的には、下記のようなツール・アウトソーシングを導入したようです。

■ 本部運営

  • 勤怠管理:ぴかいちナビ
  • 給与計算:税理士へのアウトソーシング
  • 労務管理:SmartHR
  • グルメサイト運用・販促広告物制作:制作秘書
  • 採用ホームページの運用:HP制作会社へアウトソーシング

■店舗運営

例えば、労務管理においては、取締役の井筒さんも書類作成や手続き申請などの実務を行ってきました。神奈川と東京とで6店舗を持つ同社において、入退社を始めとした各種の書類作成や役所への届出は、特に煩雑です。

しかし、クラウド人事労務ソフト「SmartHR」の導入後、労務管理にまつわる実務から解放され、月間80時間の工数削減に成功し、付加価値の高い本部業務へのリソースシフトに繋がったようです。

また、店舗運営における営業日報作成の効率化は、長時間労働の抑制に大きく繋がりました。

井筒さん

毎日提出する売上日報の作成が効率化、タイムカードをなくして勤怠管理システムを導入したことで、店長や店舗社員の負担がグッと減りました。

締め時間が早くなり、月間で5〜10%の労働時間が削減されています。本部と店舗管理、これらバックオフィス改革が最初の鍵だったんです

井筒さん

「働きがい」を高めた働き方改革の第2ステージ

本部運営と店舗運営にまつわる定型的業務の効率化に成功した同社は、働き方改革の第一歩を踏み出しました。

次なる取り組みとして、顧客価値を向上させるべく、同社の働き方改革の本筋ともいえる「働きがい」の創出に向けた施策が本格化します。以下にその例をご紹介します。

家族連れにも人気『焼肉キングコング』スタッフの皆さん。神奈川県横浜市戸塚区品濃町号棟515−1103 ニューシティ東戸塚南の街2号館

家族連れにも人気『焼肉キングコング』スタッフの皆さん。神奈川県横浜市戸塚区品濃町号棟515−1103 ニューシティ東戸塚南の街2号館

主力アルバイトの育成

井筒さん

顧客価値を高めるには、いかに店長の業務を標準化し、アルバイトを含めた各スタッフに権限委譲していけるかが鍵です。

一方で、“アルバイトの巻き込み”が欠かせません。その最初の取り組みとなったのが“アルバイトの育成”でした

これまでの同社において、アルバイトスタッフの入社に伴う研修や育成は、店長や店舗社員が担ってきました。

しかし、店長たちがつきっきりで研修を行うとなると、その分業務負荷が高まる。あるいは、手をつけられない店舗運営業務が出てしまう。

その解決の糸口となったのが主力アルバイトリーダーの抜擢と育成。各アルバイトスタッフが、より高い意欲で業務に携わるきっかけとなっただけでなく、スタッフ間の切磋琢磨にも寄与しています。

井筒さん

アルバイトが育成できてくると、店長は店長にしかできない業務に専念できます。そのひとつがスタッフとのコミュニケーションによるチームビルディングです

スタッフの頑張りを評価したり、課題があれば改善策を考えたりする時間が必要です。コミュニケーションが円滑になると、スタッフも「ちゃんと見てくれている」と感じてモチベーションが上がる良いサイクルが回り始めます。

アルバイトによる新人研修体制の確立

更に現在では、新入アルバイトスタッフの研修を、先輩アルバイトが担うまでに至り、全社的なオペレーションスキルの向上と店長・店舗社員の生産性向上に繋がっています。

井筒さん

主力の先輩アルバイトを中心に据えた新人アルバイト研修体制の確立により、業務水準が向上したばかりでなく、1人1人のスタッフにとって店舗運営が“自分ごと”へと変化しました。その日その日の営業情報も各スタッフに逐一共有。全員で一丸となって目標達成を目指しています。

アルバイトスタッフも「このサービスを提案してみよう、やってみよう」と考える姿勢を持っていて。やはり頑張って目標達成すれば嬉しいですよね。ある店舗に、社長が営業時間終了後に行った際、店につくなりアルバイトの子からハイタッチを求められたらしいんです。聞いたら「売上目標達成しました!」と。達成の喜びを分かち合いたかったということですよね。

給与を得る手段としての“働く”を超え、やりがいをもって働ける土壌であることが伝わってきます。

“会社”を自分ごと化させた「設立周年旅行」

店舗運営が各スタッフ間で自分ごとになったのは先述したとおりです。ここから更に「会社の自分ごと化」へと昇華させたのが、「設立周年旅行」をはじめとした、アルバイトも含めた全社イベントです。

井筒さん

毎年、設立周年旅行を開催しており、9周年を迎えた今年(2018年)は湯河原に行きました。アルバイトも含め、全社で球技大会やバーベキュー、温泉などを堪能し、交流します。社員は正月休みを10日間ほどとって海外旅行へ行っています。

他店舗、他業態のスタッフと繋がることで、“会社”が自分ごとへと変わっていきます。単に交流が生まれ、仲良くなるだけでなく、他店舗の取り組みへの興味も芽生え店舗を超えた切磋琢磨に繋がっていると感じます。

このように、店舗だけでなく店舗間の交流により、“会社”を意識するきっかけを生んでいます。

店舗間の交流が生まれる球技大会を開催

店舗間の交流が生まれる球技大会を開催

働き方改革がもたらしたもの

SmartHR 広報 渡邊順子

SmartHR 広報 渡邊順子

全社的な業務水準の向上が、1人1人のスタッフの視座を高め、更に自分ごととして会社運営に巻き込むことで、その働きがいを創出してきた同社。

これら不断の創意工夫がもたらした結果はどのようなものだったのでしょうか。以下にその例を見ていきます。

(1)260万円の採用広告費がゼロに

井筒さん

これまで採用広告費として年間260万円を費やしていましたが、スタッフ紹介制度(※)を設けたことでリファラル採用が加速し、現在では(社員紹介インセンティブを除き)採用広告費はゼロになっています。

スタッフが皆、会社を自分ごととして捉えてくれていますし、嬉しいことに「楽しく仕事ができる環境なので勧めやすい」と知人や友人を次々とお店に誘うようになりました。“口コミ採用力”が高まった結果だと感じます。

※ アルバイト採用の場合 入社3ヶ月時点で1万円、社員採用の場合 入社半年で10万円の紹介インセンティブを付与

業務標準化とオペレーション力強化が進み、お客さま満足に繋がったのは当初の目的通りでした。それだけでも嬉しいことですが、更に嬉しかったのは、顧客満足が採用にも繋がったこと。

具体的には、ご来店してくださったお客様が、当社の求人をご自身のお子さまと店内で見かけそのお子さまが応募してくださり、実際にアルバイト採用に至ったんです。

採用力の向上は、スタッフ起点の口コミに限らず、お客さまの間でも変化があったそうです。

井筒さん

業務標準化とオペレーション力強化が進み、お客さま満足に繋がったのは当初の目的通りでした。それだけでも嬉しいことですが、更に嬉しかったのは、顧客満足が採用にも繋がったこと。

具体的には、ご来店してくださったお客様が、当社の求人をご自身のお子さまと店内で見かけそのお子さまが応募してくださり、実際にアルバイト採用に至ったんです。

(3)新規事業戦略・実行に注力できるように

更には、本部の効率化や、メンバーへの権限委譲が進んだことで、経営陣がこれまであまり時間を割けていなかった、新規事業戦略やその実行に注力できるようになったそうです。

井筒さん

昨年(2017年)は、当社では初となる海外展開を経験しました。そして今年(2018年)は余った料理や食べ残しを持ち帰る“ドギーバッグ”や廃棄食材を肥料として生かすなど、CSRの活動もスタートしています。

更にその肥料を使って栽培・収穫した野菜を、実店舗で活用するような新規事業も計画中で、経営陣だけでなく有志の学生アルバイトも加わっています。アクトダイニングならではの経験を、社会に出てからも生かしてもらえたら嬉しいですね。

「フェーズ」と「レイヤー」が明確な一連の働き方改革

同社のこれまでの取り組みをフェーズごとに整理すると、下図のとおりです。

アクトダイニング株式会社のこれまでの取り組みをフェーズごとに整理した図

第1段階では、定型業務効率化を中心とした本部や店舗管理におけるバックオフィス改革。第2段階では業務水準を高め権限委譲を進める、狭義の働き方改革。そして第3段階では、「日本で一番笑顔の多いレストラン」へと近づくための生産性向上の取り組みに励んでいます。

「経営陣・本部」「店長・店舗社員」「店舗スタッフ」と、各レイヤーでの取り組みがそれぞれ着実に成果を生み、1個1個の結果が個人レベルでも経営レベルでも好影響を与えていることが読み取れます。

同社のように、明確な課題と目的意識を持ち、自社に適した働き方改革が求められると考えられるでしょう。

その中で、井筒さんは最も影響の大きかったものとして「バックオフィス改革」をあげています。

井筒さん

バックオフィス業務の中でも、特に無駄が大きかったのが労務でした。ややこしい書類作成はもちろん役所への往復ほどもったいない時間はありません。とはいえ、従業員が働くうえで必ず必要な業務。労務を効率化させるSmartHRによって、その時間をまるまる戦略的な業務に生かせるのは嬉しいですね。

労務をはじめ、多くのバックオフィス業務について私は最終確認を行う程度で、実務の業務標準化と権限委譲が進んでいます。働き方改革の第一歩として、バックオフィスの効率化をオススメしたいです。

編集後記

今回は、バックオフィスの改革から働き方改革を着手し、様々な好影響をもたらしたアクトダイニング 井筒さんにお話をお伺いしました。

“働き方改革”という言葉にとらわれてしまうと、制度導入や福利厚生施策など、手段から考えてしまいがちです。「課題や目的と解決策が一致しない」、「必要な施策や導入段階を見誤ってしまう」などのミスマッチを起こしてしまうと効果は期待できないでしょう。

こと、過酷な労働環境と言われることの多い飲食業。しかし、顧客・従業員ともに満足度の高い同社のように、目的や課題に沿った解決策のもと着実に働き方改革を実現させつつある企業があることもまた事実です。

ポイントは「バックオフィス改革」。そして「働きやすさ×働きがい」の二軸による働き方改革。

「日本で一番笑顔の多いレストラン」という理念のもと、顧客はもちろん店舗やスタッフを思うアクトダイニング社にとって、ある意味必然ともいえる結果なのかもしれません。

井筒さん、ありがとうございました!

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