「会社が年末調整してくれない!」これって違法じゃないの・・・?


こんにちは。特定社会保険労務士の榊 裕葵です。

年末調整シーズンまっただ中です。

12月に支払日のある給与または賞与に合わせ、年末調整が行われる会社が多いのではないでしょうか。あるいは、年末の繁忙期を避けるため、1月に支払日のある給与に合わせて年末調整を行うか、給与や賞与とは別に個別精算という形で年末調整を行う会社もあると思います。

上記のように年末調整を行うタイミングや形は会社によって若干の違いはありますが、いずれにしても、従業員の立場の方としては、会社が年末調整を行ってくれれば何ら問題はないでしょう。

しかしながら、もし勤務先の会社が「面倒くさい」とか「よく分からない」などと言って、年末調整を行ってくれない場合は、どうしたら良いのでしょうか?

年末調整を行ってくれない2つのパターン

年末調整を行ってくれない場合というのは、私の実務経験からは2パターンあるように思えます。

(1)経営者が年末調整の必要性を認識していない

第1は、経営者が年末調整の必要性を認識していない場合です。

設立されたばかりのスタートアップで、まだ人事担当者がおらず、経営者がすきま時間に給与計算や労務手続を行っているというような場合、経営者が年末調整を任意的なものだと勘違いしていたろ、そもそも年末調整を行わなければならないこと自体を知らないということもあります。

そのような場合は、年末調整は法的に行わなければならないものであることを経営者に説明し、理解をしてもらうことで解決できる。

とはいえ、スタートアップやベンチャーの経営者は忙しいですから、もしあなたが少しでもバックオフィス業務の知識があるなら、年末調整をしてくださいと単に要求するだけでなく、「差し支えなければ私に年末調整の実務をお手伝いさせていただけませんか」と、ひと言添えることができれば、とても素晴らしいことだと思います。特に最近は、年末調整タスクを劇的に効率化させるツールやサービスも登場していますし、あわせて検討するのも良いでしょう。

これらの課題を巻き取り実行できればご担当者自身の評価も上がり、近い将来、管理部門担当役員の候補者にリストアップされるかもしれませんよ!

(2)年末調整が必要だとわかっていながら行わない

第2は、必要だと分かっていながら行わなかったり、頑なに年末調整を行うことを拒否されてしまう場合です。

こういった場合は、会社の所在地を管轄する税務署に相談をして下さい。

会社が年末調整を行わなかった場合は、「10年以下の懲役、もしくは200万円以下の罰金(併科も可)」という罰則もありますので、税務署から会社に指導をしてくれるはずです。

年末調整に期限はあるのか?

会社との調整に時間がかかり、年末調整を行ってもらえることになったものの、既に年が明けてしまっていた……、というような場合、年末調整は間に合うのでしょうか?

この点、年末調整の最終期限は1月31日です。

1月31日というのは、年末調整の結果である源泉徴収票を税務署に提出したり、源泉徴収票に準ずる給与支払報告書を住民税の計算のため従業員の居住する市区町村に提出する期限という位置づけになっています。

年末調整は、税額や還付金の計算を行うだけでなく、源泉徴収票等の書類の提出まで含めてが年末調整ですから、1月31日までに必ず年末調整の全てのプロセスを完了させるようにして下さい。

なお、実施済みの年末調整に誤りがあった場合も、1月31日までならば源泉徴収票等を再提出することで修正が可能です。

もし「年末調整の期限」に間に合わなかった場合

では、残念ながら年末調整の期限に間に合わなかった場合はどうするのでしょうか。

会社が罰則を受けるかどうかは別として、個々の従業員は自分の税額が確定せずに困ってしまいます。

この場合は、従業員が1人1人、自分で確定申告を行うことになります。

ここで年末調整と確定申告の関係を説明しておきますと、原則的に、課税所得のある全国民は、自己の所得を国に申告するために確定申告を行わなければなりません。ですが、一般の会社員が自分で確定申告を行うのは大変なので、会社が確定申告の一部を代行しているのが年末調整ということになるのです。

会社からの給与収入が唯一の収入源である場合は、1月31日までに年末調整が完了すれば確定申告の必要はありません。

しかし、給与収入以外に、副業の収入や不動産収入などがある場合、そして今回の事例のように勤務先の会社による年末調整が1月31日までに行われなかった場合には、「課税所得のある全国民は確定申告を行わなければならない」という原則に立ち返って、従業員本人が確定申告を行わなければならないということになるのです。

会社が年末調整を行ってくれず、税務署の指導を受けてもやはり行ってくれなかったという場合も、同様に従業員本人が確定申告を行うことになります。

確定申告には源泉徴収票が必要

従業員本人が確定申告を行わなければならないことになった場合、その際の添付書類として「“年末調整未済の”源泉徴収票」が必要です。

「“年末調整未済の”源泉徴収票」とは、単純な1年間の給与額や源泉徴収額の合計額などが示された源泉徴収票のことを指します。同じ「源泉徴収票」という名称を使っていてまぎらわしいですが、「年末調整を完了させて会社が税務署に提出する」源泉徴収票とは別物ですので混乱しないように気を付けて下さい

さて、この「“年末調整未済の”源泉徴収票」ですが、会社に発行してもらう必要があります。年末調整を行わなければならないことは重々承知していたが、忙しくて間に合わなかったというような会社の場合は、従業員に「年末調整が間に合わなくてごめんなさい」と言いながら発行してくれると思います。しかし、必要性を認識しながら年末調整を行わないような会社の場合は、「“年末調整未済の”源泉徴収票」すら発行してくれないかもしれません。

そのような場合は、「源泉徴収票不交付の届出書」という書式がありますので、こちらの書式を作成することで源泉徴収票に替えることができます。「源泉徴収票不交付の届出書」の詳細や書式は、国税庁のホームページで確認できます。

年末調整を効率化する動き

年末調整は会社の義務ですので、年末調整が間に合わなかったり、年末調整を行ってくれないような場合には会社に非があると言わざるを得ませんが、そうはいっても、年末調整の手続は複雑で面倒なものですので、会社にとって年末の忙しい時期の負担になっていることも理解できます。

そこで期待されれているのが、政府の年末調整電子化に向けた動き。

政府・与党は30日、会社員の所得税額の過不足を精算する年末調整手続きの電子化を、2020年から実施する方針を固めた。紙の書類でやりとりしている企業や個人の事務負担を軽減するのが狙い。12月にまとめる18年度税制改正大綱に盛り込む。(2017年11月30日 時事ドットコムニュース)*1

年末調整の手続が簡素化されれば、会社の負担も減り、年末調整が遅れたり、年末調整を行ってもらえないという問題も解消していくと思われます。

ただ、2020年を待たずとも、既に民間では2017年現在、年末調整を大幅に簡素化できるクラウドサービスが始まっています。

年末調整の全てのプロセスがネットで完結するというわけではありませんが、従業員からの扶養控除等申告書や保険料控除申告書をクラウド上のインターフェース経由で回収したり、回収した情報に基づいて年末調整税額や還付金の自動計算を行ってくれたりなど、アナログで年末調整を行うのに比べ、大幅に効率化が可能となる仕組みが実現しつつあるのです。

企業の管理部門にとって、12月や1月は、年末調整はもちろんのこと、期末賞与の計算や支給、年末年始の入退職者の事務処理、お歳暮の発送、年賀状作りなど、大忙しの時期です。

このような繁忙期の働き方改革の一環として、年末調整のクラウド化は試してみる価値があるかもしれませんね。

【参照】
*1:年末調整、20年電子化=保険料・住宅ローン控除-政府・与党 – 時事ドットコム

特定社会保険労務士 榊 裕葵

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。「社員から信頼される会社作りをサポートする」を経営理念として、顧問先の支援に当たっている。執筆活動にも力を入れており、WEBメディアへの掲載多数。


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