【生産性の落とし穴・前編】なぜ“生産性”は人をモチベートできないのか?

2017.11.09 ライター: 藤田 隼

これまで企業目線で語られることが多かった「働き方改革」。

ひとりひとりの働き方と向き合おうという本質とは裏腹に、特に「生産性」などの言葉を中心に、その主語は企業であることが多く、以前配信した「『会社都合で語られる生産性という言葉が嫌いです』JINS MEMEが切り拓く働き方の未来」の記事も多くの共感を呼びました。

そこで、人々の「働く」をモチベートする、新たな指標や概念が無いかを探るため、JINS MEME グループマネジャー・井上 一鷹氏と、「次世代の新しい働き方」をテーマに研究・提言を行っているリクルートワークス研究所 研究員・城倉 亮氏にお声がけし、対談いただきました。

前編となる今回は「なぜ“生産性”は人をモチベートできないのか?」に迫ります。

「生産性」は第二次産業が牽引した時代の言葉

藤田:最初の前提として、先日の井上さんにインタビューさせていただいた記事の中であったように、「そもそも“生産性”という言葉は、人々の働き方を考える、という視点で適切なのか? もっと従業員目線で考えるべきなのでは?」という問題提起を軸に、ディスカッションできればと思います。

城倉さん:先日まさにある企業の人事領域の役員の方とお話ししていて、その企業は働き方改革を先進的に進めていると言われているのですが、働き方改革も画一的な「労働時間削減、生産性向上」といった取り組みをトップダウンで進めているだけでは、早晩行き詰まるんじゃないかということを気にされていましたね。

井上さん:従業員の理解を得られないと。

城倉さん:はい、社長発信で「労働時間を減らそう」と進めているから、みんな必死についていこうとしてやっているんですけど、いつか成果が出なくなって苦しくなったら、皆ついてこなくなるんじゃないかと。インプットを減らすだけでなく、アウトプットを意識した取り組みに変えていかないと、厳しそうだと感じられていました。

井上さん:僕勝手に、ユニリーバの島田さん(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長 島田 由香さん)をはじめ、色々な方とお話をしていて、今現在カッティングエッジな取り組みの中で人事面の成果を出されている方々って「生産性」という言葉に懐疑的な人が多いなと思っています。

その理由は、大きくわけて2個あるなと。まず1つが、「生産性」という言葉自体が、組織目的の言葉であり、個人のモチベーションとはまったく別のところで語られてしまっていること。多くの方々が、自分やそのまわりの人々の幸せのために働いている中で、その動機は、いま多くの会社で取り組まれようとしている「生産性向上」とはリンクしていないはずです。

城倉さん:確かに、いまの働き方改革が、組織目線になっている感じは否めないですね。

井上さん:そしてもう1つが、そもそも「生産性」という言葉自体、第二次産業が経済を牽引した時代における、いわゆる「生産ラインの効率」の話から生まれた言葉に聞こえるんですね。つまり、何をつくるかというアウトプットが定められた事業の中で、どれだけ効率的につくるかという話をしている気がするんです。

城倉さん:ある決まったものをつくるために、いかに効率を上げるか、という観点ですね。

城倉 亮さん。リクルートワークス研究所・研究員。2004年東京大学文学部思想文化学科卒業後、大手航空会社、日系コンサルティングファームを経て、2012年株式会社リクルート(現株式会社リクルートホールディングス)入社。グループ人事労務を担当する部門のマネジャーとしてグループ各社の人事業務を支援。その後、ITベンチャー企業での人事を経て、2015年10月リクルートへ復帰し、現職。

「生産性」は第三次産業に適していない?

井上さん:だけど、第三次産業が台頭した現代社会において、いわゆるクリエイティブな仕事をする中で求められるスタイルって、決まったゴールの中で効率を高めるのは、産業の特性上、本質的な考え方ではないと思っていまして。

城倉さん:社会的な変化や世論に動かされ、表面的な対処しか考えられていないと。

井上さん:はい。逆にやりがいを持って働き、成果も出している人って、ちゃんと「ゴール」を自分の言葉で言えるなあと感じています。

城倉さん:確かにそうですね。ちゃんと言語化できている。でも今の流れでは、最終的な目標が何で、それに対してどういうプロセスでやっていくのかというものがないのに、生産性向上だけを図ってしまっている。「生産性」という言葉自体が、効率化だけを意識させてしまっているのかもしれないですね。

井上さん:何かを効率化することだけが賛美される世界って、あまり面白いものが生まれなくなってしまうのではと思っています。あとこれは一気に話飛ぶんですけど、いまJINSにおいて集中力を研究するなかで、先月、高野山に行ったんですよ。どうやったら集中できんだと考えた時に、日本で最初に集中に悩んだのが空海だということで、探りに行きたいと思って。

城倉さん:行動が大胆ですね(笑)

井上さん:だから「集中」について模索するなら、高野山に行かなきゃ駄目だと思って1日かけて行ってみたんです。それで住職さんに「どうやったら人って集中できるんですか?」と聞いたんですね、もう素直に。

城倉さん:(笑)

自分のゴールを言語化できない人は集中できない

井上さん:最初にそれを聞いたら、もう答えはハッキリしていたんです。その時に言われた言葉が、「如実知自心(にょじつちじしん)」というんですけど、簡単に言えば、如実に自分の心を知るという意味なんですね。その話をかみ砕いてもらったんですけど、結局人ってどういうときに集中が落ちるかというと、「自分は何のために働いているんだっけ、何がしたいんだっけ」と先が見えなくなった瞬間に、集中できなくなるらしいんですよ。

つまり、自分はこういうことがしたい、もしくはこの組織でこういうゴールを目指すんだということを言語化できない人って、須らく集中できないんですよね。

城倉さん:なるほど。面白い考え方ですね。

井上さん:この話って、いわゆる「生産性」につながると思っています。アウトプットが決まった事業では、ルーティンワークで数をこなす中で、そもそも何のためにこの会社でこの仕事をしているんだろうというのが、だんだんと見えなくなり、そして生産的でなくなってしまう。だから、会社としてはオブジェクトを決める思考を従業員に持たせないと、これからの時代において、成果を出す人が生まれないのではと感じたわけです。さすが空海ですね(笑) 本当にいい言葉だなと思いましたね、如実知自心。

城倉さん:確かにそうですね。ゴールや自分の成し遂げるべきこと、やりたいことを言語化できることで集中につながり、ひいてはアウトプットを高めると。経営陣や人事がサポートするべきは、まさに従業員が目標を言語化できるようにすることなんじゃないかと思います。

井上さん:そうでしょうね。20代の若手社員を見ていて、確かに生産的じゃないなと感じることはあるんですよね。彼らは「何でその仕事をやっているのか」をそもそも噛み砕けていなくて、答えられないんですよ。

井上 一鷹さん。株式会社ジンズ 慶応義塾大学理工学部応用化学卒業後、新卒でADLに入社。大手製造業を中心とした事業戦略、技術経営戦略、人事組織戦略の立案に従事。現在は株式会社ジンズにて、JINS MEMEグループマネジャーを務める。2017年7月、「JINS MEME」を活用したアイデア・ソリューション「JINS MEME OFFICE BUSINESS SOLUTIONS」で、「HR-Solution Contest ―働き方改革×テクノロジー―」のグランプリを受賞。

抽象度が高い仕事でも、意図を汲み取って言語化するベテランデザイナー

井上さん:というわけで、実際にアプリのデザイン会社Goodpatchさんとコラボして検証してみました(*1)。例えばデザイナーのタスクってどうしても抽象的なんですよね、アウトプットを定量的に定義するのが難しくて。それでデザイナーの集中度を、ベテランと新人とで測ってみたんですね。

城倉さん:JINS MEMEを使って可視化したということですか?

井上さん:そうですね。そして、やはりベテランのほうが集中力が高くてですね。一方の新人は、タスクを開始後10分ぐらいすると下がってくるんですよ。「今何で集中度下がったの?」と聞くと、原因はハッキリしていて、「何しなきゃいけないか、わからなくなった」と言うんですよね。

城倉さん:「目の前の仕事をただ作業している」だけになってしまっていたということですね。

井上さん:そうですね〜。もう目的がそもそも何だかわからなくなっちゃってたんです。確かにあれだけ抽象的なので、僕なんかもデザイナーの仕事は全然できないと思うんですよね(笑) 極端な例を挙げると、お客さんに「何か分からないけど、とりあえずシンプルでかっこよく仕上げてください」と言われたところで「何すればいいんだろう」と10分後には行き詰まってしまうと。

城倉さん:そうなりますよね(笑)

井上さん:だけど、ベテランはお客さんの意図を汲み取って「お客さんのニーズはここにあって、こういう目的のためにデザインをするんだ」という、しっかりとしたプロダクトデザインへと、落とし込めるんですよね。そういう人って抽象度が高くても、やるべきことがハッキリしていて、集中度が下がらないんですよ。

つまり「何故これをやるのか?」というWhyの観点を、ちゃんと明確に言語化できるかどうかにかかっていると。いわゆる「生産性」を語るならこの観点が重要だと思っています。でも「生産性」という言葉自体に根付いた、旧来の価値観はそう変わることもないでしょうから……、他に何かいい言葉ないですかね〜。

城倉さん:僕も何か良いワーディング、何かないかな〜と思ってまして。話しながら考えてみましょう。

井上さん:「パフォーマンス」ぐらいの言い方の方がまだ平たいし、ネガティブなイメージを抱きにくいですかね。コンディションを上げる、パフォーマンスを高める、ぐらいの緩い言い方のほうが僕はまだいいなと。

城倉さん:リクルートワークス研究所(以下、ワークス)の特任研究顧問・野田稔先生は、そもそも「働き方改革という言葉がよくない」ということを言っていて。本質的には「成果の出し方改革」だと。「働き方というよりも、成果やアウトプットの出し方を変革させることじゃないか?」という見解ですね。

井上さん:「働き方改革」とか「健康経営」と言われていますが、なんだかテンション上がらないんですよね。例えば「健康経営」と言われてもいまいちピンとこないというか、「いやいや、オレ健康だし」と(笑) ワーディングの部分でしっくりきていないのかもしれません。

城倉さん:本当にその通りだと思います。

井上さん:スゴイもったいないですよね。何か言葉としては改革なんだけど、実質「改善」っぽく聞こえるんですよね。

城倉さん:なるほど。

「一流のエンジニアは300倍のアウトプット価値を持つ」

井上さん:イマ言われている働き方改革や生産性革命って、「来月頑張って1.2倍ぐらいにしない?」と聞こえるんですよね。何かを1.2倍にすることにモチベーションって湧きますか? と思うんです。少なくとも僕は湧かないんですけど、他の人もそうじゃないかな。何のためにその「1.2倍」を目指すのかということを言語化できる人って恐らくあまりいなくて。

城倉さん:そして何のためにやってるかわからなくなり、結果的に集中を欠いて、生産性が下がる。本末転倒になってしまうというわけですね。

井上さん:Googleの上級役員アラン・ユースタスは「一流のエンジニアは一般的なエンジニアの300倍のアウトプット価値を持つ」と言っているんですよね。Microsoftのビル・ゲイツにいたっては「優秀なプログラマーは平均的なプログラマーの1万倍の価値がある」とまで言っているんですけど。

城倉さん:おっしゃってますね。

井上さん:それって要は、単位時間当たり数百倍の価値を出す可能性を秘めていると。何故か? それは第一次産業・第二次産業とは違い、物理層で働いていないからです。極端な話、1分間で信じられないくらいの成果を創出したら、1分しか働かなくてもいいんですよ。

城倉さん:第三次産業はその可能性を大いに秘めているよと。

井上さん:だから300倍の価値を出す可能性を探すと考えたときに、人は初めてそれを「楽しい!」と思って臨む気がしていて。そうしないとたどり着けない領域って絶対あるんじゃないですかね。よく言われますけど、何かの技術をただ闇雲に積み上げるだけでは人間は月に行けなかったはず。でも、月に行くために何が必要かを研究・開発した結果、人間は月に行けたと。

城倉さん:それこそ、井上さんがおっしゃったように、高度経済成長を支えた第二次産業主流時代のビジネスモデルを、第三次産業も踏襲してしまったままで来ているから、その固定観念を変えないといけないですね。

井上さん:そう。日本のものづくりって強くて、それがいい意味でも悪い意味でも影響してしまっている気がするんですよね。

日本のものづくりの強さを第三次産業に生かす

城倉さん:高度経済成長期の成功体験に引っ張られているところが大きそうですね。

井上さん:そうなんだと思います。でも、だからこそ日本人が上手なのは「改善活動」であるともいえる。工場のラインの改善活動は、歩留まりが何%とか、結構ハッキリした数字が返ってくるから、99%を99.5%にするためにどうしよう、というフローにおいては、きっと他国と比較した時に、日本が1番強いと思うんですよね。

だから逆説的に考えると、第二次産業の強さを第三次産業に持ってくればいいと思うんです。労働観じゃなくて、改善フローのフレームワークを。いわゆる「トヨタ生産方式」みたいな。

城倉さん:なるほど、ものづくりの強さを活かすということですね。

井上さん:例えば、JINS MEMEをやっていて、「集中度合いが何%落ちている」となったとき、これを2%上げるためにどうするのというPDCAを回し始める。つまり、抽象的な言葉で「皆さん、生産性を上げましょう!」と言うのではなく、ピープル・アナリティクスを活用して「集中」を可視化し、改善活動としての仕組みづくりをしていく、と考えると良いかもしれません。

城倉さん:それこそ、テクノロジーの進化によって、先程おっしゃられたピープル・アナリティクスの可視化ツールが増えてきていると思うんですね。

ジャパン・アズ・ナンバーワン、再び。

井上さん: HRテックについて日本は浸透が遅れているとか言われることもありますが、でも逆に考えれば導入時の効果が一番高いのは日本なんだとも思います。先程も申し上げたようなものづくりが得意で、何より真面目な国民性が相まって。

城倉さん:この領域で成果が出てくれば、自ずと他の国も真似して、日本がリーダーシップを発揮できるかもしれませんね。

井上さん:「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代では、世界各地で「トヨタ生産方式」が真似されました。だから2020年をひとつの目処に、ピープル・アナリティクスの時代に、世界各国が日本を参考に、その改善活動を真似するぐらいのことを、やりたいとちょっと思っていて(笑)そんなことをジャケット羽織らずにスニーカー姿で語っていたからツッコまれましたね(笑)

城倉さん:「スーツ買わなきゃな」みたいな(笑)

井上さん:そうそう。スーツ買おうと思いました(笑) でも、本当に日本がうまくリーダーシップをとれたらいいなと思っていて。

データを可視化しPDCAをまわそう

城倉さん:実際に、企業における行動データを取り始めると、気付きが多いですよね。

井上さん:多いですね〜。

城倉さん:先日、ワークスとある企業が共同でウェアラブルセンサーを活用した実証実験をやったんですよ。センサーを身に着けて、職場の中でどうコミュニケーションがとられているかを可視化しました。そうやって、「ああ、やっぱりコミュニケーション不足のところがあるね」とか「自分はよくコミュニケーションとっているつもりだったけれども、実は一部の人としかしゃべっていなかった」みたいなことが見えるようになると、実際に行動を変えようと自律的に動き出すんですよね。つまり、行動の改善が主体的に行われていくんです。

井上さん:やっぱり色んなデータを見ることで、立体的に見えてきますね。例えば僕個人でいえば、夕方しか集中できないんですよ(笑)

城倉さん:いま朝ですけど、大丈夫ですか?(笑) 逆に朝だからいいのかもしれないですけど。

データを鵜呑みにする前に「真の要因」を明らかにすべき

井上さん:結構そこって難しくて、最初JINS MEMEのデータをそのまま鵜呑みにして「僕はまぎれもない夜型」だと思っていたんですよね。でも実はそれは違うんじゃないかということに最近気付いたんですよ。

城倉さん:何か気づくきっかけがあったとか?

井上さん:そうなんですよね。要は、そもそも夕方に集中できるように1日を設計しちゃっていたなあと。実は先日DNA解析をしてもらったんです。そうしたら、遺伝子的には朝型だったんですよ。

つまり、僕は今まで勝手に夜型だと思っていて、夕方から夜にピークを迎えるようなスケジュールを設計していたんですよね。だから、夕方の集中力が高いというデータが出ていた。でも実際は朝型だと。というわけで、本来のパフォーマンスを出し、根本的に改革するためには生活リズムを変えていかなければならない。

城倉さん:最大化させるには、夜型での最適化より、そもそも朝型に振らなきゃいけないということだったんですね。

井上さん:そうなんです、それが面白いなと思いまして。データを鵜呑みにしていては気づけなかった。これって会社が画一的に、「何時台の生産性が高いからこれこれこうしよう」と言って実行するだけでは根本的な改革には至らず、もっと従業員個人が自分でデータを見て、その要因と向き合うなどして振り返っていかないと、全然不十分だということですよね。数字だけ見て過信することなく、自分でその根本原因を分析していくような風土をつくらないと。

城倉さん:本当にそう思いますね。最終的な目的があるときに、そのデータをもとにどう解釈をして、どう行動を変えていくのかということを1人1人が考えて、PDCAを回していくことで、もっと良い「働く」に変わっていくんだろうなと思います。

一流に共通する「Doneリスト」

井上さん:そのプロセスが大事ですよね、非常に。学校の必修科目とかにしたいぐらい。こういうパフォーマンスを振り返って、もうちょっと言うと、大人になってから復習ってしたことありますかと。To Doは考えるんだけど、Doneリストってあまりつくらないでしょう?

城倉さん:Doneリスト、確かに。

井上さん:これって、例えば石川善樹さん(株式会社キャンサースキャン イノベーションディレクター)らに話を聞いていると、一流のプロゴルファーとそうじゃないゴルファーの差について面白い話がありまして。

城倉さん:おっ、是非聞かせてください。

井上さん:一流のプロゴルファーって、例えば「15ホール目の2打目」と言ったらすぐ思い出せるらしいんですよ。何でかというと、今日どう回るかというのを全部シミュレーション、つまり予習した上で実践し、後からそれを振り返っているから、ある意味3回分に近い経験値があるんです。

だから、「あのときこうしたかったのに実際はああなっちゃった」と比較できるんです。僕らは今の仕事をそれぞれのプロとしてやっているけれども、僕も含めて「昨日の5時の打ち合わせってどこでやったっけ?」みたいなレベルだったり(笑) もっとヤバいと「あれ、誰と何しゃべったっけ?」ってこともある(笑)

城倉さん:そうですね、あるあるかもしれないですね(笑)

井上さん:その点、To Doリストって、やることの整理には向いていても、経験の蓄積には弱い気がしていて。だから「Doneリスト」って実は結構大事で。

城倉さん:確かに大事ですね〜。

井上さん:あと、一昨日Team WAA!(*2)で川上全龍さん(京都 妙心寺 春光院 副住職)が「To Feelリスト」というのを挙げていたらしいんですけど。これは何かというと、どんな気持ちだったかというのを覚えていかないと、人は進化しないんだと。こういうことが起こると怒りを感じるんだといったような「自分の本来の姿」に気付かない、という内容をおっしゃっていたらしく。つまり内省することが進化につながる、ということですね。

短時間で成果を出す人は「振り返り」を怠らない

城倉さん:まさにそうですね。ワークスで、働き方改革について僕が書いている論文で、短い時間で働いている人たちはどうやって仕事を進めているのかを、学習理論で説明しようとしています。例えば、「明日やればいい、明後日やればいい」と、行動を先延ばしにしちゃう時って、計画がちゃんと立てられていなくて。そして振り返りもできていない。「学習課題の先延ばし行動」と呼ばれていますが、これって仕事でも言えるんじゃないかと。

井上さん:いますね〜。います(笑)

城倉さん:短時間の労働で成果を出せている人たちにインタビューをすると、めちゃくちゃ振り返りを大事にしているんですね、皆さん。1日単位では難しいにしても、1週間単位で「この時間もっとこれできたな、この時間もっと集中してやればよかったな」というのを振り返られているんですよね。

井上さん:計画はしても、振り返りまでちゃんとできている人って少ないですよね。

城倉さん:一方、短時間で成果も出せている人は、振り返りまで含めてしっかりやられている。これを突き詰めると、アウトプットにかかる時間はどんどん短くなっていって、そして短くなって新たに生まれた時間を創造的に活用できたり。そもそも自己啓発の時間に生かせたりして、好循環になっていくと。

結果よりプロセスを求める労働観がボトルネック?

井上さん:国民性の話ばかりで恐縮ですが、日本人は時間にキッチリしているという意見があるじゃないですか。確かに開始時間はちゃんと守るんですよ。だけど、会議の終了時間は守らない、終わり方が下手だという面もあって。会議自体もっと有益な時間にしていくには、この1時間どうだったみたいな振り返りをすることで、終了時間もキッチリ守ることが大切なんじゃないかと思っています。時間にキッチリしているように見えて意外とルーズだよね僕たち、という。

城倉さん:終了時間がルーズだからダラダラしゃべったり。だからと言って会議時間を1時間から2時間にしてしまうと、延びた会議時間でもまた終了時間が延びるみたいな悪循環に……。

井上さん:あ〜、サイアクですねそれ(笑)

城倉さん:なので、そもそも終了時間でキッチリ区切るために、きちんと進行しましょうと。余談ですが、僕最初航空会社に勤めていたんですけど、当時の航空会社では、定時出発率をとても重視していたんですよ。定時到着率よりも、とにかく出発率を見てました。

本来お客さまにとって大切なことって、着きたい時間に着くことであって、つまり定時到着率を気にするべきだと思うんですよ。でも、僕らができることは出発だから、定時出発を守ることが大切なんだという節があって。つまり到着時間はしょうがないみたいな固定観念がありました。

井上さん:シーズアウトやプロダクトアウト的な考え方なんですかね。こういうものをつくったら売れるかもしれないと。何かもうちょっと、アウトプット側から考えるという構造にないんですね。何でだろう?

本質的なアウトプットより「根性」が評価されてしまいがち

城倉さん:「労働観」みたいなところかもしれませんね。

井上さん:それと、「プロセス褒め過ぎ」というのはありますね。「結果はダメだったけど、頑張ったよね」みたいな。これについて僕は、スポ根漫画のせいだという理論を勝手に言っているんですけど(笑) 「根性」ということを美化し過ぎる。アウトプット度外視で、インプット側の「よく分からないけど、10時間も頑張ってたね、偉いね」「あいつは8時間経ったらキッチリ帰るのか、けしからん」みたいな日本的な労働観って、やっぱりあって、根性を美化するじゃないですか。

城倉さん:そうですね〜。うん、わかります。

井上さん:某少年漫画だと主人公が修行して、闘いの中で死にかけることで更に強さを増して、結果的に勝利! よっしゃー! みたいな(笑) 逆に根性に頼ることなくスマートに成果出せる人って、無理だと感じたら「ああ、今日はアウトプットできないな。リフレッシュして明日巻き返そう」と切り上げて帰るんですよ。

でも根性派の人たちは「無理だけど、頑張った先には何かあるんだ!」と。必要以上に努力し過ぎちゃうし、それを良しとする風潮がある。僕が働き方改革に感じた違和感とは別のベクトルで「働き方改革けしからん、楽しやがって」と思う人は、もしかしたらいるかもしれません……(笑)

旧来型の日本的労働観の意識改革が必要?

城倉さん:また話が逸れちゃいますが、ある東洋思想の研究者の方から伺ったんですが、日本人の思想の根底には、私たちは八百万の神の中で生きているから、畑や田んぼで働くことが、そこにいる神様と一緒にいるということになる。だから、働くことはいいことなんだという考え方があると聞きました。つまり、長時間働くことはいいことなんだという労働観が、古くから染みついているのかもしれないという話です。

一方で西洋の場合は、どちらかというと「働くことは必ずしもよいことではない」と考え方もある。同じアウトプットをできるだけ短い時間でなそう、新たな時間で豊かになろうという発想がある中で、旧来型の日本的労働観と、ここ最近入ってきた西洋的労働観とのギャップは、働き方を変えていくうえで、ひとつの障壁になるかもしれませんね。

井上さん:稲作文化の影響ってあるかもしれませんね、決して農家の方々を悪くいうわけではなくて。マクロな日本経済史を考えた時の、高度経済成長とその後の過重労働問題。稲作は手入れも含め1年中ずっと働きますよね。かなり大変です。

城倉さん:そうですね、1年中。田植えってお祭りするじゃないですか。そこで神様と一緒にお祭りをするということ自体、働くことをフェスティバル化している側面があるというか。その研究者の方はそういうことも言われていましたね。

井上さん:古くから刷り込まれているんでしょうね。何かをアウトプットするってとても大変なことであって、でもやらなきゃいけない。それをモチベートするために「働くのはいいことだ、働く人は偉いんだ」という発想が根づいたと。良くも悪くも。

城倉さん:経済をリードする産業構造が変化するなかで、意識の変化が追いついてこなかった。一次産業から二次産業。二次産業から三次産業へという移り変わりに対して。「意識改革」、必要ですね。


<後編「“生き生き働く”ことこそが非連続な成長を促す」に続く>

【参照】
*1:Goodpatch-生活パターンの見直しで生産性は向上するのか? – SlideShare
*2:Team WAA!とは – ユニリーバ・ジャパン

藤田 隼

SmartHR mag. 2代目編集長。ソーシャル系スタートアップでSNSマーケティングや自社メディア運営に携わり、2015年よりメディアに特化した事業会社で複数サイトのディレクターを経験した後、SmartHRにジョイン。ウェブ解析士。


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