【第3回 人材像WG 速報】人生100年時代の能力「デジタル・アントレプレナーシップ」と普及への障壁

2017.11.29 ライター: 藤田 隼

AIやIoTといった次世代テクノロジーを中心に、第四次産業革命が到来していると言われる中、産業構造の変化はもちろん人の働き方も大きな転換点を迎えています。

「人材力」こそが企業競争力の源泉たる要素として注目され始め、「一億総活躍プラン」の流れの中で「働き方改革」とともに「人づくり革命」などの議論が活発化しています。2017年9月に発足し、HR業界をはじめ各所で話題になっている「人生100年時代構想会議」も、まさに同様の文脈に端を発しています。

その流れを受け、経済産業省主導のもと「我が国産業における人材力強化に向けた研究会(人材力研究会)」が設置され、それに紐づくワーキンググループのひとつ「必要な人材像とキャリア構築支援に向けた検討ワーキング・グループ(人材像WG)」が、2017年10月16日より始動しました。

11月27日に開催された第3回「人材像WG」を聴講してまいりましたので、速報レポートをお送りいたします。

なお背景となる要旨は第1回第2回のレポート記事をそれぞれご覧ください。

第3回 人材像WGのテーマ

前回のWGでは「自己投資をしないマインドセットや企業文化を変えていく必要性」が主なポイントになりました。

この「自己投資をしないマインドセットや企業文化」を変えていくにあたり、具体的に何が必要になるのかについての議論が第3回の主なテーマです。

大きく分けると、下記の2点になります。

  1. 働き手の「学び直し」に対するマインドセットの現状分析を踏まえ、今後どのように働き手のマインドセットを変えていけばよいのか。
  2. 第四次産業革命時代に産業界が求める「能力・スキル」は、具体的にどのようなものか。マインドセットとは別に「IT・データリテラシー」なども含まれるのではないか。また、これを踏まえ、企業ができる取り組みや、社会として整えるべき仕組みは何か。

これらを議論するにあたり、出席されたゲストスピーカーは、デジタルハリウッド大学大学院 教授の佐藤 昌宏氏でした。

以下に佐藤氏のプレゼンの内容を紹介します。

「人生100年時代における社会人の学びの新潮流 ―スキル転換― 」

デジタルハリウッド大学大学院 教授 佐藤 昌宏氏

佐藤氏は、デジタルハリウッド大学大学院の教授として、「教育にイノベーションを起こす」ことを目的にテクノロジーを活用したサービスやコンテンツを開発したり、イノベーター育成、業界全体を盛り上げていく活動や研究実践を展開しています。

人生100年時代の“学ぶ”を後押しする学習プラットフォーム「MOOC」の登場

人生100年時代にあって、社会人になってからも学び続ける仕組みが必要になることは、これまでの議論でも展開されたとおりですが、「新しい学びの潮流」が生まれているのもまた事実です。

具体的には「MOOC(ムーク)」(Massive Open Online Courses の略)という、オンライン学習システムが普及し始めていることが挙げられます。

2015年には、ビジネス交流サイトの米リンクトインが、オンライン学習サービス米リンダドットコムを約15億ドル(約1,500億円)で買収するなど(*1)、海外では一大マーケットとして確立されつつあるほか、日本でも「Schoo」や「JMOOC」などのオンライン学習プラットフォームが盛り上がりを見せています。

従来の人生のタイムラインは、多くの人々が「学ぶ」→「働く」→「リタイア生活」という1本のルートを歩む画一的なものでしたが、これからの人生100年時代においては、「学ぶ」と「働く」をパラレルに繰り返すようになると考えられます。

このパラレルなタイムラインにおける「学ぶ」を後押しするにあたって、安価かつ時間に縛られず気軽に学ぶことができる「MOOC」が注目されるようになりました。

「なぜ学ぶのかを理解できない」という根本的課題

このように、社会人になってからも気軽に学べる環境が増えつつあるのは、「自己投資をしないマインドセットや企業文化」を変えるにあたって、ひとつの突破口となり、社会人になってからのスキル習得を後押しするかもしれません。

しかし、佐藤氏は同時に大きな懸念があることを問題提起しています。

それは、「なぜそのスキルが必要なのか、そのスキルを使って何をしたいのか。つまり、“なぜ学ぶのか”を理解できていない」受講者が少なくないことです。

以下にわかりやすい例を抜粋します。

■ ファブリケーションでの例

講師「これで3Dプリンターやレーザーカッターの使い方は覚えましたね。これで皆さんは何でも作れます。さあ、どうぞ好きなものを作ってください!」

学習者「何を作れば良いのでしょうか。。作りたいものがないんですが。。」

つまり、本来は手段であるはずの「学ぶ」や「スキル習得」自体が目的になってしまっており、何を成し遂げるのかをそもそも考えられていないことを佐藤氏は問題視しています。

IQやEQと並び重要になる「DQ」という能力

この問題に対するひとつの案として、これからの時代に求められる能力として「DQ」の考え方を用いることを佐藤氏は提案しました。

DQとは、Digital Intelligence Quotientの略で、「デジタルテクノロジーやデジタルメディアを効果的に使う能力」のことです。

DQは、3段階に分けられると考えられます。

■レベル1: Digital citizenship(デジタル・シティズンシップ)
デジタルテクノロジーやデジタルメディアを、安全に、責任をもって、効果的な方法で使う能力

■レベル2:Digital creativity(デジタル・クリエイティビティ)
デジタルツールを用いて新しいコンテンツを創ったりアイデアを形にしたりすることによって、デジタルエコシステムの一部となる能力

■レベル3:Digital entrepreneurship(デジタル・アントレプレナーシップ)
グローバルな視野での問題解決や新しい価値の創出のために、デジタルテクノロジーやデジタルメディアを使う能力

中でも、レベル3の「デジタル・アントレプレナーシップ」こそが今後求められる能力であるとしています。

要は、社会や市場の課題解決に求められるソリューションは何なのかを紐解き、そこで必要になるスキルや情報を定義し、デジタルテクノロジーやデジタルメディアを活用できるような能力であると考えられます。

佐藤氏はこれを、「実装人材」と表現しています。先述したファブリケーションでの例は、ある一定のスキルを習得した「実務人材」ではあっても、課題解決に繋がるかという点ではまだ未熟で「実装人材」とはいえないでしょう。

人生100年時代においては「実務人材」をいかに「実装人材」へと成長させ、輩出していくかは今後のリカレント教育におけるキーポイントになりそうです。これは何もデジタルに限った話ではなく、様々な面で応用すべき考え方といえるでしょう。

特に、欧米で浸透している「Learning is Earning」というマインドのように、「習得したスキルで価値を創出しお金を生んでいく」という意識へと改革していく必要がありそうです。

意見交換のハイライト

自由討論では、佐藤氏のプレゼンテーション内容を踏まえ、活発に意見が交わされました。

特に、垣見氏(伊藤忠商事 人事・総務部長)による大企業視点での意見をはじめ、「学び続ける環境づくり」を進める上で、必ず立ちはだかるだろう懸念事項がいくつもあがりました。

伊藤忠商事株式会社 人事・総務部長 垣見 俊之氏

「学習」と「効果・評価」を関連付けられていない現状課題

中でも、具体的かつ根深い課題として、以下の2点があげられると感じます。

(1)学習と評価がリンクしていない
大企業などでは「学習」と「評価」を結びつけづらい現状がある。例えば、研修担当部門と評価担当部門とで別々になっており、何を学んでどんな成果を出し結果的にどう評価されたかが、てんでばらばら。そのため「研修が収益に直結しているのか? 課題解決に繋がっているのか?」が見えづらい。

(2)学習効果が可視化されず、成功事例を生かすことができない
学習効果を可視化できていないため、「その研修が誰々を成長させた、成果に繋がった」という成功事例を共有することができず、モチベーションを喚起できない。

もちろん上記以外にも、これまでのWGであがったように、そもそも仕事を早く切り上げて学ぶことに後ろめたさを感じ、公言できず、「隠れキリシタン」にならざるをえない、そうであるならばそもそも学びたいと思わないような、意識面での課題もあるはずです。

どのようにモチベートし、「自分ごと化」させるか?

エッセンス株式会社 代表取締役 米田 瑛紀氏

それではどのようにすれば、上記の課題が解決され、自律的キャリア形成や学び続けることへのモチベーションを喚起させる仕組みをつくることができるのでしょうか?

まず、垣見氏はこれからの時代、企業が念頭に置くべきことについて、下記3点の重要性を取りあげています。

  1. 「自らの強みを作りたい」という気持ちを引き出していくような会社の仕組みが必要ではないか。
  2. 個人が学んだことを一覧にして管理するなど、学んだことを次のキャリアに活かすための仕組みがなければ、現時点でモチベーションが低い人たちへのドライバーにはなりにくいのではないか。
  3. モチベーション向上は、企業の経営戦略としても重要。給料や福利厚生などあらゆる面から「この会社は本気で取り組んでくれている」という姿勢を社員に見せることが重要。

 

また、佐藤氏が「学習」「効果・評価」という観点で「人事データベース」の必要性について言及しています。

これを紐解くと、学習履歴や客観的事実に基づく効果をデータベースに記録し、具体的成果や人事評価と関連付け一元管理することで可視化していくなども考えられるかもしれません。垣見氏が触れた「個人が学んだことを一覧にして管理するなど、学んだことを次のキャリアに活かすための仕組み」とも大きく関わります。

もちろん地方ではいまだ根付かない「IT」をどのように当たり前の存在にしていくかも合わせて考える必要がありますが、HRテクノロジーによって仕組み化する余地は大きそうです。

一方、上記の仕組みづくりは前提条件にほかならず、米田氏(エッセンス株式会社 代表取締役)や宮島氏(株式会社社会人材コミュニケーションズ 代表取締役社長)が言及したように「どのように自分ごと化させるか」「いかに自分ごとにできるのか」といったことも重要となるでしょう。

加えて、具体的施策を検討していく中で、「2-6-2の法則」における「どの層をターゲットにするのか」も明確にする必要がありそうです。

株式会社社会人材コミュニケーションズ 代表取締役社長 宮島 忠文氏

まとめ

以上の内容をカンタンに整理すると、

  • これからの時代に求められる能力は「DQ」
  • 中でも「デジタル・アントレプレナーシップ」が重宝される
  • 課題解決志向を持つ「実装人材」としてスキル習得を価値創出に繋げお金を生んでいくことが大切
  • 「MOOC」などの学習プログラムは台頭しつつあるが、「個人が学び続ける意識改革や仕組みづくり」は低調
  • 「学習効果と業務成果」が可視化されておらずモチベーション喚起されていない

といったような背景や潮流がある中で、これを「どの層をターゲットにし、どのようにモチベーションを喚起していく仕組みづくりを促進するか?」が今後の議論のポイントになっていきそうです。

また、国や企業主導の学習プログラムなのか、あるいは個人主導なのかに関わらず、学習それ自体は「課題解決」の手段に過ぎないということを今一度認識すべきでしょう。

 

今回のWGでは、上記に整理したプレゼンや意見交換ハイライトのほか、より幅広い議論が展開され、当速報レポートとしては収録しきれないと判断し、佐藤氏のプレゼンに端を発する議論を中心に整理させていただきました。

特に、経済産業省 産業人材政策室 出光補佐による「働き手の『学び直し』に対する考え方、産業界が求める能力・スキル」の調査・分析結果は非常に示唆に富む内容でした。同アンケート概要については、経済産業省 産業人材政策室のFacebookページ「人生100年時代の働き方と学び方 ~新時代を勝ち抜くための人材戦略~(by 経済産業省 人材室)」よりご覧ください。

この調査は「転職したいけどできていない方々」の意識や実態に関する調査等であり、「学び直しの開始年齢の理想は、30代より前」との回答が半数以上である一方で、「キャリア・スキルの棚卸し」や実際に学びなおしをしている割合が低いなど、興味深い結果が示されております。

経済産業省 産業人材政策室 出光補佐

議事要旨や配布資料は、順次、経済産業省ホームページより公開される予定です。

【参考】人材力研究会委員名簿(敬称略)

■ 「必要な人材像とキャリア構築支援に向けた検討ワーキング・グループ」委員
垣見 俊之 伊藤忠商事株式会社 人事・総務部長
諏訪 康雄 法政大学 名誉教授【座長】
西村 創一朗 株式会社HARES 代表取締役
米田 瑛紀 エッセンス株式会社 代表取締役

■ 「中小企業・小規模事業者・スタートアップ等における中核人材の確保・活用促進に向けた検討ワーキング・グループ」より参加
小城 武彦 株式会社日本人材機構 代表取締役社長(代理:矢野社長室長)
宮島 忠文 株式会社社会人材コミュニケーションズ 代表取締役社長

■ ゲストスピーカー
佐藤 昌宏 デジタルハリウッド大学大学院 教授

【参照】
*1:米リンクトイン、オンライン学習サービス社を買収 – 日本経済新聞

藤田 隼

SmartHR mag. 2代目編集長。ソーシャル系スタートアップでSNSマーケティングや自社メディア運営に携わり、2015年よりメディアに特化した事業会社で複数サイトのディレクターを経験した後、SmartHRにジョイン。ウェブ解析士。


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