【第2回 人材像WG 速報】会社に黙って自己啓発する「隠れキリシタン」が増えているワケ

2017.11.10 ライター: 藤田 隼

AIやIoTといった次世代テクノロジーを中心に、第四次産業革命が到来していると言われる中、産業構造の変化はもちろん人の働き方も大きな転換点を迎えています。

「人材力」こそが企業競争力の源泉たる要素として注目され始め、「一億総活躍プラン」の流れの中で「働き方改革」とともに「人づくり革命」などの議論が活発化しています。2017年9月に発足し、HR業界をはじめ各所で話題になっている「人生100年時代構想会議」も、まさに同様の文脈に端を発しています。

その流れを受け、経済産業省主導のもと「我が国産業における人材力強化に向けた研究会(人材力研究会)」が設置され、それに紐づくワーキンググループのひとつ「必要な人材像とキャリア構築支援に向けた検討ワーキング・グループ(人材像WG)」が、2017年10月16日より始動しました。

昨日11月9日に開催された第2回「人材像WG」を聴講してまいりましたので、速報レポートをお送りいたします。

なお背景となる要旨は第1回のレポート記事をご覧ください。

ワーキンググループの様子

第2回となる今回は、「前回のワーキンググループの議論では、主体性を持って経験学習を積み重ね、体験総量を上げることや、兼業・副業(複業)などを通じた意識改革の重要性が挙げられたが、これらを後押しするためにできることは何か。」ということが論点になりました。

具体的には、下記のようなポイントです。

  1. グローバル化する世界や、多様な働き方・学び方を踏まえ、「人生100年時代の社会人基礎力」を常に発揮し、活躍し続けるために必要な人材のマインドは何か?
  2. 個人の経験を後押しするために、企業ができる取り組みや、社会として整えるべき仕組みは何か?

この2点を考えるにあたり、出席されたゲストスピーカーは次の3名です。

  • 慶應義塾大学大学院政策 特任教授・高橋 俊介氏
  • NPO法人 キャリアコンサルティング協議会 会長・藤田 真也 氏
  • NPO法人 日本学生社会人ネットワーク 代表理事・真坂 淳氏

以下に、その内容を以下に紹介します。

慶應義塾大学大学院政策 特任教授・高橋 俊介氏

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授の高橋氏は、「変化の時代のキャリア自律とリカレント教育」というテーマでのプレゼンテーションでした。

その中で、自律行動の重要性を説き、主に3つの行動を取りあげ、それぞれ下記のように定義しています。

1. 主体的ジョブデザイン行動

  • 自分の価値観やポリシーを持って仕事に取り組んでいる
  • 社会の変化、ビジネス動向について、自分なりの見解を持っている
  • 部署・チームを超えて、積極的に周囲の人を巻き込みながら仕事をしている
  • 仕事の進め方や企画を立てる上で、今までの延長線上のやり方ではなく、自分なりの発想を持って取り組んでいる
  • 自分の満足感を高めるように、仕事のやり方を工夫している

2. ネットワーキング行動

  • 新しいネットワークづくりに常に取り組んでいる
  • 自分のネットワークを構成する個々人が、どんなニーズを持っているかを把握し、それに応えようとしている
  • 自分の問題意識や考えを社内外のキーパーソンに共有してもらうようにしている

3. スキル開発行動

  • 今後どのようなスキルを開発していくか、具体的なアクションプランをもっている
  • スキル・能力開発のために自己投資をしている

これらは、仕事の内的満足度や主体的なキャリア評価、社外での通用感などに有意に相関するとし、自分らしいキャリアを築くにあたっての重要な要素であるとコメント。その中で、企業は「キャリア自律推進」についてどう取り組むべきかに関し、下記の必要性を説いています。

  • 会社としての考え方やトップのコミットメントを伝達
  • 個人のマインドセットへの働きかけと個の支援
  • 個別のキャリア形成のための多様な機会提供

しかし、日本が「リカレント教育」を推進していくにあたって、まだまだ課題は山積みであることにも言及。

特に、「ホワイトカラーの自己啓発が低い」「体系的に学びなおすことがない」「正解主義の資格制度」などの課題は根強く、深い学びをしていないと苦言を呈し、社会を見据えた人材育成の有無や若年者離職率に応じ、雇用保険料率に差をつけるなどすることによって、「社会でのリカレント教育」の財源にしてはどうかといった趣旨の提言をされていました。

NPO法人 キャリアコンサルティング協議会 会長・藤田 真也 氏

NPO法人 キャリアコンサルティング協議会 会長の藤田氏は、企業内キャリアコンサルティングの事例をもとに「キャリア自律を促すために必要なこと」というテーマでプレゼンテーションを行いました。

藤田氏は、キャリアコンサルティングを機能させるにあたって、高橋氏同様、「言われるがまま働く」人々が多いことを危惧し、これからの働き方を考える上で「キャリア自律」をキーワードとして取りあげています。

加えて、上司や第三者との深い対話を通し、成功体験を発見し気づかせる(自覚化)ことの重要性についても触れ、自律的キャリア形成を支援し促していくために、

  • 目標管理制度の中にキャリア自律の視点を組み込めないか
  • 上司のマネジメント力評価基準の中にメンバーのキャリア自律支援の項目を組み込めないか
  • キャリア研修を個人の成長・発達という視点から再編集できないだろうか

という3つのポイントを踏まえた「仕事を通して成長・発達を支援する人事制度」の必要性について提言されていました。

NPO法人 日本学生社会人ネットワーク 代表理事・真坂 淳氏

BNPパリバ銀行東京支店グローバルバンキング本部でマネージングディレクターの真坂 淳氏は、日本に漂う「閉塞感」と国際金融の最前線で感じる「危機感」に対し、何かアクションできることはないかという問題意識に端を発し、特定非営利活動法人日本学生社会人ネットワーク(以下、JSBN)の代表理事としても活躍中です。

JSBNが大切にするものの中には、「組織に隷属せず、高い志を持ち、ピンで立つ人を目指す」「自分の人生を自分でデザイン」などがあり、高橋氏と藤田氏の提言同様、「主体性」がキーポイントとなりそうです。

JSBNでは、中学生・高校生向けのキャリア教育をはじめ、世代や組織を超えたネットワークを築いていますが、人生の選択肢の多様性を啓蒙する中で、危惧すべきポイントについても言及。閉塞感のある日本の中で働く大人を見てきたことで、「夢はない」「なんで夢が必要なのか」と感じる子どもがいるだけでなく、夢があったとしても「医者」「弁護士」などの職業名が返ってくるだけで、「具体的に医者や弁護士になって何をしたいのか?」という、職業名の先にあるものをイメージできていないケースが多いようです。

それに対して、「どんな人になるか」「一生涯かけて何を成し遂げるか」「どんな世の中をつくるか」の3つが見えているかが大事であると語っています。この「3つが見えている」ということに加え、「圧倒的努力を惜しまぬ人」「好奇心旺盛で引き出しが多い人」をカッコイイ大人の3要素であるとし、中高生あるいは大学生のモデルケースとしてネットワーキングしているとのことです。

意見交換

各ゲストスピーカーの刺激的な提言に対し、非常に多くの意見が交わされました。

その中でも、やはりキーポイントに上がったのは「主体性」「自己投資・自己啓発」でした。

HARES代表の西村氏は、「まだまだ世の中には受け身姿勢の人が多い」「夢を持つことはもちろん、それ以上に夢を実現するための主体的な行動が大切」とコメント。

株式会社日本人材機構 社長室長の矢野氏は、東京に勤める管理職人材を対象とした同社の調査において「あなたを取り巻く労働環境が改善し、平日の労働時間が毎日2時間減ると仮定した場合、あなたはその時間をどう使いますか?」という設問に対し得られた回答結果としては、1位「帰宅して過ごす(41%)」2位「趣味スポーツに使う(30%)」3位「自己啓発(15%)」であり、高橋氏同様にまだまだ低い自己啓発意識について触れました。

一方、諏訪座長は、リカレント教育に対する課題として、個々人の「金がない、時間がない」といった障壁に加え、各企業での理解がない、あるいは理解があっても支援が乏しく、会社に明かさず自己啓発に励む、いわば「隠れキリシタン」にならざるを得ない状況にあると述べています。これらのハードルが主体性を削いでいる側面もあるのではないかとも考えられ、企業経営者や上司が、従業員個人のキャリア自律をサポートする仕組みづくりの重要性が迫られそうです。

真坂氏や伊藤忠商事 人事・総務部長も、「イキイキ生きる大人をどう増やすか、どう支援していくか?」について考えていかなければならないと発言。

また、プロ人材のマッチングサービスを提供するエッセンス株式会社代表の米田氏は、ミドル層におけるキャリア自律・キャリア再構築の観点から、大企業に勤める中核人材を、資本関係の無いベンチャーやスタートアップに送り込むことで、経営レイヤーまたはそれに近いレイヤーで経験を積ませる、新たな出向モデルについて提案。国としても、法定雇用率に近いルールを設けるなどして、門戸開放することで、そもそも主体性を発揮できる仕組みづくりも必要になることを示唆しています。

今回のワーキンググループをかいつまむと、次回以降の議題としては、「自律的なキャリア形成における、主体的な自己啓発を促す仕組みづくり」「正解主義・事例主義を排し、体系的に学びつづける仕組みづくり」といったポイントに対して、産官学でどのようにアクションしていくかが主な論点になりそうです。

(プレゼンテーション資料や意見交換などの詳細なる議事要旨は、追って経済産業省よりアップロードされる資料をご覧ください。)

フォトギャラリー

【参考】人材力研究会委員名簿(敬称略)


■ 「必要な人材像とキャリア構築支援に向けた検討ワーキング・グループ」委員
垣見 俊之 伊藤忠商事株式会社 人事・総務部長
諏訪 康雄 法政大学 名誉教授【座長】
西村 創一朗 株式会社HARES 代表取締役
米田 瑛紀 エッセンス株式会社 代表取締役

■ 「中小企業・小規模事業者・スタートアップ等における中核人材の確保・活用促進に向けた検討ワーキング・グループ」より参加
小城 武彦 株式会社日本人材機構 代表取締役社長(代理:矢野社長室長)
宮島 忠文 株式会社社会人材コミュニケーションズ 代表取締役社長

■ ゲストスピーカー
高橋 俊介 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授
藤田 真也 特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会 会長
真坂 淳 BNPパリバ銀行東京支店グローバルバンキング本部 マネージングディレクター、特定非営利活動法人日本学生社会人ネットワーク 代表理事

藤田 隼

SmartHR mag. 2代目編集長。ソーシャル系スタートアップでSNSマーケティングや自社メディア運営に携わり、2015年よりメディアに特化した事業会社で複数サイトのディレクターを経験した後、SmartHRにジョイン。ウェブ解析士。


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