【人事のプロが斬る働き方改革 #3】人事制度運用のコツは「ABテスト」での積極的なトライ

2017.11.08 ライター: 藤田 隼

前回の「働き方改革の成否は「経営合宿」で決まる?」編はこちら


人事のプロとして活躍中の、プロ・リクルーター 河合聡一郎さん と 社会保険労務士法人シグナル代表 有馬美帆さん をお招きし、対談形式でお送りする【人事のプロが斬る働き方改革】。

第3回となる今回は、「人事制度運用のコツ」についてお届けします!

働き方改革の施策検討は「マルバツ」が良い?

藤田:前回までのおさらいをすると、「働き方改革」の大前提として経営者のコミット、そして自社の経営方針に応じた課題抽出が必要不可欠、というのが主な内容でした。続いて、実際に導入・運用フェーズでのポイントについて、是非ご意見をお聞かせ願えればと思います!

河合さん:経営方針と中長期的な計画、それに伴う課題が洗い出すことができたら、ようやくスタートラインですね。具体的に施策の検討や運用フェーズに入っていくにあたって。

河合聡一郎さん。メーカー、リクルートグループ、BizReachの立ち上げ、外資系IT企業等を経て、創業メンバーとしてラクスルに参画。ラクスルでは、人事マネージャーとして活躍すると同時に、複数社の創業や社外人事も兼務し、うち2社のIPOに貢献。2017年5月にハンズオン型の採用コンサルティング、企業投資、HR系サービスを提供する株式会社ReBoostを創業、代表取締役に就任。

有馬さん:そうですね。課題に紐付いた解決策を模索していく。ここではやはり、足し算で考えるべきではありません。

河合さん:引き算で考えるということですよね。

有馬さん:逆に言うと、どうして足し算で考えちゃうかというのは、思いついたものを行き当たりばったりで、個別で見てしまうからなんじゃないかなと思うんですよね。

河合さん:ふむふむ、確かにそうですね。

有馬さん:そこで私思ったんですけど、働き方改革の種類がバーッと沢山ある中で、先にそれをリストにして、「じゃあ自社にはどれが適しているかな」というのをマルバツで考えていけば、自ずと選択肢しぼられてくるので、引き算で考えやすいというアイディアなんですが。

河合さん:あーそれめっちゃイイですね!

有馬さん:働き方改革施策リストの中から、コレは必要ないから「×」、コレは自社に適してるから「◯」、コレはいずれ必要になるかもしれないから△でまた後で考えよう……、といった具合ですね。こうすると、引き算で整理できますね。足し算で1個目コレ入れます、2個目コレ入れます……ってやると、やはり際限ないので。そうするとやっぱり経営方針からはブレてしまいやすいですよね。

マルバツで人事制度の候補を絞ったら「ABテスト」しよう

河合さん:そうですね、例えば「勤怠時間を変えたいんですがどうしますか」って言われても、「手法から入らず、まずはその先にあるゴールを考えよう!」みたいな……(笑) 全体から見てこうしていこう、ああしていこうと決めていかないと。

働き方改革の運用って、それ自体も「改革」していくのが良いと思っていまして、例えば半年くらいのスパンで、各施策のPDCAをまわしていくと良いかもしれません。企業のサイズによっては、全社は難しくても部門や職種ごとに実施すると良いのではないでしょうか。

有馬さん:最近では、人事制度導入にあたりABテストをしつつ検討する、みたいな例も出てきているようですし、とっても参考になるんじゃないかな。

河合さん:そうですね、メルカリ小泉さん(メルカリ 取締役社長兼COO 小泉文明さん)も「WEBサービスと同じように人事制度をつくろう」とおっしゃっていましたね(*1)。施策はその会社だからできる、文脈や背景も多分にありますので、単に表面的に出てきたその手法をまねるよりも、根本にあるこういった考え方自体はとても素敵だなと思います。

有馬さん:その点、人事制度って正式に入れようと思うと、就業規則の不利益変更とかもあるんで、なかなかやれなかったりもするんですよ。

河合さん:うんうん。

有馬さん:でもABテストで試験的に導入するのであれば、不利益変更にはなりにくいのかなと思いますね。なので、課題解決する上で、目的をぶらさないことを前提に、「一旦半年間リモートワーク入れますね」とか「どれくらい副業したい人いるかわからないから、一旦半年間副業OKにしますね」といったように、試験導入し、その都度効果測定しつつ正式導入を検討するというのは、非常に理に適っているんじゃないでしょうか。

河合さん:そうですね! まさに、ユニリーバさんの「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」(*2)は画期的な取り組みだと思います。島田さん(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス 取締役人事総務本部長 島田由香さん)がおっしゃるように、仮運用とともに現場からヒアリングして、どうやらこのあたりがリスクになりそうだから、リスクを潰した上で正式に運用していこう。あるいはそもそもリスクが大きいからやっぱりやめておこう、というのは非常にロジカルで労使双方納得いく形で検討できるのではないでしょうか。

有馬さん:とても参考になりますね!

河合さん:なので、有馬さんがおっしゃったように、半年くらい仮運用して、実際に声を聞きながら、効果測定しながらやっていくのってイイと思うんですよね。ユニリーバさんのような大企業もこのような、軽快なフットワークで実施しているので、ベンチャー企業であれば、経営陣の意識次第で、ハンドリングできる範囲も広く、意思決定のスピードも早いはずなので、もっとやれるんじゃないかなと思います。

有馬さん:やれると思います! 人事の方ってあんまり仮運用やらないんですよ。もっと仮運用として、テストしていって良いんじゃないでしょうか、本当に。9時出勤なのか10時出勤なのか、10時出勤なのか11時出勤なのかっていうのを、効果を見ながらABテストしていくようなイメージで。

有馬美帆さん。社会保険労務士法人シグナル代表、特定社会保険労務士。急成長するベンチャー企業において、企業フェーズに応じた支援を行い、一歩先回りした提案により、お客様の成長を加速させており、IPOコンサルティング・労務トラブル相談・就業規則作成等で特に活躍中。

「働き方改革」施策改善のコツ

河合さん:社名は出せないのですが、自分が出資もしながら4年前の創業から見ていて、社員数が15名ほどで事業も順調に伸びている、とあるスタートアップでは、ABテストを繰り返していますね。会社として「こういう文脈で色々とテストしていくから」とコミットメントしているし、従業員の納得度が高いんですよね。

そうすると、決めきった施策Aを入れるより、施策B・施策C……と挙げて「ABテストした結果これが良かった、だからコレでいこう」とするほうが明確で納得感があり、馴染んでいくと。施策自体はあくまで手段であり、課題解決こそが本来の目的なので、そこさえブレぬよう注意すれば、自ずと良い方向へと進むと思います。テスト段階だからこそ、従業員からも本音のフィードバックをもらえますからね。

藤田:ABテストで効果測定していくにあたっては、定量的な指標が必要かなと思いますが、どのように指標を定義すれば良いでしょうか?

河合さん:働き方改革と従業員の満足度、そして事業成果というのは少なからず比例しているはずで、スコアリングしてあげる必要があるんじゃないかと思います。それらを定点観測していかないと、制度の良し悪しは見えてこないし、改善しようがないですしね。

仮運用で積極的なトライを!

有馬さん:間違いないですね。スコアリングしていくと、制度単体の良し悪しだけでなく、施策別の比較もしやすくなっていきますよね。そうすると、例えば「Aという課題を解決するには、週休3日制を導入するより、フレックス制を導入したほうが●●%良い」といったように、施策別に横断的に振り返ることができますもんね。

河合さん:うんうん、まさにそうだと思います!

有馬さん:定量はもちろんですが、定性情報も大切ですよね。ヒアリング期間を設けて、従業員からの声を拾うことで、新たな仮説も出て、次のプランや改善に生かせたりしますしね。

河合さん:そうですね! 僕が、IPO前から見ている会社さんで、従業員が100人規模になった今でも、継続して従業員の声を聞きながらテストし、運用していますね。これが大企業だとしても、会社全体とは言わないまでも本部や部署単位でヒアリングしてみるというのもアリなんじゃないかと思いますね。

有馬さん:特にベンチャーだと、小回りもきく分、様々なことを試行錯誤しやすいタイミングですよね。

河合さん:逆に仮運用やらない会社さんが現状ほとんどなので、積極的にトライすべきだと思いますね!


対談を振り返って

3回に分けてお送りした【人事のプロが斬る働き方改革】。ポイントは大きく分けて5つありました。

  • 「働き方改革」はそれ自体が目的ではない
  • 経営陣と人事の意思疎通が大前提
  • 経営者のコミットメントが働き方改革の第一歩
  • 経営課題から逆算し、人事施策を「引き算」で考える
  • 導入・運用フェーズではABテストで積極的にトライすべき

これらのポイントが重要なポイントとして語られるということは、逆に考えると、「働き方改革」とは“手段の目的化”を起こしやすい、あるいは実際にそうなっているケースが多いと言っても過言ではないでしょう。

その中で、目的を見失うことなく持続可能な成長を遂げるためには、各社の目標や課題に沿った全体最適のプランニングのもと、それに紐づく個別最適施策を一気通貫で実施・改善していくことが求められるはずです。

今回の対談インタビューが、皆様の会社、あるいは皆様自身の「働き方」と向き合うひとつのきっかけになれば幸いです。

【参照】
*1:成長企業の人事にふさわしい人材とは? サイバーエージェント曽山氏 × メルカリ小泉氏 「強い組織をつくるために必要なこと」(後編) – BizHint HR
*2:ユニリーバ・ジャパン、新人事制度「WAA」を導入 – ユニリーバ・ジャパン

藤田 隼

SmartHR mag. 2代目編集長。ソーシャル系スタートアップでSNSマーケティングや自社メディア運営に携わり、2015年よりメディアに特化した事業会社で複数サイトのディレクターを経験した後、SmartHRにジョイン。ウェブ解析士。


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