なぜ今「働き方改革」なのか? 取り組むべきワケとその本質に迫る

2017.09.19 ライター: 城倉 亮

初めまして、リクルートワークス研究所の城倉 亮です。人材マネジメントを研究領域として日々調査、研究、提言活動をしています。

「SmartHR mag.」では、「人事労務」に取り組む上で、労使双方にとって欠かせない「働き方」を取り巻く、課題やトレンドを中心にご紹介させていただきます。

どうぞよろしくお願いいたします。

撮影:SmartHR mag. 編集部

皆さんもご実感いただけると思いますが、今年に入ってから「働き方改革」という言葉を耳にしない日はありません。

「働き方改革ブーム」が到来している一方で、働き方改革が何を指すものであるのか、世の中の認識が一致していないこともまた事実です。

今回は、そもそも「働き方改革」とは何なのかについて、改めて全体を捉えてみます。

「働き方改革」における3つの方向性

昨年9月に政府の働き方改革実現会議が発足し、今年の3月28日には「働き方改革実行計画」が策定されました(*1)。

その計画のなかで、検討すべき9項目のテーマと、それぞれに対する具体的な施策、2020年時点で達成すべき目標が掲げられています。

この9項目のテーマは、下記の3つに大きく分類されています。

  • 処遇の改善」・・・非正規雇用の処遇改善や賃金引き上げと労働生産性の向上
  • 制約の克服」・・・長時間労働の是正やテレワークなどの柔軟な働き方がしやすい環境整備
  • キャリアの構築」・・・女性・若者が活躍しやすい環境整備や高齢者の就業支援

法律の整備から企業への支援、個人の教育・就業支援まで、すぐに取り組み始められるものから、中長期的に時間をかけて実行していくものまで、幅広く計画がたてられています。

企業における「働き方改革」で欠かせないコミットメント

このように日本全体としての取り組みが政府によって示され、動き出しています。一方で、企業における働き方改革はどのように行われているでしょうか?

昨年7月に経済4団体(経団連、日本商工会議所、経済同友会、全国中小企業団体中央会)の主催による「働き方・休み方改革セミナー」では、「経営トップによる働き方改革宣言」が公表されました(*2)。

働き方・休み方改革を積極的かつ継続的に推進するために、「経営トップの明確な意志表明とリーダーシップの発揮」と「管理職によるマネジメントの徹底と自らの意識改革」がうたわれています。

具体的な取り組み例としては、下記のような項目が挙げられています。

  • 業務プロセスの見直しと効率化
  • 長時間労働の是正にむけた深夜残業の禁止や朝型勤務の導入
  • テレワークの活用
  • 休暇取得促進

企業の人事担当の方々と話していても、多くの企業でこの取り組み例にあげられたような施策が実行に移されているのが現状です。

働き方改革で「場所」と「時間」の制限をなくす

このような働き方改革の施策を整理すると、大きく2つに分類できます。1つは働く「場所の改革」、もう1つは働く「時間の改革」です。

場所の改革」の取り組みでは、オフィスのフリーアドレス化やサテライトオフィスの設置、テレワークの推進といった取り組みがなされています。

PC1台とネット環境さえ整えば、どこでもできる仕事が増えています。

「ワークプレイス≠オフィススペース」という構造が成立するようになってきたからこそ、これらの働く「場所の改革」が、実現可能になっています。

そして、もう1つの「時間の改革」の観点では、長時間労働の是正を主要なテーマに、ノー残業デーの導入、一斉退社時刻の設定、といった施策が実行されています。

また、副業・複業・兼業などの解禁も、企業が個人の時間的拘束をやめるという観点での、働く「時間」の改革と言えます。

「働き方改革」が実現しない組織

このように多種多様な施策が導入・実施されていますが、施策を導入したからといって働き方改革が実現するわけではありません。

制度が導入されても実際には社員が利用せず、実態として何も変化が起きていないケースも出てきています。

例えば、夜の残業を原則禁止し、朝の時間帯に時間外手当を付与して朝型勤務にシフトすることで、労働時間の削減をはかったある企業では、様々な理由をつけて夜の残業を続ける社員が減らず、また、朝早く出勤する社員も増え、あろうことか労働時間が全体で増えてしまう結果となりました。

「緊急課題であるという認識の不徹底」という落とし穴

なぜ、こういった事態が起きてしまうのでしょうか? あるいは、どうすれば、働き方改革が実現できるのでしょうか?

施策を導入しても、組織のメンバーの考え方や行動が変わらなければ何も変わりません。その観点からすれば、働き方改革は社員の意識を根本から変える1つの組織変革だと私は捉えています。組織改革を妨げる要因については、J.P.コッターが著作「リーダーシップ論」で、8つの落とし穴を挙げています。

働き方改革においては、特に「緊急課題であるという認識の不徹底」が大きな落とし穴になります。

世の中の流れを受け、「他社が導入して上手くくいっているから、ウチもこれくらいはやっておこう」という右へ倣えの発想で施策を導入している企業では、社員の意識変革まで徹底して行えているケースはほとんどありません。

働き方改革という組織変革を実現するためには、まず「なぜ今“働き方改革”をしなければならないのか?」を全社員が納得して、意識を変えていく必要があります。

撮影:SmartHR mag. 編集部

「生産性向上」と「インクルージョン」の実現

それでは、なぜ今「働き方改革」をしなければならないのでしょうか?

その理由は大きく2つあると考えています。1つが、これまでの日本人の働き方に根付いている「生産性」への関心の低さを払拭しなければならないということ。

もう1つが、「インクルージョン」を実現していくためには、多様な働き方の社員が活躍できる職場づくりが不可欠であるということです。

「生産性向上」で限られたリソースで成果を出す

まず「生産性」への関心の低さ、という点について見てみましょう。

「正社員の終身雇用」という慣習を背景として、日本の労働者の間には、企業への忠誠心や帰属意識を表すにあたり、長時間働くことを厭わないというワークスタイルが醸成されてきました。

長い時間働くことは嫌なこと、悪いことではないという労働価値観が染み付いてしまっているために、「時間を区切って成果を出す」という発想にならず、残業を前提として働くことが当たり前になっているのが、これまでの日本人の働き方です。

しかし、労働力人口が急速に減少しはじめており、既に一部で人材不足が顕著になってきています。限られた時間、人材で最大限の成果を出していくことが求められていきます。

だからこそ、いま、働き方改革に継続的に取り組むことで、日本人に染み付いた価値観を払拭し、時間当たりの生産性を高めていくことが必要なのです。

「インクルージョンの実現」無しにすべての社員のポテンシャルは引き出せない

そして、2つめは「インクルージョン」の実現です。これまでは長時間働くことを厭わない、制約がない人々に依存した経営が行われてきました。

しかし、労働力人口が減少していくなかで、優秀な人材を確保していくためには、多様な価値観や様々な事情を持った人々が活躍できる環境を整えなければなりません。

私たちはこれまで、育児や介護、自身の健康などの長く働けない事情を持つ社員の方々には「配慮」をすることで職場を形成してきました。

一方、そこには、先ほど述べた長時間働くことを厭わない労働観のもとで、「残業できない人は正式なメンバーではない」という無言の共通理解がベースとしてあったことも事実です。

これではインクルージョンが実現している職場とは言えません。インクルージョンが実現している職場とは「自分の存在は100%許されている、歓迎されている」と、すべての人が信じられる職場です。

今後、労働力人口は減少していく中では、制約のある働き方がこれまで以上に当たり前の職場環境になっていくでしょう。

すべての社員が持っているポテンシャルを最大限発揮するためには、インクルージョンが実現されなければなりません。働き方改革を推進することで、誰もが安心して働ける職場を形成し、インクルージョンを実現させることが不可欠です。

このように、労働力人口が減少するなかでも、グローバルな競争環境を生き抜いていくためには、生産性高く、多様な人材が活躍できる職場を整える必要があるのです。

そのために、私たちは「働き方改革」を進めなければならないのです。

「働き方改革」で各レイヤーにおいて取り組むべきこと

組織で働き方改革を進めるうえで、階層によって取り組むべき改革は異なります。

経営層、ミドルマネジメント、個人のそれぞれのレイヤーでどう取り組むべきでしょうか?

まず、経営トップは「継続的なメッセージの発信」が重要な役割となります。経営トップが本気になって取り組まずに働き方改革が成功している企業はありません。

働き方改革の先進事例として名前の挙がる「伊藤忠商事」や「SCSK」では、経営トップが継続して一貫したメッセージを発信しています。

更に、「ITインフラへの投資」や「生産性を評価指標に組み込む」など、事業運営における非効率そのものを明らかにし、なくしていくことも必要になります。

次に、ミドルマネジメントには「ジョブ・アサインメント」を通じたマネジメント力の向上が求められます。

これまで以上に自分のメンバーの部下の能力の把握、業務の難易度を把握し、メンバーの働き方をいままで以上に把握し、よいアサインメントを実現していく必要あります。

そして個人は、まず旧来型の働き方の意識を捨て「生産性の意識」を高めることです。

その上で、生産性向上を実現できる仕事のスキルを向上させつつ、一方で「仕事を時間内で切り上げる」意識を持つためにも、仕事以外に熱中できるものを持つことが求められます。

転換点を迎えた「日本人の働き方」

労働力人口の急速な減少が始まっているなかで、「働き方改革」は待ったなしの状況です。

これまでの働き方への危機感を持って、新しい働き方を導入しようとしなければ、持続的な経営は実現していきません。

いま、日本人の働き方は転換点にあります。

旧来の日本型の働き方を改め、生産性の高い働き方を実現するために、仕組みだけではなく、まず私たちの意識を変えて、働き方を見直していくことが重要なのではないでしょうか。

【参照】
*1:働き方改革実行計画 – 首相官邸
*2:経営トップによる働き方改革宣言 – 一般社団法人 日本経済団体連合会

城倉 亮

リクルートワークス研究所・研究員。2004年東京大学文学部思想文化学科卒業後、大手航空会社、日系コンサルティングファームを経て、2012年株式会社リクルート(現株式会社リクルートホールディングス)入社。グループ人事労務を担当する部門のマネジャーとしてグループ各社の人事業務を支援。その後、ITベンチャー企業での人事を経て、2015年10月リクルートへ復帰し、現職。
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