なぜ残業代ゼロ法案と批判されるのか? 「高度プロフェッショナル制度」の無視できぬ課題


こんにちは、特定社会保険労務士の榊 裕葵です。

「働き方改革」が推進されようとする中、「高度プロフェッショナル制度」が大きく話題となっています。

2017年7月、労働組合の代表である「連合」の執行部が、この「高度プロフェッショナル制度」を容認することを表明しましたが、組織内での大反対にあって、容認を撤回することになったという、一連のニュースが報道されました(*1)。耳にした方も多いことでしょう。

今回は、「高度プロフェッショナル制度」がなぜ話題となっているのか、どのようなことが課題なのかについて解説します。

「高度プロフェッショナル制度」とは?

そもそも、「高度プロフェッショナル制度」とは、どのような制度なのでしょうか?

大枠のイメージとしては、現在も労働基準法に取り入れられている裁量労働制を発展させ、これまで以上に時間に縛られない働き方を可能にすることを狙いとした制度であります。

「裁量労働制」と「高度プロフェッショナル制度」の違い

より具体的に言えば、主に、次のような点が裁量労働制と異なっています。

一切の割増賃金が支払われない分、年収要件や本人の同意など、適用される要件は裁量労働制よりも厳しくなっています。

なぜ「残業代ゼロ法案」と揶揄され、批判されているのか?

要件だけ見ると、そこまで不合理な制度には見えないかもしれませんが、なぜ「高度プロフェッショナル制度」は「残業代ゼロ法案」と揶揄され、これほどまでに批判を受けているのでしょうか。

私は、その理由は2つあると考えています。

(1)「高度プロフェッショナル制度」は日本的な働き方と相性が悪い

1つ目の理由は、「高度プロフェッショナル制度」は「日本的な働き方」との相性が悪いということです。

欧米の会社の場合は、一般的に個人単位で仕事の責任の範囲が明確になっていますので、高度プロフェッショナル制度によって時間を柔軟に活用したり、仕事が早く終われば何の気兼ねもなく早上がりして、家族との時間を楽しむことができます。

しかし、日本の会社の場合は、組織単位で仕事が回っていて、個人個人の仕事の範囲が不明確なことが多いです。

そのため、一応自分が主担当となっている仕事を終わらせても、組織の仕事が終わっていなければ、際限なく手伝いをさせられてしまい、結果的に残業代がもらえないまま酷使されるという状況を生み出してしまいがちです。

このような日本の労働慣習が、「高度プロフェッショナル制度」導入の大きな反対根拠となっているのです。

(2)「徐々に適用対象が拡大される」ということへの恐れ

2つ目の理由は、「徐々に適用対象が拡大される」ということへの恐れです。

すなわち、最初は適用年収を1,075万円以上としていても、徐々になし崩し的に適用年収が引き下げられる可能性が高いということです。

年収1,075万円ももらっていれば、それなりの好待遇ですので、成果重視の仕事であれば残業代ゼロでも納得する人が多いと思います。心理的な意味で、1,075万円の中にいくらかの残業代が含まれていると納得することもできるでしょう。

しかし、この適用年収が拡大されるとどうでしょうか?

仮に年収400万円や500万円で残業代ゼロが適用されるようになったら、そこに残業代が含まれていると言われても納得できない人が大半だと思いますし、まさに文字通りの「残業代ゼロ法案」ということになるでしょう。

「高度プロフェッショナル制度」で期待される成果

ここまでの批判を受けても、なぜ政府や経済界は「高度プロフェッショナル制度」の導入を望むのでしょうか?

この点、やはり、「国際競争力」という観点が大きいと思います。

高度経済成長期などは、我が国は製造業が中心的な産業であり、おおむね労働時間とアウトプットが比例していました

しかしながら、製造業の中心がアジア諸国に移り、我が国は、石油や貴金属のような資源が豊富な国ではないので、アイデアで差別化を図る高付加価値なビジネスモデルを考えていかなければなりません。

そういった働き方は「時間」で仕事を考えていては実現できないので、「成果」に基づいた柔軟な働き方ができる労働環境を、これまで以上に構築していかなければなりません。

また、優秀な人材は、グローバルスタンダードとしても「時間」ではなく「成果」で評価されることを望みますから、国内の優秀な人材が海外へ流出することを防ぎ、海外の優秀な人材を日本企業に引き付けるためにも、「高度プロフェッショナル制度」のような働き方を可能とする法整備が必要だと考えられているのです。

「高度プロフェッショナル制度」の課題

それでは、現実的に「高度プロフェッショナル制度」が我が国に受け入れられるためには、どのような施策が必要なのでしょうか?

私は、やはり前述した「みんなで頑張る」という日本的な働き方が、導入を妨げる大きな課題になっていると思います。

この点、例えば、

  • 「高度プロフェッショナル制度」の対象者には「ジョブディスクリプション(職務指示書)」を発行して、本人の業務範囲を明確化することを義務化する
  • 契約範囲外の仕事をしてもらう場合には追加の手当を支払う
  • 「職務」と「賃金」を明確に紐づけする

などをもって、本人に安心感を与えることができれば、世論の理解も得られるようになるのではないでしょうか。

それから、年収要件をむやみに引き下げられたり、極端な話で言えば、飲食店やショップ店員のように、「自分の裁量で労働時間をコントロールできない労働者」にまで「高度プロフェッショナル制度」が濫用的に適用拡大されることがあってはならないでしょう。

「派遣法」の時も、最初は高度専門職だけに限って認められていたのが、いつの間にか日雇い派遣までも可能になり、行き過ぎた規制緩和で社会問題になりました。

このような失敗が繰り返されないよう、私たち働く人1人1人が、しっかりと政治を監視していかなければならないと思います。

まとめ

「高度プロフェッショナル制度」は、我が国の国際競争力を維持するためにも必要不可欠という側面は間違いなくありますので、感情論的に「全面的に反対」というわけにはいかないと思います。

どのような条件に基づいて「高度プロフェッショナル制度」を導入すれば働く人が安心して利用できるのか、という視点から、前向きに議論が進むことを期待したいものです。

【参照】
*1:「残業代ゼロ」容認、連合見送りへ 批判受け方針再転換 – 朝日新聞デジタル

特定社会保険労務士 榊 裕葵

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。「社員から信頼される会社作りをサポートする」を経営理念として、顧問先の支援に当たっている。執筆活動にも力を入れており、WEBメディアへの掲載多数。
他の執筆記事はこちら

関連記事

働き方改革特集