雇用中の従業員を「完全歩合制」にすると違法になるワケ

2017.07.28 ライター: 弁護士 浅野 英之

こんにちは。浅野総合法律事務所 代表弁護士浅野英之です。

昨今では、生産性向上と成果主義のもと、できるだけ短時間で成果を出す従業員を評価しようという風潮が強まっています。

それとともに、度々話題に上がるのが、保険や不動産の営業職の求人でよく見かけられる、「完全歩合制(フルコミッション)」という支払方法です。

完全歩合制(フルコミッション)の場合、従業員がまったく成果を上げない場合には、金銭を一円たりとも支払わない、逆に成果を上げる社員には大いに報酬を支払うなど、会社にとって都合のよい制度です。

しかし、安易に完全歩合制を採用すればよい、というものではありません。

労働基準法には、「出来高払制の保障給」という考え方があるからです。

「完全歩合制」と「歩合給」の違いとは

完全歩合制に似ている給与体系として、「歩合給」が挙げられます。

この「歩合給」の場合、固定給については一定額、必ず支払う必要があります。

一定額の固定給を支払っているので、「出来高払制の保障給」という考え方に違反しません。

これに対して、完全歩合制は、固定給が一切ありません

しかし、「固定給が一切ない」という意味での完全歩合制は、「雇用をしている労働者」に対して適用することはできません

雇用している従業員に対する「完全歩合制」は違法

労働基準法には、「出来高払制の保障給」という規定があり、出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない、と定められています。

つまり、歩合制の営業職にある従業員に対して、全く成果があがっていないことを理由に給料を一切支払わない、とすることはできないのです

したがって、「完全歩合制」を、雇用している従業員に対して適用することは違法となりますので注意が必要です。

「完全歩合制」を実現するには?

では、成果の上がらない歩合制の営業職にある従業員に対して、会社はどのような手段を採ることができるのでしょうか。

まず、最低限の保障給(金額については様々な考え方があるものの、平均賃金の60%程度が妥当とされています。)を下回る給与しか与えないことは違法となります。

違反した場合、30万円以下の罰金を科せられるおそれがあります。

そこで、成績が上がらず、会社が指摘してもまったく改善されない場合には、従業員に対する解雇、雇止めなどの方法が考えられます。

また、どうしても完全歩合制を活用したい場合には、会社の従業員として雇用するのではなく、個人事業主との間で「業務委託」という形式をとる方法があります。

業務委託における完全歩合制の報酬の仕組み

完全歩合制の報酬の算出方法は、会社と従業員との間の契約内容によって決まります。

なぜなら、従業員といっても会社に雇用されるのではなく、独立した個人事業主だからです。完全歩合制の場合、契約数や売上げなどの成果に応じて、報酬が算出されます。

よって、完全歩合制の場合、成果がゼロですと、対価もゼロとなります。

「業務委託」とする場合の注意点

このように、完全歩合制を実現するためには、「雇用」ではなく「業務委託」とすることが可能ですが、個人事業主は労働者としての労働法の保護を受けられないことになります。

それゆえ、

・会社側としても時間や場所の拘束を強めることができない
・個別具体的な業務指示を行うことが困難
・他の会社の業務についての管理ができない

などのデメリットが考えられます。

なお、会社が業務受託者に対して強度に時間的、場所的な拘束をしたり、個別具体的に業務命令をしている場合には、形式的には「業務委託」であっても、実態は「雇用」となります。

このようなケースでは、従業員から突然賃金支払請求や残業代支払請求を受けることがありますので、会社にだけ都合の良いやり方にならぬよう、注意が必要です。

弁護士 浅野 英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。企業側労働問題を得意とする石嵜・山中総合法律事務所にて、労働問題に関する数多くの相談対応、顧問先企業の労務管理を行ってきた経験を活かし、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。以降、「労働問題に強い弁護士」として、企業側はもちろん、労働者側の相談にも対応し、労働問題のスペシャリスト弁護士として活動中。特に成長中のベンチャー企業、中小企業の人事労務のコンサルティングに定評がある。
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