残業代目当ての「生活残業」の存在が示す日本の問題点と、その解決方法


こんにちは。アクシス社会保険労務士事務所の大山です。

「働き方改革」の流れを受け、業務の効率化や残業の削減など、労働時間を縮小しようという動きがあります。現場の混乱なく、かつ業績を維持あるいは向上できるのであれば、労使双方これ以上のことはないでしょう。

ただし、必ずしもそれが受け入れられるとは限らず、理由はいくつか考えられますが、ひとつは「現場の混乱を招いてしまう」こと。これは理解しやすいと思います。

しかし、一方で厄介なのは、残業代をあてに生活費を稼ぐことを目的とした「生活残業」です。「残業がなくなっては困る」と胸中で思っている労働者がいるとしたら、わざと手を抜くなど、残業がかさむだけでなく成果も伸び悩んでしまう恐れがあります。

今回は、その「生活残業」について解説するとともに、「生活残業はなくせるか?」ということについて考えてみたいと思います。

そもそも「生活残業」とは?

「生活残業」とは「家族や個人の生活のために、残業代を稼ぐ目的で残業をすること」を指します。逆説的に言えば、「残業代ありきで生活を設計している」ということでしょう。

会社側と従業員側、双方にある大きな問題点

ここには、「会社側の管理面」と「従業員側の意識」とに大きな問題点があります。

表裏一体ともいえるこの問題点は、まず会社側としては「会社が与えた従業員一人ひとりへのタスクを完遂するための工数を把握できていない」こと。一方の従業員側は「工数を把握されていないのをいいことに、与えられたタスクの工数を勝手に水増ししている」ことです。

プロジェクトを組んで、工期・工数・構成員・タスクのスケジュールを、プロジェクトマネジャーが管理する建設やITなどの現場では考えにくい現象ですが、「限定期間での成果物が明確でない継続事業」の多くの業種では、いまだにこのような「生活残業」がまかり通っているといえます。

「生活残業」がまかり通るなら先進国から取り残される

昨年(2016年)12月に日本生産性本部が発表した労働生産性の国際比較では、2015年の1人当たりの労働生産性では、日本はOECD加盟35か国中22位(先進国では、米国が3位、フランスが7位、イタリアが10位、ドイツが12位等)、また、2010年~2015年の労働生産性の上昇率は、実に28位だといいます(*1)。

「生産性」ですから、ひとつの仕事にあたる人数や時間が多くなれば、生産性は落ちるわけです。内向きな「生活残業」が「生産性」の低い原因のすべてではありませんが、「生活残業」というガラパゴスが、ここでも孤立する日本を想起させます。

「生産性至上主義」では、これまた困る

では、「ひとつの仕事を完遂させる時間を短くすることで生産性を上げる」という意識改革が必要なのでしょうか?

製造業やサービス業においては、そうではないと思っています。米国に代表される欧米型先進国で企業の最優先課題は、「市場ニーズに即した新製品をタイムリーに投入すること」で、「(ユーザーの不満に直結する)新製品による事故率」には、あまりこだわりません。

「顧客満足度」を生産性の犠牲にするのは慎重な判断を

日本の企業が欧米の企業と業務提携等をすると、ユーザーを大切にする「日本的顧客満足度優先主義」との考え方の違いが露呈し、企業間の摩擦の原因になります。

生産性を上げるなら欧米型の方が良いことに疑う余地はありませんが、「顧客満足度」という点を生産性の犠牲にすることには、慎重でなければならないのではないでしょうか。

すなわち、なりふり構わず生産性の振り子を反対側に振るのではなく、顧客満足度はこれまで通り維持しつつ、できうる中で生産性向上を図るなど、重要視する業績指標の中での優先順位決めと取捨選択が必要だと思います。

生活残業をなくすには「プロジェクト管理」がひとつの解決策

さて、話を「生活残業」に戻します。

「生活残業をする理由」としては、「給料が安いから」、「ほしいものを買うなど一時的にお金が必要だったから」などだといいます。

本当に基本給が安く、残業代が生活費の基盤として定着し、そのことを会社が容認しているなら外からとやかく言うことではありません。

しかし、会社側が収益に見合った労働分配率の改善を図りつつ、一方で無駄な残業を減らしたいと思っているなら、前半に挙げた「プロジェクト管理」の考え方を、広く取り入れることがひとつの解決策になるのではないでしょうか。

「プロジェクト管理」には管理職や人事部門の覚悟が必要

それには、現場の管理職や人事部門の覚悟が必要です。現場の管理職には、メンバーのタスク量や進捗度の正確な把握、チェックポイントごとに遅れが生じた場合を想定したリスクマネージメントの必要性が生じます。

また、従業員のタスクを一人ひとり関連付けることで、進捗の相対性を持たせます。もし、従業員が他の従業員と関連することなく一人で進めた方が効率が上がるなら、人事部門には、その人にはフレックスタイム制を適用するなどの環境整備が必要になります。

「ノーワーク、ノーペイ」の原則とよく言われます。この意味は、「働いていない時間に、給与は出さない」とでもいうのでしょうが、ワークをタイムカードの時間の長さではかるのではなく、成果ではかる覚悟はできているでしょうか。

会社・従業員双方が、ビジョンやミッション、重要視する業績指標をすり合わせることで、空中分解を防ぎ、一体となって目標に向き合えるよう改善していくのがよいでしょう。

【参照】
*1:労働生産性の 労働生産性の 国際比較 – 公益財団法人 日本生産性本部

社会保険労務士 大山 敏和

神奈川県央、厚木市に事務所を構えるアクシス社会保険労務士事務所代表。東名厚木インター至近につき他都県にも対応可能。中小および創業間もない企業の人事労務、労働・社会保険のみならず、人材育成コンサルティングに至るまでカバーし企業の成長をサポートします。助成金受給は人事面での優良企業の証として積極的に提案し、長期間にわたる社内環境の整備と受給手続きに対応します。
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