年俸制で注意すべき「ボーナスと残業代計算」の意外な盲点


6月に入り、いよいよやってくる夏のボーナスを前にウキウキしている方が多いことでしょう。一方、「年俸制だからボーナスなんて関係ない!」と最初から気にしていない方も中にはいらっしゃるかもしれません。

ところで年俸制といえば、筆者は以前、クライアント様から「年俸制を導入したい」というご相談を受けたことがあります。その社長は、このような考えをお持ちでした。

「年俸制にすれば、給与額が毎月一律になる」
「残業代の計算をしなくてもいい」
「労働時間の把握をしなくてもすむ」

さて、このような考え方は、「労働法」の観点からみるとどうなのでしょうか?

本記事では、年俸制の導入に当たり、誤解を招きやすい注意事項を解説していきます。

そもそも「年俸制」の仕組みとは?

そもそも「年俸制」とは、1年間にわたる仕事の成果によって、翌年度の賃金額を設定しようという制度です。「成果主義型賃金制度」のひとつといってもよいでしょう。

労働基準法第41条でいう「管理監督者」や第38条3項等の「裁量労働制」で働いている従業員に適した制度と言えます。

月給だけでなく「賞与も年俸に組み込む」場合や、諸手当の一部は別で残すなどで、企業ごとに設計段階で様々なバリエーションが考えられます。年俸制の導入には、就業規則の変更が必要です。

なお、年俸の支給方法としては、「毎月1回以上払いの原則」に従い、12分割して支払われることが多いでしょう。

年俸制だからと言って「残業代の支払い」を免れるわけではない

前述のように、「残業代の計算をしなくてすむ」ことを理由のひとつとして年俸制導入を考える企業もあるようですが、裁判例では、年俸制自体は「時間外労働に対する残業代の支払いを免れる効果はない」とされています。

ですから、仮に従業員と「年俸制を適用することにより時間外手当の支給はしないものとする」などという契約を結んだとしても無効になります。

年俸制を採用することによって、残業代を払わなくてもよいことにはなりませんし、対象者の労働時間も適正に把握しなければなりません。

年俸制における「ボーナス」と「残業代」の計算方法

また、年俸制においてはボーナスとの兼ね合いから、残業代の計算が複雑になります。

年俸の18分の1を「月給」として支払い、18分の6を二分し、18分の3ずつ7月と12月に「ボーナス」として支給するといった、ボーナスを含む年俸を例に考えてみましょう。

労基法では、残業代の計算に含めなくてもよいものとして、「臨時に支払われた賃金」と「1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」があります。

行政通達では、残業代の計算の基礎から外してもよいボーナスとは、「支給額があらかじめ確定されていないもの」をいい、「支給額が確定しているものはボーナスとはみなされない」とされています。

ですので、年俸制において毎月の給与部分とボーナス部分が合計して確定されている場合のボーナス部分は、残業代の計算の基礎から外してもよい「ボーナス」にはあたらず、「臨時に支払われた賃金」と「1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」のどちらにも該当しないことになります。

つまり、今回の例における残業代は、「月給」ではなく「月給+ボーナス」を基準として、計算することになります。

年俸制での残業代を抑えるには「業績連動型賞与」にしたほうが賢明

前項で解説したように、「ボーナスを含めた年俸」を採用する場合の割増賃金の計算は、「ボーナス部分を含めて残業代の基礎額を計算する」必要があります。

厚生労働省の通達では、年俸額の12分の1を月における所定労働時間数(月によって異なる場合は、1年間における1か月平均所定労働時間数)で割って基礎額を計算し、割増賃金を支払うように求めています。もし、年俸額でカバーしきれない部分はきちんと支払うようにしましょう。

ここから導き出される結論は、年俸制を採用する場合でも「労働時間の把握」が行われ、それに基づいて「給与の計算」も行うことが必要であるということです。

年俸制において、漏れなく支払うことを前提に残業代を抑えるには、ボーナス額を確定させるのは避け、業績連動型賞与にしたほうが賢明かもしれません。設計する段階でよく検討してみることをお勧めします。

このように、年俸制は、管理職や専門職には適しているかもしれませんが、全ての従業員に適用させるのは慎重になった方がよいでしょう。

社会保険労務士 倉橋 和之

社労士事務所に約1年勤務を経て平成23年11月開業。専門分野は、助成金申請業務を起点にした人事労務支援や資金調達支援。自身の開業経験を活かして事業計画書や経営改善計画の策定をメインに、起業者支援も行っている。


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