「キャリアアップ助成金」の不正受給がバレた企業はどうなるのか?


助成金に少しでも関心を持っている事業主の方や人事担当者の方は、この「キャリアアップ助成金」という言葉を一度は聞いたことがあると思います。

こちらの記事をご覧いただいている方の中には、ご活用されている事業者の方もいらっしゃることでしょう。

この「キャリアアップ助成金」は、企業にとって心強く人気のある助成金のひとつですが、その裏で、不正受給する事業者もいるようです。

今回は「キャリアアップ助成金と不正受給事業者の末路」について解説します。

キャリアアップ助成金は「年間最大1,080万円」の受給が可能

「キャリアアップ助成金」にはいくつかのコースがあり、平成29年4月1日の改正で、従来の3コースから8コースに変更されていますが、中でも広く利用されているのは「正社員化コース」と「人材育成コース」の2つです。

まず「正社員化コース」は、半年以上継続雇用した有期契約社員を正社員に転換するなど、社員の雇用形態を改善した場合に、対象者1人につき最大で72万円が受給できるというものです。1年間15人までを対象にすることができますので、1社最大1,080万円が受給できる計算になります。

次に「人材育成コース」は、有期契約社員に対して、一定の要件を満たすOJT、Off-JTを組み合わせた職業訓練を実施すると、訓練の実施1時間につき最大で960円が支給されます。また、訓練に外部講師を利用した場合には、外部講師への報酬や教材費などに対し訓練対象者1人につき最大で50万円が支給されます。こちらは、1年間に1社最大1,000万円の支給枠となっています

このように、キャリアアップ助成金は受給できる金額が大きく、また、どのような規模・業種の会社でも利用することができますので、非常に人気のある助成金の1つとなっています。

不正受給が発覚すると「刑事罰」「社名公表」などのペナルティ

しかしながら、魅力的な助成金であるがゆえ、残念ながら「不正受給」に手を出してしまう会社もあります。

過去には、キャリアアップ助成金の「人材育成コース」を支給申請したが、実際には「職業訓練を行っていなかった」ことが発覚し、経営者が詐欺未遂、有印私文書偽造・行使の疑いで書類送検されたという事例もありました(*1)。

助成金の不正受給を行おうとすると、上記のような刑事罰を受けるだけでなく、不正受給を行った(未遂含む)以後3年間は、雇用関係の助成金の申請が一切できなくなってしまいます

また、労働局のホームページで社名を公表されたり、ニュースで報道されたりもしますので、顧客・取引先・社員・金融機関など、関係者からの信頼を失い、事業運営に甚大な影響が出る恐れもあるでしょう。

助成金の不正な申請は、絶対に行わないようにして下さい。

なぜ「不正受給」が発覚するのか?

「ちょちょっと書類を操作すればバレやしない」などと軽く考えてはいけません。労働局の審査官の目は誤魔化すことができないと考えて下さい。

都道府県にもよりますが、現在、キャリアアップ助成金は支給申請から支給決定まで、「正社員化コース」は約半年、「人材育成コース」は1年近くかかっています。

なぜそんなに時間がかかるのかというと、申請件数が多いので順番に審査をしているということもありますが、審査官が書類の隅々まで目を通し、不正の疑いが無いかをチェックしているからです。

「人材育成コース」では訓練日誌と出勤簿との照合が行われる

たとえば、「人材育成コース」であれば、日々の訓練内容を本人が直筆で書いた訓練日誌を提出するのですが、1日1日、出勤簿との照合が行われます。訓練日誌に「今日は○○な訓練をしました」と書いてあったのに、出勤簿ではその日が「有給休暇」になっていたら、明らかにおかしいですよね。もちろん、単なる誤記入の場合もありますが、そのような矛盾点が何か所も見つかったら、「不正受給の可能性が高い」と判断されるでしょう。

「正社員化コース」では社員の直筆署名・押印が必要

また、「正社員化コース」では、もともと正社員で雇用した人を「当初は有期契約社員だった」と偽って支給申請することは違法です。ただ、申請以前の段階で、申請書類の中に「私は当初有期契約社員でした」という内容の書類に本人が直筆で署名押印をしなければなりませんので、「キミは正社員では無かったことにして、サインをしてくれ」と言ったら、本人と会社の信頼関係も崩れるでしょうし、仮に本人を説き伏せて署名をさせたとしても、審査官が直接本人に確認をすることもありますから、そこで不正が発覚する場合もあります。

本人には雇用形態を曖昧にしたまま、途中で正社員に転換をしたことにして支給申請をするということも考えられますが、そういった場合も、例えば就業規則では正社員にしか支給されないはずの手当が契約社員の時から支払われているとか、定期昇給は正社員しか対象ではないのに、契約社員の間に定期昇給の対象になっていたとか、そういった矛盾から不正受給は発覚します。

繰り返しになりますが、「審査官の目は誤魔化せない」ことを認識し、不正受給には絶対に手を出さないようにしましょう

なお、社員の立場の方は、事業主から頼まれると断りづらいとは思いますが、助成金の不正受給に協力したら、「詐欺罪の共犯」にもなりかねません。絶対に加担しないようにして下さい。

清く正しい「助成金申請」を

キャリアアップ助成金に限らずですが、年々、助成金の申請にあたっては、必要な添付書類が増えたりとか、審査項目が細かくなったりとか、審査が厳しくなっています。

例えば、「人材育成コース」の訓練日誌は昔はワープロ打ちでも良かったのですが、訓練日誌を不正に作成するケースがあったようで、それを防ぐために現在では手書き必須になってしまいました。

不正をすればするほど、いたちごっこで審査は厳しくなりますので、スムーズに助成金を受給するためにも、適正な助成金の申請を心がけたいですね。

 

【参照】
*1:「キャリアアップ助成金」欲しさに元従業員の職業訓練を偽った男 書類送検(産経WEST)

特定社会保険労務士 榊 裕葵

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。「社員から信頼される会社作りをサポートする」を経営理念として、顧問先の支援に当たっている。執筆活動にも力を入れており、WEBメディアへの掲載多数。
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