業務命令を拒否する従業員に、会社は業務を強制することはできる?

2017.01.10 ライター: 弁護士 山口 政貴

「部下が業務命令に従いません」……このような話はいつの時代にもあり、頭を悩ませている管理職や社長などは少なくありません。

しかし、そもそも使用者(上司や社長など)は労働者に対して業務を強制することは可能なのでしょうか。

まず、会社と労働契約を締結すると、労働者は「労働力を提供する義務」を負うことになります。

そのため、業務遂行のために使用者が行う業務命令が、「就業規則の合理的な規定」に基づく相当な命令であれば、労働者はその命令に従う義務があります。つまり、会社には業務命令権があり、労働者が業務命令に従わない場合、業務命令違反となります。

だからと言って会社は労働者に対して業務内容を問わずに強制することは可能なのでしょうか。具体例を挙げながら見てみましょう。

業務命令の拒否

「ペーパードライバー」は理由として通用するのか?

例えば、会社が労働者に運転業務を命じたところ、「私、ペーパードライバーなんで、社用車を運転するなんてできません!」と言われて、拒否されたとします。

ペーパーだろうと何だろうと、運転免許を持ってる以上、会社としては「そんなのは理由にならない、業務命令違反だ!」と言いたくなるところです。

しかし、ここで考えておかなければいけないことがあります。労働契約では、使用者と労働者の双方が、相手の利益に配慮した誠実な行動をとることを求められるということです。

会社であれば、労働者の生命や健康を職場における危険から保護するために、労働者に配慮するよう求められます。

先ほどの例では、労働者が運転免許を取ってから一度も公道で運転したことがなく、ペーパードライバー歴が長いような場合に、そのような事情を会社が知った上で、あえて運転業務をさせることは、労働者の生命や身体を危険にさらす行為ともいえます。

そうすると、業務命令を拒否することもやむを得ず、業務命令違反とはならないと考えることもできます。

例えば、飛行機での出張を命じたところ、高所恐怖症で飛行機に乗れないと拒否されたような場合も、先の例と同じように考えることができます。

宗教上の理由による場合

次に、会社の重要なイベントへの参加を命じたところ、宗教上の予定で参加ができないと断られた場合はどうでしょうか。

この場合には、先の例のような労働者の生命や健康への配慮という観点からではなく、憲法上保障された「信教の自由」という観点からも考えなければなりません。

この点、イベントへの参加を強制したとしても、信仰の自由を直接的に侵害するわけではありません。

しかし、「宗教上の予定」が信仰の核心部分と密接に関連する真しなものである場合には、会社はできる限り労働者に配慮し、業務命令違反として扱うことを避けるべきではないでしょうか。

不公平感を生じさせないことが大事

以上で見てきたとおり、「真にやむを得ない特別な事情」がある場合、会社はそれにできるだけ配慮するべきだと思われます。

ただし、特別な事情とはいえ、従業員の中には不公平感を抱く者がいるかもしれません。

不公平感を払拭できないような不合理な業務命令の拒否に対しては厳しく対処するべきでしょうが、真に大切なことは、労働者に不公平感を抱かせないような、働き方の多様化を許容する職場環境作りを進めていくことではないでしょうか。

弁護士 山口 政貴

大学卒業後2年間のサラリーマン生活を経て、平成15年司法試験合格。平成17年弁護士登録。都内の複数の法律事務所勤務を経て、平成25年に神楽坂中央法律事務所を設立。個人の相談のみならず、会社関係の相談も多い。また、北は北海道、南は九州まで、全国各地からの依頼を受けている。サラリーマン経験を最大の武器とし、大規模事務所にはないきめ細かい法律サービスを提供すべく、日夜奮闘中である。
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